きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第45話 始まりを見つけた。

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 水平線が赤い色に染まっていく。
 紺色に染まっていた海が赤い色を帯びて、波間が揺れるたび金色に輝いた。
 燃えるように赤い太陽がのそりと顔を出し、たわむ水面に丸い形を揺らめかせる。
 海風に煽られた髪が、顔にまとわりつく。
 湿り気を帯びた髪は煩わしくて、実由は髪を払いのけ、空に見入っていた。
 浮かび上がっていた月は赤とオレンジと金色の光に飲まれ、見えなくなっていく。

「すごい……」

 夕焼けよりも深い赤が空一面を染め、海もまた赤い光を反射する。
 昔、初詣に行った時に見た初日の出を思い出した。こんな風に赤く美しい太陽の光は、未だにまぶたの裏に焼きついて忘れることが出来ない。
 あの時の光よりも強烈な赤が目に飛び込んでくるのは、空の鏡になった海があるからだろうか。

 蛍が波間を漂うように、光の粒が舞い飛ぶ。はねては舞い散り、大海の一部へと融けていく。

「神様」

 目をつぶっても赤い光が届く。
 潮騒の音が耳の底で木霊して、体がふっと宙に浮いたように軽くなった。海の水に浸かり、波のリズムに体を委ねた時と同じ感覚が、ふわふわと体の芯から指先へ伝わる。

「私、忘れない」

 この夏の日々を。厚志を、和斗を、太郎を、ジーを。
 消えない記憶として、心に刻み込もうと誓った。

 膝に顔をうずめて、一心に太陽を見据えた。
 この海に初めて来た時、太陽を見ても何も感じなかった。空しさとか切なさとか、負の感情だけでしめられた心に、太陽の光は届かなかった。温かさを感じ取ることが出来なかった。
 なのに、今は違う。

 澄み切った空気が腕をつんつんと突くのに、ほのかな温かさを見つけることが出来る。
 降り注ぐ光を、体全体が認めている。

「おい」

 突然、肩を叩かれて、実由はびくりと体を震わせた。おそるおそる振り返ると、和斗が立っていた。

「またここに来てたのか」
「和くんこそ」
「お前がふらふら出てくのを見てたんだよ」
「嘘」
「勉強してたら、窓から見えた。なかなか戻ってこねえから」
「意外と心配性なんだね」

 あんな朝方近くまで勉強をしていたことに驚いた。和斗は家の手伝いをしているし、勉強する時間もあまり取れないのだろう。
 生真面目な性格なのは、この一ヵ月足らずでなんとなくわかった。

「きれいな朝日だな」
「うん」

 朝焼けに染まる和斗の顔。
 和斗が真っ赤になっているようで、実由は少しだけかわいいと思ってしまった。

「あと少しだな」
「何が?」
「お前が家に帰る日」
「うん」

 お盆はもうじき訪れる。お盆があければ、実由はここから去るのだ。もうそれは決めたことで、今日、確信したことだった。

「……俺、東京の大学を受けるんだ」
「どこ?」
「それはまあ、受かったら教える」

 和斗が自分から自分の話をしてくれるのは初めてのことだ。実由は好奇心にくすぐられて、和斗の顔を凝視する。
 視線に気付いた和斗は鼻の頭をポリポリと掻いて、わざとらしく視線をそらした。

「一人暮らしをするつもりでいる」
「すごいね」

 素直に感嘆の声をあげたら、和斗は「普通のことだろ」と笑った。

「でも、夏になったらちゃんと家に帰る」
「うん」

 海の家で黙々と開店作業を進める和斗の後姿を思い出した。
 いつも背中を向けているくせに、しっかりとその場にいる人の行動を見ている。背中に目でもついてるんじゃないかと思うほど、周りを把握している。
 和斗の背中はいつも何かを語りかけてくる。父親の背中のように。

「ここは、俺の家だから」

 和斗の目線の先に広がる海を、実由も見つめた。
 太陽はじりじりと歩を進め、あと少しで丸い姿を見せようとしていた。

「お前も、帰って来いよ」
「え?」
「ここは、お前の家でもあるから」

 喉の奥がぎゅっと痛くなった。目頭が熱を帯びて、目の前の海がぐらぐらと揺れた。

「実由」

 黄金色の光に目が眩む。和斗はすっと目を細めながら、小さく笑った。

「待ってるからさ」

 どう答えていいかわからなかった。さざなみのように、目の前は涙の海でたわんでいく。

「うん」

 返事するのがやっとだったけど、心からうなずいていた。

「うん」

 もう一度うなずいた時、和斗はぽんぽんと実由の頭をなでてくれた。
 
 ふと気付いた。
 和斗が名前を呼んでくれたのは初めてだった。


 波が一定のリズムを刻む。
 風が耳をくすぐる。
 光が頬を熱くする。

 赤い光の、その向こうに、朝日のきらめきを感じると同時に、実由は確かな始まりを見つけていた。
 心が、朝焼けの光と共に新しい世界に飛び込んだ瞬間だった。


 それは、一生忘れられない始まりの合図。
 




 今はまだ見えない道の先。
 不安定で怖いけれど。
 帰る場所があって、待ってくれる人がいることを、知った。

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【2009/07/11 04:56】 | 神様がくれた(恋愛)
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