きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第25話 ジャイさん品定め作戦、お誘い編

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 これが恋だというなら、なんて最悪な始まりなのだろう。
 セックスから始まった男女が付き合う。うまく行く可能性は、そんなに高くはないはずだ。
 男はセックスするのがゴールだと、誰かが言っていた。女はそれが始まりなのに。
 男女の気持ちの温度差はそうして発生する。気持ちのすれ違いはすぐに破局に繋がる。
 始まっても、終わってしまう。

――好きだったの。

 そう言って泣いたのは、ほんの三週間前。
 またあんな思いをしなければいけないのか。
 誰かを好きになれば、いずれ別れる時にこれでもかと打ちのめされる。好きで好きで好きで。その気持ちでいっぱいだったのに、いとも簡単に終わってしまう。
 風船がぱちんと弾けるように、あっけないものだ。

 どんよりと曇った空を見上げる。持っていた傘を握りしめ、ため息をこぼした。
 通勤途中のサラリーマンが私を追い越していく。その背中に、やっくんの背中を重ねる。
 あの日、見送った背中。
 もう二度と見ることの叶わない背中。
 上背のあるやっくんはスーツがとても似合っていた。働く男の背中は頼もしくて格好良い。あの背中についていきたかった。
 隣をずっと一緒に歩けたら、どれだけ幸せだったろうか。
 結婚しようと言ってくれたやっくんに、笑顔で「YES」と答えていたら、今と違う未来があったのだろうか。
 その方が幸せだったのだろうか。それとも、不幸に落ちていくだけだったのだろうか。

 いつだって、自分の選択を間違っていたとは思いたくない。
 思い悩んで、自分が出した答えを、誤っていたと思いたくない。

 ……でも。

 かぶりを振って、腕時計を見る。始業時間が差し迫っている。急がなければいけない。私の周りを歩く人たちも足早に会社を目指している。

 今日は、ジャイさんが久々に来る。システムの件で打ち合わせの予定が入っているのだ。
 システム開発でしょっちゅう私の会社に訪れていたジャイさんだが、最近は顔を出す回数が減ってきていた。システムもほぼほぼ出来上がっていて、後は私たち社員の意見を参考に多少の改良を試みているだけで、稼動はもうすぐだ。
 そのため、やりとりはメールが多く、ジャイさんは自分の会社で缶詰状態で働いているらしい。
 今週に入ってから、一度も会っていない。来週もデートだなんて言っていたけど、デート出来るんだろうか。
 どうするのか聞こうと思ったけど、今更ながらジャイさんのメアドを知らなかったことを思い出した。やっくんと別れた日、会社用のケータイに電話をかけたことから、ジャイさんは私の番号を知っているようだが、私はジャイさんのプライベートの携帯番号さえ知らないのだ。

「あー……」

 急に結論が出る。
 なんてこった。私とジャイさんは、希薄な繋がりなのだ。
 お互いのプライベートな連絡先さえ把握してない。
 そんなの、どう考えたって、お遊びじゃないか。

「遊びか」

 納得した。順を追って考えれば、結論はすぐ出る。
 馬鹿らしい。
 遊びに付き合うほど、私は飢えてない。別に男なんていらない。今は恋なんてしたくない。傷つくのはまっぴらごめん。どうせ男は浮気する生き物だ。本気で恋したって、無駄!

 はっと鼻息を飛ばして、早足に進む。通勤途中だというのに思い悩む自分に活を入れるため、傘を強く握る。 明けない梅雨空を睨んで、スカートの幅限界まで足を広げて歩く。

 でもさ、でもさあ。

 本当は誰かにそばにいてほしい。
 独りでいるのは辛いんだよ。

 いつまでも気持ちは右往左往。道の真ん中であっちに行くべきかこっちに行くべきか悩んでる。
 矛盾してばかりで、自分の心が見えない。
 どこに行けばいいのか、わからない。


