きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第1話 ゴミ屋敷にリセットボタン

+++++++++++++ 

「ぬおおおおおおおおおおおおお!」

 衝撃のあまり、背中から落ちた。
 ふかふかのベッドの下は、これまたふかふかの絨毯だったから痛くはなかったけれど、あまりに驚きすぎて、顎がはずれかけた。
 顎をなでながら、起き上がる。
 ベッドの上でくたっと寝ているのは……どう見ても、見知らぬ男。
 昨晩は浴びるように酒を飲んだ。不覚にも記憶は一切ない。
 酔っ払いがカーネルおじさんやペコちゃんを持ち帰るのと同じように、私は男を持ち帰ったというのか。

「ん……ん?」

 柔らかいこげ茶色の髪を掻きながら、男は目を開けた。切れ長の目はすっきりとした二重で、色素が薄いのか瞳の色が茶色い。

「おはよ」

 寝ぼけた低い声で、男は優しそうに笑う。
 急に甘い空気に変わった気がして、この男やるな、とつい感心してしまった。

「どうしたの?」

 ベッドの下で呆然と座る私を訝しそうに見てくる。
 男があくびしながら上半身を起こすと布団がはらりと落ちて、すらっとした裸体が現れた。

「きゃーーーーーー! ごめんなさい、ごめんなさい! 私、あなたのこと、襲っちゃったんだ! ほんとにごめんなさい! 悪気はなかったんですー!」

 だから酒は恐ろしいんだ! 飲んでも飲まれるな、ってよく言うのに!
 土下座して深々と頭を下げたら、ブフ、という吹きだす音が聞こえた。

「あのさ、おかしくない? 普通、男の俺が謝る方だろ? 襲うのはたいてい男なんだし」
「だって、私、酒癖悪いもん! 襲うの、絶対私の方だもん!」

 超速で顔をあげ、ブンブンと頭を振って否定したら、男は腹を抱えて笑い出した。

「さけぐせ、わる、いもんって! ウケる」
「あ、あのー……」
「昨日のこと、覚えてないの?」

 はい、覚えてません。
 そう素直に答えてしまうのも悪い気がして、目を泳がせる。
 分厚いグレーのカーテンの隙間から、朝日の白い光が零れ落ちる。南国をイメージしてなのか、細長い葉の木が淡く光るライトの下で大きな影を作っている。
 やっぱり、ここ、ラブホ?

「昨日の夜、仕事帰りで歩いてたら、いきなりあんたが話しかけてきたんだよ」
「……まさかと思うけど、泥酔状態だった?」

 男は満面の笑顔でうなずいた。やっぱりね、と力無く笑うしかない。

「ほっぺ真っ赤にして目うるうるさせてさ、『私とにゃんにゃんしませんか?』って話しかけてきたんだぜ」

 にゃ、にゃんにゃん……。どう考えても死語……。

「しかも、その後、『私とホテルにトゥギャザーしましょう』って言ってきたんだよ。笑い死ぬかと思った」

 トゥギャザーってどこのルーだよっ!
 なんという醜態。お母さん、私、嫁入り前なのにこんな女に成り下がってしまいました。ごめんなさい。

「面白くってついていっちゃったよ」
「……で、ホテルにいるってことは、あなたと私、合体したってことですよね?」
「合体って! ロボットじゃないんだから」

 くすくすと笑い、男は私の方に身を乗り出して来た。筋肉質ではないけど脂肪はついていない体が目の前に迫ってきて、のけぞる。

「今更だけど、マッパだよ、あんた」

 頭の上からバスローブをかぶらされて、わたわたと手をかく。
 ちょ、マッパって? マッハじゃないよね? まっぱだかってこと?!

「ぎゃーーーー! 私、ストリーキングは趣味じゃないです!」
「言わなくってもそうでしょう、普通」

 もがきながら必死に体を隠して、やっとバスローブで見えなくなった視界が戻ってくる。
 男はいつの間にかベッドの端にいて、煙草を吸っていた。

「あんた、何かあったの?」
「な、なにかって?」
「やってるとき、泣いたから」

 やってる時……やっぱりやっちゃったのか、私……。がっくりと肩を落とし、バスローブを押さえつける。
 これじゃあ、あいつと一緒だ。

「彼氏が、私以外の女と、ヤってた」

 返事の代わりに、煙草の煙がたなびいた。

「だから、仕返ししてやりたくなったんだと思う……。酒飲みまくった後の行動だから、自分でもよくわかんないけど」
「他の男に抱かれてやろう、って自暴自棄になった?」

 うなずくことしか出来ない。バカな行動しか起こせない自分が呪わしい。何にもならないことをして、赤の他人を巻き込んで、一体私は何がしたいんだ。

「彼氏のこと、好きなの?」
「……たぶん」

 女からの告発だった。知らない女から私の携帯電話に突然電話がかかってきて、私が「もしもし」を言い終わらないうちに、女は叫んだのだ。

「あいつ、あんたのもんじゃないから。あんた、知らなかったの?」

 込み上げてきたのは、その女への怒りと、彼氏への嫌悪感。他の女を平気で抱いて、何食わぬ顔で私をも抱く、その神経に怖気が走った。
 冷めやらない感情を酒で晴らそうと飲みに飲みに飲んで、気付けば一人。路頭をさまよい、白いシャツと藍色のネクタイの男を見つけた。まぶしく見えたのは、酒のせいだったのか、この男が本当に輝いていたのか。

