きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第44話 帰ろう。

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その日の夜、実由はなかなか寝つくことが出来なかった。
 ジーに会えなくなることや、片手一本で数えられる日数で海の家を去る日が近付いていることが寂しくてしかたなかった。

 海にたどり着いたあの日、当てどもなくさまよいながら、求めるものもわからないまま、迷路の中にいた。
 八方塞の状況の中で、何に迷い何に戸惑い何におびえているのかさえわからなかった。
 道しるべの無い道は恐ろしくて、進み始めることを拒む。
 けれど、行かなければならない。

 怯えや恐れを取り除きたかったのかもしれない。
 寂しさや震えを消し去りたかったのかもしれない。

 方法も手段も知らず、その場所に佇むことしかできなかった。

 そんな実由を見つけてくれたのは厚志で、背中を叩いてくれたのは和斗だった。そして、行くべき場所を教えてくれたのは――ジーだ。

 安らげる場所で癒される時間は必要だけれど、そこに留まれば、いつしか自分は壊れていく。また道を見失い、戸惑い、進めなくなる。
 立ち上がり、歩み始めなればならない。

 それは、今であり、今しかなかった。

 砂のお城はいつか崩れ落ちるけれど、お城を作ったという事実は、記憶に留まり形付けられ、忘れ去られても糧となって残る。
 人間が食物を摂取し、それが咀嚼され胃で消化され排出されても、必要なものは体を巡る栄養となる。
 同じことが、実由の心に起こっていた。

 眠りにつこうとしない体を起こすと、窓の外に広がる白み始めた空が目に入った。朝の訪れを目前とする空は静粛ではりつめた空気を持っている。
 太陽もまだうとうとしているような時間だ。気温は少し冷えていて、タンクトップだけの上半身には、鳥肌が立っていた。
 時折、ジジ、とアブラゼミが鳴く。瞬間、実由は波の音を聞いた。

 海が近いこの家は、鳴り止まない波の音色に、いつも身を委ねている。だけど、毎日過ごすうちに、耳はその音を聞き取ろうとせず、意識の外側で気付けば流れているBGMのようになっていた。
 だから、なんとなく、波の音を意識したことが久々に感じられた。毎日のように聞いているのに、今日だけは特別に思えた。
 誘われるように、パーカーをはおりながら、外に出た。

 コンクリートの壁は、夜の冷え込んだ空気を含んで、ひんやりと冷たい感触を残す。手でなぞりながら、道路を進んでいく。
 手に持ったケータイをかざして、海を撮る。
 まだ闇の中にいる空は藍色で、水平線の方に向かって色を薄め、グラデーションになっていた。

 そろそろ夜が明けるだろう。
 実由は歩調を速め、水族館を目指す。


 ***


 水族館にたどり着いた頃には、だいぶ空も白み始めていた。
 ぽかんと浮かんだ満月が、薄く白く空に融ける準備を始めている。

 ジーが座るいつもの場所に座り、ジーの目の位置にケータイのカメラが来るように、手をかざす。慎重にアングルを調整し、ボタンを押した。
 カメラのシャッター音を模した、機械的な音が静かな空に響く。
 鳥がバタバタと飛んでいった音が聞こえた。

 ケータイの画像は荒く、月もぼんやりとしか映っていない。だけど、これ以上、綺麗な写真は撮れる気がしなくて、保存のボタンを押した。
 そのまま、画像に文字を入れる。親指をすばやく動かして、ジーへのメッセージを書き込んだ。

 ジーはきっと転院先を教えてくれないだろう。
 もう会うことは無いのかもしれない。

 だからこそ、何かを残したかった。
 ジーの記憶に鮮やかに残り、消えない思い出にしてほしかった。

 体を駆け巡る栄養のように、ジーの全身に刻み込まれ、礎となってほしかった。

 実由の中のジーがそうであるように。

「ジーは本当にかぐや姫みたい」

 ぽつりとつぶやく。

 月を眺め、どこか遠くに思いを馳せていた。
 帰る場所を求め、居るべき場所を探っていた。

 ここではない、別の場所。そこにあるはずの、自分だけの居場所。

 それは、実由もまた求めているものだった。


 ジーにとって帰る場所はどこだったのだろう。
 かぐや姫にとって、月が帰る場所だったのと同じように、ジーは帰る場所を見つけたのだろうか。

 ――そして、実由自身は?


 目を閉じる。
 一筋の光は水平線を照らし出し、海と空の境界線を指し示す。

「私にとっては、ここだった」

 ジーと隣り合って座った芝生をさする。

 帰る場所も居るべき場所も、不確定で不明瞭だ。
 今日はそうであっても、明日は違うかもしれない。

 だからこそ、大事にしたいし、大事にしなければならない。
 

「ジーにとっても、きっとここだったんだね」

 そして、次にジーが帰る場所は。

「ジーの家族のところなんだ」

 帰ろうと、思った。

 ジーと同じように。

 お父さんとお母さんとお兄ちゃんが待つ家へ。

 太郎が新たに加わる家族の下へ。

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【2009/07/09 02:38】 | 神様がくれた(恋愛)
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