きよこの書き散らかし小説。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

目次へ
ブログTOPへ

第43話 君に会えて。

+++++++++++++

「太郎!」

 動物病院に到着した実由は、太郎のいる檻へ駆け込んだ。
 実由の姿を見つけた太郎は千切れんばかりにしっぽを振って出迎えてくれた。
 大きな傷を受けたせいもあって動きは鈍いが、表情は明るい。
 実由が柵ごしに手を差し出すと、ぺろぺろとなめてきた。
 くすぐったい舌の感触に大笑いしながら、太郎の頭を撫で回す。

「太郎、よく頑張ったね」

 うん、と返事をしそうなほど、太郎はキラキラとした目で実由を見つめてくる。

「今日は一応様子を見て、明日には退院できますから」
「ありがとうございました」

 獣医は相変わらず無愛想に実由を見下ろしていたが、実由がお礼を言うと、わずかだが微笑んだ。

「よかったですね」

 まさかそんなことを言ってくるとは思っていなくて、実由は思わず獣医を凝視してしまった。冷たい表情をしているけれど、意外と優しい先生なのかもしれないと、今更ながら思う。

「私は席をはずしますから、気が済んだら受付に行って下さい」

 スリッパの音を大きく響かせながら、獣医は出て行ってしまった。
 キュウン、と鼻を鳴らす太郎の耳をつんつんといじって、実由はバッグから首輪を取り出した。
 ジーが太郎のために用意していた物だ。

「太郎、ジーからのプレゼントだよ」

 太郎の白い毛に赤い首輪はよく映える。毛に隠れて骨の形のチャームが首元で揺れた。

「太郎はね、今日から朝比奈太郎になるんだよ」

 呼びかけたら、太郎は嬉しそうにしっぽを振ってくれた。太郎の頭をなで、柵越しにぎゅっと抱きしめる。触り心地の悪い固い毛が鼻をくすぐって、実由はくすくすと笑う。

 太郎は飼い犬になる。もう保健所に連れて行かれる心配は無い。

 家族が増えた喜びを、実由は噛みしめる。

「太郎。これから、よろしくね」

 実由の髪の毛を太郎がアムアムと噛んでくる。「止めてよう」と笑いながら、さらに強く抱きしめた。

 太郎は、長い苦しみに耐え抜いて、必死に生を勝ち取った。そして、実由の元に戻ってきてくれた。
 愛しくて、たまらなかった。
 太郎の温もりがここにある現実が、ただただ愛おしかった。


 ***


 太陽の光を受けて、水面がきらめく。
 遠い水平線の向こうを、船が通り過ぎてゆく。
 海風でなぶられる髪を押さえ、空を見上げた。
 真っ青な空の真ん中で、太陽が白く輝いている。
 じりじりと肌を焼く光がアスファルトの地面に反射して、足元からも焼けつくような熱が立ち上る。

 昼休みの時間を利用して、実由はジーの元に向かっていた。
 太郎のことを話したかった。事故にあったことは話していないし、話す気もないけれど、太郎の首輪を渡したことは伝えたい。
 鳴り止まない蝉の声を一身に浴びながら、病院の入口に入る。
 クーラーのきいた室内は、体中から吹き出ていた汗を一瞬でぬぐってくれる。
 エレベーターに飛び乗り、ジーの病室を目指す。

「あら、あなた」

 廊下を歩いていたら、誰かに呼び止められて、実由は顔をあげた。
 猫背の体を縮こまらせてしかめ面を向けてくる女は、ジーの息子のお嫁さん――ジーの家にいた女――だった。

「こ、こんにちは」

 ジーをかばうためとはいえ、生意気な口を利いてしまったから、どうにも顔を合わせづらい。目線をそらして、リノリウムの床を睨みながら挨拶をする。

「……うちのおじいちゃんと、本当に知り合いだったのね」
「え? あ、はい」

 疑われていたのか、実由は小さくため息をついた。

「今度、転院させることになったから。お見舞いに来てもいないからね」
「てん、いん?」

 聞きなれない言葉に、首をかしげる。

「病院を変えるのよ。おじいちゃんの娘が面倒みるって言うから。そっちの家に近い病院に移らせるの」
「嘘!」
「嘘なんてついてどうするのよ」

 煩わしそうに低い声で吐き捨て、女は歩き出した。疲れきったと訴えるように、わざとらしく足をひきずり、廊下の奥に消えていく。
 実由はその背中を見送りながら、呆然とするしかなった。

