きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第42話 心、染まる。

+++++++++++++

 夜空はいつも変わらず綺麗だ。
 波が揺れるたびに、月の光も揺らぐ。散りばめられた星は青白い光を降り注ぐ。
 実由はひとり、水族館の裏庭に来ていた。
 太郎もジーもいない。初めて、この場所で一人で過ごす。

 ジーのことを思う。

 ジーはここで何を考えていたのだろう。過去の陰影を顧みるのか、未来の光を見つめるのか、現在の姿を追うのか……。

「ふられちゃった」

 苦しい。悲しい。辛い。でも、心の中は妙にすっきりしていた。
 全力を尽くした。間違ったこともしたけれど、自分で出来る限りのことをやった。それでも叶わない――それが恋だ。
 相手がいて、相手の思いがあって、成り立つもの。思うとおりになんていくわけがないし、いかないことの方が多い。

 膝に顔をうずめて、瞳を閉じる。波の音が耳の奥で響いて、暗いまぶたの裏で、海がたゆたう。

 涙がにじむ。

 さようなら、とつぶやいた。
 新しい恋に出会うまで、さようなら、恋する心。そう繰り返して、波の音に耳を澄ませた。

 またいつか恋をするだろう。
 誰かに出会って、恋に落ちるだろう。

 その時、きっと恋する気持ちはふわりと浮いて、過去のつらい恋を思い出に変えてくれる。
 それまでは、苦しんで悲しんで切なく思うだろうけど。大丈夫、実由はそう思う。

「おい」

 ふいに後ろから声が聞こえてきて、実由は顔をあげた。
 一定のトーンを崩さないぶっきらぼうなこの声の持ち主を実由はよく知っている。
 振り返って、小さく笑いかける。

「和くん、どうしたの」

 いつもの不機嫌顔のまま、和斗は手をポッケに突っ込んで仁王立ちしていた。

「……お前こそ、何してんだよ」
「何も。月を見てただけ」

 そう言って、実由はまた月を見上げた。ウサギの半分を影にして、ぼんやりと光を湛える。

「心配するだろうが」
「心配してくれてたんだ」
「……いや、そういうわけじゃ、ねえけど」

 和斗は素直じゃない。
 プッと吹き出して笑ったら、和斗は不服そうに口を尖らせて、隣に座ってきた。

「兄貴と、何かあったのか」
「うん。ふられた」

 あっさりと答えたら、和斗は目を丸く見開いて、何か言いたそうに口をパクパクと動かした。

「でも、これで良かったんだよ。略奪愛なんて、私には向いてないし……それに」

 厚志に甘えたいだけの恋だったから。心の中でだけ、そう言った。

「お前はほんと……なにするかわかんねえ女だな」
「そうかな」
「変な質問はしてくるし、行動は突拍子がねえし。放っておけねえよ」

 鋭い目を細めて、和斗は右の口角だけをあげてにやりと笑う。その仕草がジーに似ていたから、実由はなんだかくすぐったくなった。
 和斗の目に、月明かりが反射する。柔らかい光は和斗の表情さえも優しくさせる。

 もしかしたら、落ち込む実由を心配して、探してくれていたのかもしれない。
 和斗は言葉にしないだけで、いつも行動で優しさを示してくれる。わかりづらいけれど、知れば知るほど、和斗の温かさが見えてくる。
 厚志も和斗も、表現の仕方が違うだけで、すごく優しい。

 実由に、温かい時間をくれた。

「和くん、ありがと」

 素直な言葉を吐いたら、和斗は頬をほんのりと赤く染めて、鼻の頭をぽりぽりと掻いた。

「帰るぞ」
「うん」

 立ち上がって尻についた草を払っていたら、和斗は振り返りもせずに歩き出してしまった。
 背中を追いかけながら、実由は降りしきる雪のように舞い落ちて、真っ白に染まる心を見つめていた。
 自分の中の何かが、変わりゆくのを知った。

 恋の終わりは、新たな自分を見出してくれた。



 ***

 知らせが届いたのは、実由と和斗が高山食堂に戻ってすぐだった。
 鳴り響く電話を誰かが取ったのか、家の中は急に静まり返って、しばらく後。里美が部屋に戻ろうとする実由を呼び止めて、嬉しそうに頬をあげて笑った。

「実由ちゃん、あのワンちゃん、目を覚ましたみたいよ」

 一瞬、何を言われたのか理解できず、実由は眉間に皺を寄せ首をかしげた。
 部屋に入りかけていた和斗が「助かったんだ」とほっと息を吐いたのが聞こえてきて、頭の中が急激に動き出した。

「う、うそ。本当!?」

 思わず里美の手をつかむ。

「本当よ! 獣医さんが、あと少し入院したら大丈夫だろうって。良かったわねえ」
「本当に、本当なの?」
「実由ちゃん、本当に本当!」

 口に手を当て、歓喜の声を我慢したら、涙が押し寄せてきた。
 声は我慢できたのに、涙は我慢できなくて、滝のように流れ落ちる。

「実由ちゃんの思いが届いたんだよ。よかったね」

 よしよし、と頭をなでられたら、涙はよけいに止まらなくなった。ウック、ヒック、と嗚咽をこぼして泣き続ける実由を里美は抱きしめてくれる。
 里美の後ろで、和斗が穏やかに笑っていた。

 よかったな、そう言うように。

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あとがき↓
やっと最終話まで書き終えました。
私のだめなところではあるのですが、山場がない(^^;

実由が大切なものを見つける物語です。
静かな時の流れの中で、ゆっくりと進む心と時間を表現出来ていたらと思います。
ここから先は毎日更新でラストまでやる予定です(あくまで予定です涙)。

ただいま『Deep Forest』という恋愛小説を書いているのですが、それと並行して『ライオンの子』という作品を書いていこうと思っています。
こちらは『小説家になろう』ですでにラストまで執筆済みなのですが、長すぎるお話なので、リライト・ショートバージョンでまたもう一度こちらのブログで書き進めてみようと思っています。

ここのブログの作品のみをお読みの方からすると、もしかしたら180度イメージの違う物語かもしれません。
サイコサスペンス(のつもりで書いてたけどたぶん違う。ジャンルは何?笑)なので。
興味がありましたら、読んでいただけると嬉しいです。



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やっと最終話まで書き終えました。
私のだめなところではあるのですが、山場がない(^^;

実由が大切なものを見つける物語です。
静かな時の流れの中で、ゆっくりと進む心と時間を表現出来ていたらと思います。
ここから先は毎日更新でラストまでやる予定です(あくまで予定です涙)。

ただいま『Deep Forest』という恋愛小説を書いているのですが、それと並行して『ライオンの子』という作品を書いていこうと思っています。
こちらは『小説家になろう』ですでにラストまで執筆済みなのですが、長すぎるお話なので、リライト・ショートバージョンでまたもう一度こちらのブログで書き進めてみようと思っています。

ここのブログの作品のみをお読みの方からすると、もしかしたら180度イメージの違う物語かもしれません。
サイコサスペンス(のつもりで書いてたけどたぶん違う。ジャンルは何?笑)なので。
興味がありましたら、読んでいただけると嬉しいです。


【2009/06/09 02:34】 | 神様がくれた(恋愛)
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