きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第41話 いつか誰かを。

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 大雨の後は、快晴が待っている。
 太陽が灼熱を降り注ぎ、雨の後を一掃していく。濡れそぼった道路もあっという間に乾いて、雨の名残はどこにも見当たらない。

 海の家は前日の閑散とした雰囲気もどこへやら、賑わいを取り戻していた。
 波は高く、海は少し荒れているが、泳げないほどではない。大きな音をたてる波を、海水浴客たちは喜んでいるように見えた。

「実由ちゃん」

 昼時のピークタイムがすぎて、実由が一息ついたときだった。厚志が少し気まずそうに笑みを浮かべて、こっちに来いと手を振っている。
 一瞬ためらったけれど、昨日の出来事を引きずったままでいるのが嫌で、厚志の誘いに応じる。

 覚悟は出来ていた。振られる覚悟を決めていた。決意に近い思いがあった。振られなければならない。潔く、身を引かなければいけないと思った。

 厚志が好きだ。
 だからこそ、これ以上彼を困られてはいけないし、このまま、お互い嫌な思いをしたまま、別れの日を迎えるのはいけないと思っていたのだ。

 お盆を終えたら、実由は家に帰るつもりだった。
 今の環境は、実由に優しい。けれど、優しい場所に居座り続けるのは、何かが違う。
 いずれは家に帰らなければならないし、海の家にずっといることが出来ないのはわかっている。
 でも、リミットが来て渋々家に戻るのと、「帰る」と決意して家に戻るのとでは、雲泥の差がある。
 自分の判断で、この場所から離れなければならないと、実由自身もわかっていた。

 厚志の後について、歩いていく。
 花火大会の日、厚志の背中を追ったことを思い出す。
 あの日の打ち上げ花火が脳裏で花開いた瞬間、歓迎会と称して一緒に花火をした日の光景が目の前を通り過ぎる。
 ぐるりと振り回した手持ち花火が、火の粉をふりまいてハートを作る。
 その先にあるのは、厚志の笑顔。
 優しい微笑みは、包み込むように温かくて、柔らかかった。

 いつだって厚志は優しかった。
 どんな時も変わらぬ優しさで、実由を包んでくれた。
 だけど、実由に必要だったのは、厚志がくれる優しさじゃない。
 実由の心を癒してくれたけど、実由が今、本当に必要なのは、そういう優しさじゃないと知ってしまった。

「あのさ」

 防波堤を眺めながら、厚志は日に焼けた茶髪を掻いた。太陽をまぶしそうに仰いで、ふっと短い息を吐く。

「俺がこんなことを言うのは、卑怯だけど」

 首を振って、否定する。昨日の出来事の引き金を引いたのは、実由だ。
 だから、すべてを「厚志のせい」とは言えなかった。

「みゅーちゃんのことを恋愛の対象には見れないんだ」

 うん、とうなずく。そんなこと、わかっていた。――それでも、厚志の気を引きたかった。

「俺は、理香が一番大事だし……あんなことをしたくせに、言えた義理じゃないのはわかってるんだけど」

 目を伏せて、厚志はまた息を吐いた。
 厚志は一生懸命言葉を選んでくれている。実由を傷つけないように気を使ってくれていることを、ひしひしと感じた。

「あっくん、ごめんね」
「謝るなよ」
「うん。でも、ごめんね」

 厚志への気持ちは、自分にとってプラスにはならない。
 厚志にすがりつき、「好きになって、私を見て」なんていう恋愛は、今の実由に必要じゃない。
 厚志への負担にしかならないこの思いは、もう捨てなければいけなかった。

「……俺もごめん」
「謝らないで」

 必死に笑顔を作った。
 泣きそうになるのを我慢して、精一杯の笑顔を、厚志に向けた。

「あっくんが前に言ってくれたみたいに、あっくんと私、家族みたいな関係でいるのが一番だったんだって、私も思うの」

 本当は、振り向いてほしかったけれど。

「だからさ、何もなかったことにしよう」
「そ……」

 厚志はきっと「それでいいの?」と問いかけようとしたのだろう。けれど、そう聞くのも咎められたのか口をつぐんで、押し黙る。

「あっくん、ありがとう」

 優しさに甘えることしか出来なかった自分。厚志は実由を突き放そうとはしなかった。それが、嬉しかった。

 真剣に向き合ってくれて、真摯な言葉をくれる厚志が、やっぱり好きで、でもどうしようもできない。
 うまくかみ合わない歯車をもどかしく思いながらも、かみ合わないからこそ、この恋が成就することは永遠に無いと、わかっていた。

「いつかね、誰かを好きになったら」

 波はコンクリートの塊にぶつかってしぶきをあげて、舞い散る。太陽の光を受けて、キラキラときらめいては、まぶたの裏側に陰影だけを残して消える。

「あっくんみたいに、相手の気持ちを考えられるようになりたい」
「俺だって、そんなに考えてあげられてないよ」

 厚志を見上げる。困ったような笑顔で、実由をじっと見ていた。

「あっくんは、私の憧れなんだよ」

 大好き、その言葉は飲み込んで、笑いかける。

「自分のことしか考えられない今の私じゃ、きっといい恋愛は出来ないもん。……いつか、私も」

 もっと大人になって、相手を最優先に考えられるようになれたら。
 自分本位じゃない恋愛が出来るようになれたら。

 一歩一歩、着実に歩もうと誓った。

 いきなり大人にはなれないから。
 少しずつ、階段を上がるように大人になりたい。

 ゆっくりと、自分の歩幅で。

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【2009/05/30 02:09】 | 神様がくれた(恋愛)
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