きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第21話 しょうがないからY

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 滅多に吸わない煙草をくわえ、ベランダで息を吐き出した。勢いよく口から飛び出た煙は星の光を曇らせる。
 じりじりと火種の音を響かせて、フィルター越しの煙を吸い込んだ。

 いつの間にか、煙草を買うのに識別カードが必要になったらしい。そんな情報を今更知るほど、私は煙草と遠ざかっていたのだ。
 失恋の後は、なぜだか無性に煙草が吸いたくなる。自販機では買えなくて、わざわざコンビニまで行って買ってきた。

 ふ、と息を吐く。そのたび、口元から溢れる煙を見て、馬鹿だなあと再確認する。

 空しくて、寂しい。
 誰もそばにいないことが、こんなにも堪えるってわかっていたけど、わかってなかった。
 次の恋愛。新しい恋。
 それをすれば、心にぽっかり穴があいたようなこの気持ちを忘れることなんて簡単だろう。
 次の恋に進もうと思えば、私には道がある。

 ジャイさんがいる。

 ラッキーなことだ。こんなにもそばに次の恋愛が控えてるなんて、恋をうまく立ち回る女やモテる女じゃなければ、そうそう無い話だと思う。
 だけど……ひっかかる。

「寂しいだけだもんなあ……」

 言葉に漏れる。
 そう、寂しいだけなのだ。相手がジャイさんである必要なんてないし、私にとってはたまたま近くにいて言い寄ってくる都合のいい男で、逆を返せば、ジャイさんにとっての私は簡単にオトせそうなラッキーな相手なのだ。

 失恋したての女なんて、簡単にほだされる。
 それがわかってるから、私に寄って来るんだろう。

 始まりが悪かった。
 私がどう言い繕ったところで、ジャイさんからしてみれば、私は『簡単にヤレる女』だ。「私は誰とでもエッチする女じゃありませんから!」なんて言ったくせにディープキスを許してしまった。
 あんなんじゃあ、口だけ女。押せばヤレる女と認定したことだろう。

「絶対好きになんない!」

 好きになって、傷つくのは私の方だ。
 ジャイさんのあの飄々っぷりじゃあ、どう考えても本気の恋になんてなりようがない。
 私が割り切って、寂しさを紛らわせるためのつなぎの男として付き合えるなら、たぶんそれなりにうまくやっていけるだろうけど、あいにく私はそんな器用じゃない。
 付き合うなら、本当に好きになる。
 セフレみたいな真似なんて、できっこない。

 絶対好きになるべきじゃない。

 ――やっくんに会いたい。
 彼の優しさに甘えて、別れようって言ったけど本当はやっくんが一番好きで離れたくないんだよって、言ってしまいたい。

 でも、そんなこと、しちゃいけない。

 夜の冷たい空気は、心を惑わせる。
 固く誓った思いを、簡単に崩壊させる。一人の夜は、怖くて寂しい。

「あーーー! やだもう!」

 ぐだぐだぐだぐだ。いつまでこんな風に好きだなんだとやってるつもりなんだ。あっち行ったりこっち行ったり、定まらない気持ちをどこに収めればいいのか、全くもってわからない。

「あほーーーーー!」

 思わず叫ぶと、弟が窓をがらりと開けて、怪訝そうに私を見た。

「今、俺のこと呼んだ?」
「あほーって言ったんだよ。あんた、アホって呼ばれて反応したの? アホだねえ」
「……夜中に叫ぶなよ。近所迷惑だな」

 心底飽きれたとでも言いたげに、ジト目で見てくる。

「ねえ、ほー」

 弟の名を呼ぶと、「なんだよ」とめんどくさそうに返事してくる。

「マリオカートやらない?」

 満面の笑顔で聞いたのに、弟は仏頂面だ。ムカツク。

「何時だと思ってんの? 俺、受験勉強してんだけど」
「息抜き息抜き」
「してる暇なんてねえし」
「……お前、かわいい彼女の郁ちゃんだっけ? あの子に語ってやってもいいんだぞ? 五歳の時に幽霊にびびってちびった話」
「お、覚えてねえよ!」
「やあねえ。お姉ちゃんはしっかり覚えてるわよう。よし、電話して話してあげよっと」

