きよこの書き散らかし小説。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Deep Forest

目次へ
TOPへ

第12話 猫なで声でおねがいごと

+++++++++++++

『俺、直帰するわ。伝票は月曜に渡すから』
「川田さーん。帰ってきてくれません? お願いがあるんです」

 電話越しに甘えた声を出すけれど、もう四年も一緒に仕事をしてきた相棒は私の猫なで声に騙されてくれない。

『い・や・だ。お前がそういう声出す時は、俺に不幸が降りかかる』
「ひどいなー。川田さん、今度の営業会議で取引先に納期のこと嘘ついてるのばらしますからね」
『おまえっ! 卑怯だぞ!』
「なんとでも言えばいいです」

 私のまん前のデスクを陣取る営業の川田は、営業先から直接帰る気らしく、直帰の電話がかかってきた。そこを引き止めているのは大きな理由がある。
 彼の補佐をする私は、弱みをいっぱい握っているわけで、それを使ってでも、今日は彼を会社に戻らせたかった。

『今日は無理。これから行くところがあるんだよ』
「合コンですか」

 ……間が空いた。合コンに行くんだな。川田は確か三十四歳。いい加減、彼女の一人でも欲しいのだろう。

『とにかくだな、今日は帰る。じゃあな!』

 ぷちっと電話は切れてしまった。
 川田のヤロー……やっぱり隅田川に落とすしかない。

「凛香ちゃん、どうしたの?」

 むすっとしている私に気付いた隣のデスクの岸川さんが、心配そうにこちらを見ていた。

「川田、直帰しやがりました」
「いつものことじゃない。今日は金曜だし」

 飲みに行くなんていつものことでしょ、と岸川さんは苦笑する。
 そう、今日は金曜だ。
 元彼……やっくんが会おうと言っていた日。

「うちの課の男は皆冷たいです」

 わざと泣きまねをして訴えると、私の斜め前に座る営業の男が気まずそうに頭を掻いた。
 この男にも懇願したのに「今日は約束がある」と断られた。
 フロアに残っていた男全員に断られ、頼みの綱だった川田にさえあっさりとふられた。
 川田のバカ。火曜の営業会議で部長にちくってやる。

「どうしたのよー。話してみなさい」

 伝票をばさっと整えながら、岸川さんは私に向き直ってくれた。
 うう、私の女神様っ!

「実は、元彼が会いたいって言ってきてるんです。あいつのことだから、会社の近くまで来てそうだし。もう面倒くさいから『男が出来たの!』とか言って終わりにしたくて。信じてもらえるように、てきとーに男と一緒に歩いてればいいかなーって思ったわけなんですけど、誰も付き合ってくれない!」

 また泣きまねをしてみせる。岸川さんは「短絡的だなー」とぼやきつつも、何か策でも考えてくれているのか、目線を宙に泳がせた。

「あ」
「名案浮かびました? 私、会社に泊まるしか他に考えられないんですけど」
「あー、赤峰さーん」

 誰、赤峰って……。

 岸川さんがニコニコ笑顔で手を振っている方向を見ると、ジャイさんがノートパソコン片手にフロアに入ってきたところだった。

「はい?」

 切れ長の目を細めて、薄い唇に笑顔をはりつかせる。極上営業スマイルで近付いてくるのは、やっぱりジャイさんだ。

 あれ? 赤峰って、赤峰って、ジャイさん!?
 剛田じゃないの!? ジャイのくせに!?

「赤峰さん、この後、お暇ですか?」

 いつものやわらかボイスで岸川さんが問いかけると、ジャイさんは不思議そうに首をかしげながらも「今日は特に用事も無いですよ」と答えた。

「じゃあ、この子に付き合って、一杯飲みに行ってもらえません?」

 この子って、私? わかりきってることなのに、私は自分を指差して固まってしまった。
 岸川さんはつぶらな瞳をきらきらと輝かせて、ジャイさんの返事を待っている。
 そりゃ、ジャイさんに頼むのも手かもしれないけど、なんか嫌! あの男に弱み握られるなんて、なんか嫌!

 ちょっと、ジャイ! わかってんだろうな、ここは『NO』と答えるところだぞ! と目で訴えかけるけれど、ジャイさんはにっこりと笑って「僕でよければ」なんて答えている。

「ジャイ……じゃない、赤山さん、無理しないでいいですからね!」
「赤峰です、佐村さん」

 おっと、すいません。

「でも、どうしたんです? 急に」

 すました声を出すジャイをぶん殴りたいが、会社でそんな暴挙に出るわけにはいかず、私は奥歯をかみしめてジャイを睨みつける。
 ジャイさんはそ知らぬふりで、岸川さんをジッと見据えていた。

「なんかね、凛香ちゃんの元彼が来てるかもしれないんですって。もう別れてるから話したくないみたいでね。駅まででいいから、彼氏のふりしてあげてくれません?」
「ああ……そういうことですか。喜んで引き受けますよ」
「ありがとう! 赤峰さんって、いい人ね」

 なんか話が成立しちゃったよ!

「岸川さんも一緒に帰りましょうよ! 帰るんですよね!?」
「帰るけど、今日は彼とゴハン食べるから。近くの喫茶店で待ち合わせてるから、だめなの。ごめんね」
「岸川さーん」
「いいじゃない。赤峰さん、いい男だし」

 岸川さんはニィッといやらしい笑みを浮かべて、私の腕をつかんで引き寄せると、耳元でぼそりとささやいた。

「捕まえちゃいなよ。彼、いいんじゃない?」
「いやああああああああ!」

 だって、この男、酔っ払いと平気で寝るんですよ!?
「にゃんにゃんしませんか?」で面白がってラブホまでついてっちゃうんですよ!?
 とんでもねえ男なんですよ!!

 ……と心の中で訴えるけど、全部私とのことなので言えるわけもなく。

「じゃあ、帰りますか?」

 新緑みたいな爽やかオーラをまき散らすジャイのバカを睨むことしか出来なかった。

+++++++++++++

次話(第13話)へ
目次へ
TOPへ

拍手いただけると嬉しいです!

あとがき↓
この主人公はいつになったら名前を覚えるんだろうか・・・


作者は人の名前も覚えられませんが、人の顔も覚えられません。
さらに、どんなに仲のいい人に声をかけられても、10秒くらい固まってしまいます。
カメラでいう顔認識機能が全く機能してません\(^^)/

よく、「なに、その間は!?」と驚かれます。
顔認識機能が動くまでの時間です。


追記を閉じる▲
この主人公はいつになったら名前を覚えるんだろうか・・・


作者は人の名前も覚えられませんが、人の顔も覚えられません。
さらに、どんなに仲のいい人に声をかけられても、10秒くらい固まってしまいます。
カメラでいう顔認識機能が全く機能してません\(^^)/

よく、「なに、その間は!?」と驚かれます。
顔認識機能が動くまでの時間です。

【2009/08/01 03:01】 | Deep Forest(恋愛)
トラックバック(0) |


亮介
お話のテンポが良くダラダラとした説明文的な物もなく読みやすいですね~!
面白いです
姉と弟の件もリアルで良いです。


コメントを閉じる▲
コメント
この記事へのコメント
お話のテンポが良くダラダラとした説明文的な物もなく読みやすいですね~!
面白いです
姉と弟の件もリアルで良いです。
2012/12/17(Mon) 17:22 | URL  | 亮介 #3aIQsR6k[ 編集]
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。