きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第13話 ジャイさん、逃走する

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 ジャイさんの後ろを少し距離を置いてついていく。
 なんでこんなことになったんだと、岸川さんにブウブウ文句言いたかったのに、岸川さんはものすっごい楽しそうに目を輝かせて「頑張ってね」と言って帰ってしまった。
 私も今日やる仕事は終わっていたし、ジャイさんも帰るところだったから逃げることも出来ず、一杯だけ飲みに行くことになってしまった。
 同じ課の連中は火の粉が飛び散らなかったことに安心したのか、「良かったねー佐村さん」と満面の笑みで送り出してくれた。次の営業会議で、チクリ攻撃をしてやること確定。

「公認で飲みに行けるようになるとはラッキーだね」

 意地悪そうな笑顔を向けてくるジャイさんの腕を本気で叩いてやった。
 こいつ、本当に間が悪い。ある意味で間がいいのかもしんないけど、間が悪い!

「で、彼はいる?」

 いつの間にか会社の出入り口に辿りついていて、私は慌ててあたりを見渡した。
 マメだった彼は、私の仕事終わりの時間を見計らってわざわざ迎えに来てくれることが何度もあった。
 会社から十メートルほど離れた道路の向かい側にある電柱に寄りかかって、いつも私を待ってくれていた。
 書類が詰まったカバンを軽そうに片手に持ち、手持ち無沙汰に中空を仰ぐ。少し口が開いてしまっているのが間抜けで、かわいかった。

 すっかり薄闇に包まれた空に、電柱の明かりがぼんやりと灯る。飲食店の看板が赤い光を煌々と湛える、その光に照らされて――やっくんはいつもと同じように口を開けて空を仰いでいた。

「――いる」
「どうすんの?」
「う、裏道に行こう」
「どこにいるの? どれ?」
「あの電柱のところの、間抜け面!」

 私の存在にまだ気付かないやっくんと、ジャイさんを交互に睨んだ。
 ジャイさんがナンパな男っぽいのに対して、やっくんはつんつんと逆立つ黒髪がいかにも真面目そうだし、もう三十代だというのにほどよく筋肉のついた体型で背筋がぴんとしているせいか硬派っぽく見える。
 こげ茶の髪の下で意地悪げに目を細めるジャイさんは、がりがりではないけど線が細いし、へらへらしてるから、遊び人に見える。仕事の時はスーツをばしっと決めてるし、口調も真面目だからそうは見えないけど。
 正反対だなー……とどうでもいいことを考えてしまった。

「あ、気付かれたな」

 ジャイさんののん気な言葉で、はっとする。顔をあげたら、やっくんと視線がかち合った。
 途端に、やっくんの表情がやんわりとゆるむ。
 会えて嬉しい、そう訴えかけてくるような、優しさに満ち溢れた笑みを私に向けて、小さく手を振って来る。

「逃げよう! ダッシュで!」

 叫ぶ私を尻目に、ジャイさんはのん気だ。

「Bボタン連打で」
「どこにあんのよBボタン!」
「無いから、ダッシュ出来ません」

 ふざけてる場合か!
 マリオってる場合か!

「バカジャイ! 私、行くからね!」

 裏道の方へ踝を返した私の腕を、ジャイさんはむんずとつかむ。あまりに強い力に、私は前のめりになりながら足を止めてしまった。

「ちゃんと話をしなさい」
「はあ!?」
「好きだったんでしょ? ちゃんと誠意をみせてやりな」
「な……」

 まっすぐの眉を下げてこめかみの辺りを掻きながら、彼は一歩一歩近付いてくる。こめかみを掻くのは、困った時や戸惑っている時の彼の癖だ。

「凛香」

 低くてハスキーな彼の声がとても懐かしい。けれど、どんな顔をしていいかわからなくて、黒いエナメルのパンプスについたリボンをじっと睨むことしか出来ない。

「久しぶり、凛香」

 喉の奥がつんと痛んだ。目の奥が熱くなって、唇が震える。
 思わずジャイさんのスーツの袖をすこしだけ握りしめると、ジャイさんは私の背中をポンと叩いてくれた。

「佐村さんの、お知り合いですか?」

 営業用のすました声で、ジャイさんは何も知らない同僚のふりをしてくれる。

「あ、まあ、そうです」
「それじゃあ、僕は帰りますね」
「ちょ……ジャイさん、話が違う……」

 うろたえる私に、ジャイさんはにっこりと微笑みかけてくれた。
 大丈夫と、ちゃんと話しなさいと、そう言い聞かせるように。

「あとでケータイに電話して」

 私の肩を叩いた後、やっくんに会釈しながら、ジャイさんは長い足を大きく広げて歩き出してしまった。
 追いかけようとしたけど、目の前に立ちはだかったやっくんが邪魔で、それさえ出来ない。

「今の、新しい彼氏?」

 ジャイさんの背中をじっと見ていたやっくんだが、我に返ったように私に向き直る。
 付き合ってた頃よりもずっとトーンを押さえた声がやけに優しく聞こえて、私とジャイさんの関係を不安がっているのは明白だった。

「どうして、そう思うの」
「いや、ケータイに電話してって、言ってたから」
「あいつのケータイの番号、知らないし」

 会社用の携帯電話の番号なら名刺に書いてあったけど、プライベート用のなんて知らない。
 そう考えれば、ジャイさんは私をからかって遊んでいるだけで、本気で私とどうこうなろうなんて考えてないんだと、納得がいってしまった。
 だから、さっさと帰ってしまった。
 めんどくさい私の事情から逃げたんだ。

 ――ひどい男。

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あとがき↓
先日、誕生日を迎えました。
もうそろそろ歳とりたくない(苦笑)

ケーキを食べましたが、具合悪くなりました(笑)
夏バテ!!


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先日、誕生日を迎えました。
もうそろそろ歳とりたくない(苦笑)

ケーキを食べましたが、具合悪くなりました(笑)
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【2009/08/06 02:35】 | Deep Forest(恋愛)
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