 折りたたみ式のケータイをぱかっと開いてボタンをいじる。
 弟は窓ガラスをガタガタとつかんで、「ケータイの番号、知ってんのかよ!?」とくらいつく。
 もちろん、知りませんけど。お答えはいたしません。

「あ、郁ちゃん。この間はどうもー! ごめんねえ、夜に。あのね、ちょっと面白い話があってさあ」
「ちょっ、姉貴! 嘘だろ!?」

 電話なんてしてませんがね。弟と遊ぶのって、楽しい楽しい。

「マリオカート、やる?」

 にこっと笑いかけたら、弟は「わかったから、電話切ってくれ」とがっくりと肩を落とした。



 ***


「システムのサンプルです。試してみていただいて、明日の会議で感想をいただけますか?」

 パソコンを立ち上げると、ログイン画面が現れる。サンプル用のIDとパスワードを打ち込んだら、TOPメニューがずらりと並んだ。

「このあたりは以前のシステムを参考にしていますので、あまり変更していません。一番上から説明しますね」

 システムの変更は順調ではないが着々と進んでいる。
 今日は出来上がったサンプルの試用説明で、ジャイさんは課の担当者に説明して回っている。
 椅子に座り、パソコンを睨む私の横で、ジャイさんが真面目な顔で説明を始める。こうやって仕事の話をしてるのを聞くと、それなりに出来る男なんだろうなあとおぼろげに思う。
 システムなんていう、わけのわからないジャンルだからこそ、そう思うだけなんだろうけど。

「以前はここに品番を入力する形だったんですが、あ、そうです、そこ。商品名でも大丈夫なので……ちょっといいですか?」

 身を乗り出し、キーボードを打ち始めた。半身をずらしたけど、少しだけ密着したジャイさんの体から、ほんのりといいにおいがする。
 思わず、フンフンと嗅いでしまった。香水なのだろうか? それともファブリーズ?

「なに、犬みたいなことしてんですか?」
「あ、すいません。つい」
「佐村さんて、匂いフェチ?」
「いえ、指フェチです」

 素直に答えたのに、ぶっと吹き出されてしまった。
 なんだよ、聞かれたから答えただけじゃん。

「入力をしたら、検索をしてみて下さい」

 説明がまた始まったから、画面に視線を戻す。
 商品検索のためのページにはコードを入力する欄があり、通常であれば品番か商品名を入力するはず。

 だが、そこには、六文字の全く関係のないことが入力されていた。

『土曜デートね』

「か!」

 勝手に決めんな! と怒鳴ってやろうと思ったけど、ここは社内だ。口を押さえ、目で訴えてやるが、ジャイさんはいつものごとくどこ吹く風。さっさとその文字を消して、次の説明に移ってる。

『14時。新宿駅』

「ば!」

 馬鹿じゃないの! と言いかけるが、ここは社内だってば! 自重しろ、私!

『あけといてね』

 ジャイさんと目が合う。『あけてくれるよね?』と言いたげな目線に、負けてしまった。

「は、そ、で……」

 一生懸命断る理由を考えるけど、何も思い浮かばない。週末暇な女だと思われるのは癪なのに!

『Y? N?』

 YES OR NO? そう聞きたいんだろう。
 次々に入力されていく文字を目で追いながら、私はようやく、自分の手を動かした。

『しょうがないからY』

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あとがき↓
拍手やコメントありがとうございます。
お返事はこちらです。


友達とゴハン食べながら、9時間もだべってました。
お客さん少なかったけど、迷惑な客!!
店員さん、ごめんなさい。

・・・よく話すネタが尽きないな・・・女ってすごい。


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友達とゴハン食べながら、9時間もだべってました。
お客さん少なかったけど、迷惑な客!!
店員さん、ごめんなさい。

・・・よく話すネタが尽きないな・・・女ってすごい。

【2009/09/21 05:32】 | Deep Forest(恋愛)
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