 断片的な記憶がとつとつと出てきて、頭を抱える。

「男は、皆そうなの? 誰でも、抱けるの?」
「さあ。男によるんじゃない? 俺は、選ぶよ」
「選ぶ?」
「いいなーって思った女しか抱かないし、彼女がいるときは極力他の女は見ない」
「極力って」

 男は狩人だからね、と爽やかに笑った。
 この男、変。テニスの後に爽やかな汗をぬぐってるみたいに、ミントみたいなオーラを放ってる。

「別れたら?」
「……うん」

 返事はしたけれど、それは「YES」の意味を含まない。ただ、うなずいただけ。別れる? その選択肢を、私は選ぶのだろうか。

「リセット」

 ぽん、と布団を叩く手。ごつごつした男の手は、頼りがいがあって、触れたくなる。
 ベッドの上に這い上がり、男に背を向けて座る。

 リセット。出来るのだろうか? もう一度初めから、やり直せるのだろうか。

「押してやってもいいよ、俺が。リセットボタン」

 男の手が私の腰に回る。私のおなかを叩いてくるその仕草は、まるで赤ん坊をあやす父親の手のようだった。
 彼の手を握り、首を横に振る。
 人生にリセットボタンなんてない。やり直すには、なにかを捨てるしかない。

「捨てられないよ、私には」
「ゴミ屋敷に住む女になるぜ、そんなんじゃ」

 振り返れば、男の顔が目の前に迫る。頬をつかまれ、唇をかまれた。「痛い」とわめいたら、優しくついばむようなキスを繰り返してきて、そっと割って入ってくる舌に、私は答えてしまった。
 体の芯が熱くなる。息が苦しいのに止めることも出来ず、絡み合う軟体動物みたいなそれを必死に追い求める。
 背中に回した手が彼の体の熱を感じ取って、じわりじわりと疼いてくる。
 堕ちる、そう思った。
 この男、絶対やばい。

「まだ時間はあるよ」
「うん……」

 私はバカだ。蛾が光源に向かって羽ばたくように、寄り添うものを追い求めてる。
 がむしゃらに。ひたすらに。無意識のうちに。
 必要とされたい。誰かの、誰かのためだけの自分でいたい。私でなくてもいいのなら、私という人間が必要とされていないのと同じなんだ。

「あんたが彼氏と別れるなら、俺のところ来ればいいよ」

 どうせ、戯言。わかってるけど、甘えたくなる。

「行ってやってもいいけど、私が自分で見つけるから、今日はこのまま別れて」

 甘美な誘惑に溺れるのは、きっとまだ早い。
 彼の首筋に舌を這わせながら、ニイ、と小悪魔っぽく笑ってやった。小悪魔っぽいってこういうかんじでいいのか、ちょっと不安だけど。

「見つけるってどうやって?」
「運命の相手なら、また会えるんじゃない」

 運命なんて、それこそ妄言。あるわけないものにすがりつく気なんてない。
 でも、また会えたなら。

「ねえ、名前だけ、教えてよ」
「タケシ」
「ジャイアンと同じ名前。覚えた」
「ジャイアンで覚えるな」

 チュ、と彼の頬にキスを落として、体を離す。

「あんたの名前は?」
「ナイショ」

 一夜だけの過ち。だけど、始まりの合図。
 ゴミ屋敷になる前に、すべてを一掃して。

 私は、新しく始めるんだ。

 そして、その時、この男とまた会えたら。
 その時は、また違う始まりに期待をしよう。

 ラブホテルを出たら、きらめくような朝の光が目に飛び込んできた。
 目を細めて空を見上げて、ふっと笑う。
 昨日の夜、雨でも降っていたのだろうか。地面に残る水たまりに空が映っていた。
 立ち止まり、覗き込むと、私の顔が水面で揺らいでいた。

 足を弾ませ、水たまりを飛び越える。
 飛んだ瞬間、心も弾んだ。



 ――私とタケシはこうして出会った。


 まさか、また出会うとは思わなかったけれど。

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【2009/05/02 01:23】 | Deep Forest(恋愛)
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カトラス
 一話だけ読んでの酷評。

 ラブコメですよね。
 会話文のはっちゃけ具合と説明文を始めとした地の文が、むちゃくちゃ違和感ある。地の文はどちらかというと文芸の書き方。どっちかに統一した方がラブコメはいいと思った。その辺は卯月さんの作品なんかを参考にしたらいいかと思いますよ。
 文体に違和感があったので、自分は続き読む気なならんかった。

 もちろん、いいとこもあるけど、酷評なんでのぞんでないでしょうから、やめます。最新話まで読んだらまた感想は変わってくるかもですけど。

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 一話だけ読んでの酷評。

 ラブコメですよね。
 会話文のはっちゃけ具合と説明文を始めとした地の文が、むちゃくちゃ違和感ある。地の文はどちらかというと文芸の書き方。どっちかに統一した方がラブコメはいいと思った。その辺は卯月さんの作品なんかを参考にしたらいいかと思いますよ。
 文体に違和感があったので、自分は続き読む気なならんかった。

 もちろん、いいとこもあるけど、酷評なんでのぞんでないでしょうから、やめます。最新話まで読んだらまた感想は変わってくるかもですけど。
2010/02/14(Sun) 07:09 | URL  | カトラス #-[ 編集]
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