 ***

「佐村、これ」

 目の前の席から、ぬっと手だけが現れた。握りしめられているのは、伝票の束だ。

「……川田さん。いつからの伝票ですか」
「今月頭から」

 こめかみがひくつく。営業の川田の物忘れの激しさっぷりは私の堪忍袋の緒を見事に切ってくれる。

「いつも言ってますよねえ。伝票はすぐに出して下さいって」
「すまん、悪気は無い」
「あったらただじゃすまないですよ! 殴りますよ。殴っていいですか。平手打ちとげんこつと浣腸どれがいいですか。選ばせてあげるだけの心の余裕はありますよ」
「全然、心の余裕を感じないんだが」
「わかりました。平手打ちですね」
「何も言ってねえだろ!」

 寝癖を直し忘れたみたいなぼさぼさ髪をさらにぐしゃぐしゃにして、川田は後ずさる。
 いつかこいつを隅田川に落としてやろうと誓った。早く春にならないかな。隅田川沿いで花見でも企画して突き落としてやるのに。

「あ、こんな時間だ。営業先に行ってきまーす」

 後ずさったままカバンをつかむと、川田はさっさと逃げてしまった。
 ちっ。逃げ足だけは速いんだよな。

「佐村さん、相変わらず怖いですねー」

 のん気な声が聞こえて、はっとする。
 川田と入れ違いで、ジャイさんが入口に立っていたのだ。

「おはようございます」

 薄い唇に爽やかすぎる営業スマイルを張り付かせ、ぺこりと会釈してくる。
 隣に座っている岸川さんがにこやかに「おはようございます」と挨拶を返したから、私も慌てて頭を下げた。

「システムが正式に完成したので報告に来たんです」

 ――シラフでエッチすれば?

 急に舞子の言葉を思い出して、顔が火を噴いたように熱くなる。

「会議室を借りてるんで、今からいいですか?」

 パソコンに入ったスケジュールを確認する。そうだ。ジャイさんとの打ち合わせだ。

「はい」

 妙に慌てふためきながら、ノートとスケジュール帳を手にとって、会議室に向かうジャイさんの背中を追った。
 会議室に入り、ジャイさんを奥の席に座らせ、私も息を吐きながら席についた。
 こほんと咳払いをしたところで、私の後輩の女の子がお茶を出してくれる。「失礼致しました」と頭を下げて後輩が出て行くのを見送り、もう一度咳払いした。
 右耳がドアの閉まる音を捉える。途端に、緊張感が増す。

「本当は一対一で打ち合わせする必要無いんですけどね。職権乱用ってことで」

 ジャイさんはそう言っていたずらっ子みたいに笑い、お茶をすすった。

「あの」

 聞きたいことがあるような気がして先に声を発したけれど、なにが聞きたかったのかわからず、言葉に詰まる。

 ――シラフでエッチすれば?

 舞子の言葉がまたもやリフレインする。
 シラフでエッチって、どうするの? 色気でも出しゃいいのか? どっから出るの、色気! 脇の下? 口? 鼻? 髪の毛?
 ストレートに誘えばいいんじゃない? ジャイさん、私とシラフでエッチしようぜ!

 ……アホか! 出来るか、んなこと!

 絶対、舞子にそそのかされてる。ていうか、シラフでエッチに何の意味があるの?!

「凛香ちゃん、どうしたの? 百面相の練習?」

 いつの間にか、変顔百連発していたらしい。

「あ、いや。あの、友達にジャイさんとシラフでエッチしろって言われちゃったもんで……」
「え」
「え?」
「えーと……」
「え、えええええ」

 今、私、とんでもないこと、言っちゃいましたよね?

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拍手いただけると嬉しいです!

あとがき↓
拍手やコメント、ありがとうございます。
ほんとにほんとに励みになってます(涙)

お返事はこちらです。

投稿小説サイト「小説家になろう」でも、この作品を連載しています。
なろうがリニューアルしたのですが、ちょっとサイトが安定して稼動していないようなので、しばらく更新を待とうと思ってます(^^;
なろうとのお付き合いも長いので(笑)、気長にサイトの安定を待ちます(^^)

こちらは今までどおり週1程度の更新でやっていきます。


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【2009/10/09 01:52】 | Deep Forest(恋愛)
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