きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第7話 恋に盲目なアホ、ってことで

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 記憶の中の彼の姿は、ぼやけていてはっきりしなくて、虚ろだった。けれど、その手の熱ははっきりと記憶され、思い出すたびに体がうずく。
 大きな手の平が私の体を這うたび、私は彼の与えてくれる熱に酔いしれた。

 耳朶に響く彼の声は色っぽくて、艶めいている。
 震える体が、彼を求めていた。

 あんな感覚は、今まで付き合ってきた彼氏とだって一度も味わったことが無い。
 出会ったばかりの男と、酔いに任せた行為に、背徳心を抱いていたのかもしれない。際を歩くような行動に、スリルを感じていたのかもしれない。

「凛香ちゃん、帰れる?」

 はっとして彼を見上げた。
 思考回路は完璧に麻痺していて、ジャイさんの言葉が飲み込めなかった。

「どこに帰ればいいの」
「どこって、家だよ。凛香ちゃん、酔ってるよね」
「酔ってませんえん」
「せんえん言っちゃってるし。酔っ払いじゃん」

 ああ、そうだ。ジャイさんと居酒屋で飲んでたんだ。
 疲れがたまってるせいで、酔うのが早い。でも、意識ははっきりしてるし、大丈夫だ。
 立ち上がり、バッグをつかむ。
 ジャイさんは心配そうに私の腕をつかんだ。

「やだっ。さわんなよー」
「危なっかしいんだよ」

 彼の手は、熱い。酒のせいもあるだろうけど、体温が高いんだろう。あったかくて、気持ちいい。

「ジャイさんはさ」
「ん?」
「女の扱い、上手いでしょ?」
「そんなことないよ」
「そう言うやつは、たいがい上手いんだよ」

 ジャイさんみたいなタイプに惚れたら苦労するのは女だ。たぶん、女の方から寄って来るだろうし、それを拒むタイプにも思えない。

「家まで送ろうか? どの辺に住んでるの?」
「大丈夫。弟に迎えきてもらうから」
「弟いるんだ」
「ぴちぴちの高校生のねー」

 ジャイさんに連れられ、駅まで歩く。酔いの回った頭は外気に晒され、だんだん冷静になっていく。

「手、繋ぐ?」
「なんで?」
「はぐれそうだから」
「幼稚園児じゃないんだから」

 バッグをわざと振り回して、すたすたと歩いた。
 ジャイさんは「そっちの道は駅に行かないぞ」と笑う。

 少しだけ肌寒い。体を縮こまらせて歩を進めるたび、なぜだか泣きたくなった。

 お酒のせいだ。


 あの日、自暴自棄になって街を彷徨ったことを思い出すのも、お酒のせいだ。
 彼氏と別れて意気消沈しながら、寂しさに耐え切れずに、ただ歩いた。

 ジャイさんを見つけてしまったのは……声をかけてしまったのは、なぜなんだろう。


 ***


「はあああ?!」

 週末、高校時代の友人、原瀬舞子と二人で飲むことになり、和風の居酒屋の個室でまったりと酒を酌み交わしていた。

 舞子とは高一のときからの付き合い。もうすぐ十年来の友になるというわけだ。となると、私の恋愛経歴はほぼ全部知っているわけで、人に何でも話してしまう性分の私としては、元彼とのこともジャイさんとのことも隠すことが出来なかった。
 彼氏が実は既婚者だったこと。別れたあと、私は不覚にも酔っ払いまくり、道端にいる男を拾ってしまったこと(ジャイさんのことだ)。そのあと、ジャイさんが、会社に仕事で来たこと。まさかの再会の後、一緒に飲みに行ったこと。
 すべてをあけすけにしゃべったら、舞子はぽかーんと口を開けて、「あー」とか「うー」とかしか言わなくなってしまった。

「凛香って……そんな悪酔いするタイプだったっけ?」
「家で飲む時は、けっこうひどいほうなんだよ。でも、外で飲む時にはセーブするし」

 居酒屋で吐いたこともなけりゃ、人に迷惑をかけるような行動に出たこともない。家で飲む時は安心しきって、弟相手に暴れまくるんだけど……相手が弟だからいいっていう安心感があるからだ。

「凛香らしいっちゃ凛香らしいけどさあ。どっからつっこめばいいのかわからないけど、ちょっと流れに沿ってつっこむよ」

 おかしな宣言をして、舞子は日本酒をごくりと飲み込んだ。

「まずは既婚者かどうか気付かなかったっていうのがねえ」
「だって、隠してたから」
「そりゃ隠すわ!」

 隠されたら気付かないよ。そりゃあ、私が鈍感なんだろうけどさ。

「兆候はあるでしょうよ。土日は会えないとか、家に呼んでくれないとか」
「だって、家、ゴミ屋敷だって言うんだもん! 土日は遊んでくれたし」
「だって、じゃない!」
「うあ、はい」

 家に遊びに行きたいって言ったら、家がゴミ屋敷だと言われた。恥ずかしくて見せたくないと。ゴキブリと共存してるような家にわざわざ行く気にもなれなかったから、それでいいやと思ったけど、確かに一年近く付き合っていて、一度も家に連れて行ってくれなかったのだから、疑うに足るものがあっただろう。

 もしかしなくても、私、恋に盲目のアホだ……。

「それで酔っ払って、その辺にいた男をナンパするって、どんなんよー」
「いや、あのね、すっっっごい輝いて見えたのよ。もうさ、美輪○宏なみのキラキラオーラを放つ男がいるんだよ!? 運命かと思っちゃうじゃん!」
「あほか!」

 確かにアホだよ。でも、あの時のジャイさんは、神様仏様。後光が差して見えたんだもの。

「で、その人の名前は? 仕事一緒にやるんだよね」
「うん。あ、」

 ……ナマエ。

「ジャイさん」
「なにそれ、ジャイアンの親戚?」
「たぶん」

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あとがき↓
小説家になろうというサイト様で、すでに完結させている作品をアルファポリスのミステリー小説大賞にエントリーしました。

恋愛系のお話ではないので、お好みがあるかと思いますが、お暇でしたら読んでいただけると嬉しいです。
ついでに面白かったら一票いただけると、さらに嬉しいです(^^)


ライオンの子↓
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小説家になろうというサイト様で、すでに完結させている作品をアルファポリスのミステリー小説大賞にエントリーしました。

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【2009/07/05 02:42】 | Deep Forest(恋愛)
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