きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第23話 タイ料理屋で愛の告白?

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 始まりも終わりもはっきり見えない。
 いつから始まるのか、いつ終わるのか。めちゃくちゃになった心はいつも惑っていて、入口も出口も見つからない。
 やっくんへの思いは消えず。
 なのに、隙間から入り込んでくるジャイさんの存在。
 恋なのだろうか? 寂しさが生んだ幻想じゃないの?
 やっくんは? ……会いたい気持ちは、まだここにいる。
 出口のない迷路にいるのをわかっていて、そこから出ることも出来ず、あっちに行ったりこっちに行ったり。そんなことを繰り返す私は、どこに向かおうとしているのだろう。
 まるで……深い森を彷徨っているかのようだ。
 誰かの手をつかんだと思っても、姿は見えず。影を追い続け、深く深くにはまり込む。
 気付けば脱け出す術もわからず、見上げても空は見えない。

 どこにも希望を見い出せない、闇の森。

 助けてほしい。私をここから連れ出してほしい。
 そう思うけれど、私はすでにわかっている。

 ここから脱け出すのは、自分の力だ。自分の心だけが、ここから脱け出す術を見つけることが出来る。

 だから。


 ***

 新宿の夜は明るく、喧騒に溢れる。居酒屋の勧誘の海を通り過ぎて、ジャイさんが予約をとっていたというタイ料理屋に行った。
 古臭いビルの二階にあるお店は、十畳ほどくらいの大きさしかなく、四人テーブルがずらりと並んでいるだけの簡素な造りだった。
 客は奥に三人、手前に二人しかいない。土曜の夜なのに、繁盛してるとはいえないようだ。

「ここ、うまいんだよ」

 イグサの座布団に座る。目の前にはガネーシャだっけ? 象の神様のブロンズ像が飾られていた。
 うまい、と言われれば、なんとなく納得してしまう。まだ何も食べてないけど、路地裏にある頑固オヤジが経営するうまいラーメン屋みたいな雰囲気が、そう感じさせるのだ。

「デートでこういうところ行くって。ベタじゃなくない?」

 笑いながら聞くと、ジャイさんは腕を胸の前で組んで大きくうなずいた。

「凛香ちゃんはこういう方が好きそうな気がした」
「それはそれでショックなんだけど。小奇麗でおしゃれな店より、えーとなんだ? こういうちょっと裏通りっぽいのが似合うってことでしょう」

 わざと頬をふくらませて怒ったフリをしてやる。
 やっくんとのデートは決まって『おしゃれな店』だった。本当は新橋のガード下とか、オヤジくさいところにも連れて行ってほしかったりしたんだけど、言い出せなかったのだ。

「通っぽいのが好きそうってことだよ。怒るなって。本当にうまいしさ」

 まずはビールで乾杯して、適当に料理を頼む。空芯菜の炒め物とかタイ焼きそばとか生春巻きとか海老せんべいとか。
 出てきた料理はジャイさんの言うとおりおいしかった。

「今日はありがとね。気を使ってくれたんでしょ」

 タイミングを見計らって、お礼を言う。ふられて気落ちする私を元気付けようとしてくれたと、思うから。

「気を使うって、なんで? 俺は凛香ちゃんとデートしたかったから誘っただけだよ」
「口うまいよねえ」
「チャンスだし。逃す気ないから、俺」
「またまた」

 ジャイさんの言うことは三割嘘と思って聞くことにしてる。私をからかってるだけだろう。

「本気だっつーのに。聞く耳無いよなあ。どうすれば俺の言うこと信じる?」
「……じゃあ、逆に聞くけど。なんで私のこと好きなの? 信じられない」

 酔っ払った女がエッチを誘った。それにのった。それで始まった私たち。
 本気になるなんて、あり得る? 体目当ての遊び以外、ありえない。

「こういうところで告白はなあ」

 空芯菜をぽりぽりと噛みながら、ジャイさんは苦笑いする。

「言えないんじゃん。どのみち、私は誰かとどうにかなるつもりはしばらく無いし。遊びなら他を当たって下さいね」
「遊びじゃねーつーの。遊びだったら、こんなしちめんどくさいことしてないで、とっととセックスしてるよ」
「はっきり言いますね。しちめんどくさいって、そういうこと言う?」
「だーかーらー。一緒にいたいと思ってんだよ。……なんだ、その。始まり方が良くなかったのはわかってるよ。だから、ベタなデートしたいんだっつの。めんどくさいって言い方は悪かったって。そういう意味じゃないんだよ」

 髪の毛を掻き、眉をしかめるジャイさんは、あからさまに困り顔だ。ジャイさんて、恋愛のことは口下手? もしかして、照れ屋?

「凛香ちゃんが思っている以上に、俺は真剣だよ? どうすれば伝わる?」

 迷い猫が拾ってほしそうな顔をするな!

「わ、わかんない。そんなの。だって、それに、ほら……」

 ジャイさんが真剣な顔を作るから、私の方が恥ずかしくなってきてしまった。色々言いたいことはあるのに、上滑りして出てこない。「えっと、だからさ」と意味不明な言葉を羅列して、最後には一気にビールをあおってしまった。

 ええい。もう知らん! この話はおしまい!



 ***


 最後のビール一気が効いたのか、足がおぼつかなくふらふらする。終電近くになり、タイ料理屋を出た私たちは駅の方面へと向かって歩いていた。
 ていうか、ジャイさんと飲む時って、いつもこうなってないか?

「さっきの話だけどさ」
「はー? 聞こえなーい」

 聞こえてるけど、聞こえないふり。デロデロの酔っ払い状態で、んな話聞けるか。

「……酔っ払ってる時に話すのは止めるよ。次、シラフの時にゆっくり、な」
「んー」

 あいまいに返事をする。なんとなく酔いは覚め始めて来たけど、酔っ払った演技をした。
 なんとなく、怖くなった。真剣な話をすることが。

「じゃ、また会社で」
「ん」

 名残惜しそうに、ジャイさんの手が私の髪に触れた。

「明日は日曜だし、もう少し遊ばない?」
「嫌」

 はっきり拒否してやったのに、ジャイさんは吹き出して笑うだけだった。

「しょうがない。来週もデートね」
「……いつも勝手に決める」
「でも、うんって言うでしょ?」

 言わないよ! そう言うつもりが、声は出なかった。来週の日曜は予定が無い。だから、遊べるんだよな、とぼんやりと考えてしまったのだ。

「楽しみにしてるよ」

 ジャイさんの唇が、私の唇の右端に触れる。チュ、と小さな音だけ立てた、軽いキス。

 呆然とする私をよそに、ジャイさんはにんまりとえげつない笑みを浮かべ、駅へと続く地下通路に降りて行ってしまった。

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どうでもいいあとがき↓
空芯菜、好きなんです。にんにくでいためたやつ。
しゃきしゃきしててうまいんですよ!

ちょっと苦味もあるので、そういうのが苦手じゃない方はぜひ食べてみてください(^^)


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空芯菜、好きなんです。にんにくでいためたやつ。
しゃきしゃきしててうまいんですよ!

ちょっと苦味もあるので、そういうのが苦手じゃない方はぜひ食べてみてください(^^)

【2009/09/28 02:50】 | Deep Forest(恋愛)
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