 ジーがいなくなる。

 重くのしかかってくる現実が、苦しい。

 急ぎ足で病室へ入り、ジーのベッドに飛びついた。寝転がって本を読んでいたジーは、びっくりした表情を浮かべて、本を落としそうになっている。

「ジー、いなくなるってほんと?」
「あ、ああ。光子さんに聞いたのか?」

 光子さん――先ほどの女の名だろう。実由はかぶりを振る。

「実の娘がな……遠くに嫁に行っちまったんだが、俺の面倒をみたいって言ってくれたんだよ」
「でも、じゃあ、そ、い、行っちゃうの?」

 動揺が言葉ににじみ出る。うまく声が発せられず、どう言えばいいのかもわからなくなっていた。

「ああ。その方がいいと、俺も思うしな」
「遠くって、えと、どこ? 遠く、私、遠くって……」
「……ミュー」

 しわがれた手が、実由の頭をなでる。

「お前さんは一人でも大丈夫だ。俺に会えなくても、お前さんなら大丈夫だ」
「大丈夫じゃないよ! ジーがいなきゃ嫌だ。ジーがいなくちゃ嫌だよ」

 布団にかじりついて、涙交じりに叫ぶ。
 ジーは眉尻を下げて、困ったように笑った。

「ミュー。わかっているんだろう? 居心地のいい場所でゆっくりしていられるのは、人生のほんの一瞬だ。どんなにつらくても荒波に飛び込んでいかなきゃならん」
「嫌だ。ジー、ジーがいなきゃ、やだ」

 泣き言しか吐けなくて、そんな自分をだめな人間だと思うのに、抑えることなんてできない。聞き分けよく、ジーの言うことにうなずけない。
 ジーと離れたくない。いつでも会える距離にいたいのに、ジーはどこか遠くに行ってしまう。

「ミュー、よく聞け。俺はお前さんとずっと一緒にいる。遠く離れても、もう二度と会えなくても。お前さんのここに、いつもいるんだよ」

 実由の胸を指差したあと、ジーは自分の胸をトントンと叩いた。

「お前さんも、ずっと俺のここにいる」

 大粒の涙が頬を伝う。ジーは手を伸ばして、実由の頬に触れた。

「死ぬ前に、最高の女に出会えた」
「さいこうの、おんな?」
「ああ。お前さんはいい女だ。きっともっといい女になる」

 親指が動いて、実由の涙をぬぐってくれる。

「ミュー。もっともっといい女になれ」

 うん、うん、と何度も頭を振る。

「会えてよかった」

 ジーの手を握りしめて、抱きしめた。かさついた手のちょっと冷たい指先の感触とか、皮膚の固さとか、そんな些細なことも忘れないように、強く強く。

「ジー、大好き」

 世界で一番好き。実由はくり返しくり返しささやいた。

+++++++++++++

次話(44話)へ
目次へ
ブログTOPへ

拍手いただけると嬉しいです!

あとがき↓
更新が遅くて本当に申し訳ありません・・・
いつものごとくスランプ中です(涙)

雨の季節はやる気も雨に流されるのですよ(TωT)

ブログで連載を開始すると言っていた『ライオンの子』という小説ですが、もう少し、というかもうしばらくお待ち下さい。
やる気と根気が復活したら、始めたいと思います。

この『ライオンの子』ですが、小説家になろうというサイト様で、すでに完結済みです。
アルファポリスのミステリー小説大賞に応募しておりますので、お暇でしたら読んでいただけると嬉しいです。
ついでに面白かったら一票いただけると、さらに嬉しいです(^^)


ライオンの子↓
rk.gif




追記を閉じる▲
更新が遅くて本当に申し訳ありません・・・
いつものごとくスランプ中です(涙)

雨の季節はやる気も雨に流されるのですよ(TωT)

ブログで連載を開始すると言っていた『ライオンの子』という小説ですが、もう少し、というかもうしばらくお待ち下さい。
やる気と根気が復活したら、始めたいと思います。

この『ライオンの子』ですが、小説家になろうというサイト様で、すでに完結済みです。
アルファポリスのミステリー小説大賞に応募しておりますので、お暇でしたら読んでいただけると嬉しいです。
ついでに面白かったら一票いただけると、さらに嬉しいです(^^)


ライオンの子↓
rk.gif



【2009/07/01 02:48】 | 神様がくれた(恋愛)
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。