きよこの書き散らかし小説。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Deep Forest

目次へ
TOPへ

第15話 森のクマさん、出会いの一言

+++++++++++++

――バイバイ。

 そう言って別れたのは、ゴールデンウィークが始まる少し前だった。もうあの日から一ヵ月も立っていることに、今更気付く。
 やっくんに奥さんがいるとわかったあの日――奥さんが私に電話してきた日――に、私とやっくんは今みたいに居酒屋で話した。

「奥さんが、いたんだね」

 唐突にそう言った私を、やっくんは見てくれなかった。目を泳がせ、口につけたビールをゴクリと飲み込んで、喉仏をゆっくり上下に動かした。
 ジョッキをテーブルに置いて、少し上ずった声で「誰に聞いたの」とつぶやいた。
 その一言で、あの電話の主が本当に奥さんで、やっくんは結婚しているんだと悟った。

「奥さん本人から。携帯電話、見られちゃったんじゃない」

 やっくんは素直な人だし、嘘をスマートにつけるようなタイプじゃない。女の影くらい、奥さんならたやすく気付いただろう。
 それでも、一年もの間、何も言わずにやっくんの行動を見守っていたのだとしたら、居たたまれない。
 気付かなかった私の、鈍感さもまた、情けなかった。

「どうする」

 鼻でスウと息を吸い込み、やっくんは懇願するように私を見た。

 どうする? 判断を私に委ねるって、ずるいんじゃないの? ――そう思った。

「どうするもこうするも、ないじゃない」

 それだけ言って、テーブルに三千円を叩きつけた。


 くやしかったし、悲しかった。
 私はやっくんにとって浮気相手で、それに気付きもせずに「私、幸せ」なんて浮かれまくっていた自分が、滑稽に思えた。
 どんなに好きでも、どんなに想っても、超えてはいけない壁がある。
 浮気も不倫も、絶対にごめんだ。

 騙された気がした。

 ――けれど。


***


『今、どこにいるの?』
「トイレ」
『戻って、彼氏と話して来いよ』

 トイレの角でうずくまり、ジャイさんの声を必死に聞き取る。携帯電話をつかんだ手はじわりと汗が滲み、力が入りすぎて指が痛い。

「いやだ」
『大丈夫だって。俺がいるじゃん』
「全然励ましにならない。ジャイさんの一匹や二匹、いても嬉しくないもん」
『ひどいわー。俺のガラスハートが今砕け散った』
「銃で撃っても割れないくせに」
『凛香ちゃんの言葉は大砲並だから』

 軽口が心地いい。
 これから重大な話をしにいかなければならないと思うと、心は漬物石を抱えたみたいに重苦しい。
 だけど、ケリをつけなきゃいけない。
 
『ほら、行って来い』
「――うん」

 うなずいたくせに、動けない。

『凛香ちゃんはやれる子でしょー』
「うん」
『だったら、ほら』
「お詫び、してよね」
『お詫びって?』
「私のこと、置いてった」

 笑い声が聞こえる。なぜだか、指からすっと力が抜けた。ジャイさんののん気さは、私から肩の力をぬいてくれる。

『わかったよ』
「行って来る」
『おう』

 電話を切って、立ち上がった。鏡に映った自分を睨みつける。きりりと眉毛がつりあがる。目に力を入れれば、全身にほどよい緊張感がみなぎった。

 弱音も、本音も。

 今、吐いた。

 だから、大丈夫だ。


 ***

 テーブルに置かれたグラスは、すでに汗をかいたように濡れていた。ひんやりとした感触を楽しんだ後、くいと飲み込む。
 ピーチフィズの甘さが口中に広がる。

「凛香」

 やっくんはいつも最初の一杯はビールだ。その後は焼酎や日本酒を好んで飲む。
 けど、今日はきっと、このビールだけで終わるだろう。

「俺は凛香と一緒にいたいんだ」

 率直過ぎる一言に、私は出かかっていた言葉を飲み込んだ。

「離婚する」

 やっくんらしくない早口が、彼の焦りを示している。
 ほんのりと頬を紅潮させ、真剣な眼差しを向けてくる。冗談で言ってるんじゃないと、すぐにわかった。
 グラスをつかんだ両手が冷える。氷が、ピシリと音を立てた。

「凛香、俺と結婚しよう」

 目の端で、赤いカーテンが揺れる。
 人のざわめきが遠ざかる。息を吸い込んだまま、吐き出すことが出来ない。

「もう離婚届も渡した」

 誰かの「わあ!」という歓声が頭に響いた。笑い声が耳の奥で木霊する。

「凛香。俺は、凛香と一緒にいたいんだ」











 やっくんとの出会いが、ふと思い出された。
 合コンの席だった。彼氏と別れて寂しさを感じていた私は、さして抵抗もなくそういう飲み会に参加し、男の子としゃべることを楽しんでいた。
 そこから恋愛に発展していくなんて、期待はしてたけど、望んでいたわけではなかった。
 出会いが合コンっていうのが、なんとなく嫌だった。

 けれど、出会い方がどうあれ、出会いは出会いだ。

 端の席に座った私とやっくんは、向かい合う形になっていた。
 気付いたら私とやっくん以外の四人がなにやら大盛り上がりで会話していて、すっかり乗り遅れた私はちびちびとお酒をすするしかない状態になっていた。
 目の前に座るやっくんは煙草をぷかりぷかりと吸うだけで、別段楽しそうでもなく、だからといってつまらなそうでもなく、ほんのりと笑顔を浮かべていた。
 それが、とても大人に思えた。

「凛香ちゃんは」

 おっとりとしていて柔らかい口調を聞いた瞬間、やっくんが筋肉のついた体型をしているせいか、私の脳裏で『森のクマさん』の曲が流れた。
 ぱっと見はちょっとこわそうなのに、よく見ると目はタレ目で優しげで。声はもっと優しそう。
 どきりと、心臓が高鳴ったのを、覚えている。

「まりもっこり、好き?」

 なんでまりもっこり!? 衝撃的な瞬間だった。

+++++++++++++

次話(第16話)へ
目次へ
TOPへ

拍手いただけると嬉しいです!

あとがき↓
えええええ!!
いつの間にか2万HIT超えてるよ!!
いつも読みに来てくださる皆々様、ほんとにほんとにありがとうございます。

1万HIT記念も書いてませんが、2万HIT記念で書いてほしいものがあったら、リクエスト下さい。
1万HIT記念、ストーリーだけちょこっと考えたけど、まだ手付かず・・・
もう少々お待ちを(^^;


追記を閉じる▲
えええええ!!
いつの間にか2万HIT超えてるよ!!
いつも読みに来てくださる皆々様、ほんとにほんとにありがとうございます。

1万HIT記念も書いてませんが、2万HIT記念で書いてほしいものがあったら、リクエスト下さい。
1万HIT記念、ストーリーだけちょこっと考えたけど、まだ手付かず・・・
もう少々お待ちを(^^;

【2009/08/20 02:27】 | Deep Forest(恋愛)
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。