きよこの書き散らかし小説。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

目次へ
ブログTOPへ

第36話 流される。

+++++++++++++ 

 骨ばった厚志の体を抱き寄せて、首元に顔をうずめる。
 火照った体に口付けを落とすと、深く息を吐いた。
 吐息の中に紛らわせて「好き」とささやく。
 このままずっと抱いていてほしい。強く、強く、けして離さないでほしい。

 溢れ出る厚志への思いを隠すことが出来ない。背中に回した手に力がこもる。

「みゅー、ちゃん」

 厚志の声と重なって、雨がトタン屋根を叩いた。
 トン、トン、と小さなリズムを刻むその音は、最初はゆるやかだったのにすぐに激しい音に変わっていった。
 リズミカルに、太鼓を叩くように。トントトン、トントトトトン、と音を奏でる。

 雨音に誘われて、ふと屋根を見上げる。
 トタン屋根に穿たれた、一ミリにも満たない無数の小さな穴から光がこぼれていた。
 それはまるで、星のよう。

 太陽をさえぎる雲のせいで、海の家は薄闇に包まれる。
 雨のリズムにまぎれて、誰かの声が頭に響いた。

――私の、だから。

 波の音が押し寄せてくる。
 あの日聞いた、厚志の声を思い出す。

 海の家の、この場所で。
 実由は見たくもない光景を目の当たりにしたのだ。

――厚志、好き。

 厚志にここでそう言ったのは、自分じゃない。

――俺も好きだよ。

 厚志がそう答えたのも、自分ではない。
 厚志が愛をもって見つめるのは、実由ではない。
 こうして、実由を抱きしめてくれるのも、実由を恋愛の対象としているからではない。
 ただ、流されているだけだ。
 実由の思いに流されて、自分を見失っているだけだ。

――好きだからって、人のもん奪い取るのかよ。ガキの理屈じゃねえか。

「嫌だ……」

 このままでは、人としてだめになるだけだと、気付いてしまった。
 厚志がいくら好きでも、厚志の気持ちの先に自分がいないのなら、こんな行為など、ただ空しいだけ。

――お前はいつだって、逃げてる。

 和斗の言葉が、壊れたラジオから流れる音楽のように掠れた音でリピートしていた。

 逃げているだけ。
 寂しさから逃れるために、誰かの愛を欲していただけ。
 厚志にすがりつくのは、厚志を好きだからだけじゃない。厚志になぐさめられることで、心に抱えたやりきれない思いを晴らそうとしていたのだ。
 厚志への気持ちにすげ替えて、自分の弱さをごまかしていたのだ。

「いや……」

 厚志と自分の体の間に両手を滑り込ませる。そのまま手に力をこめ、厚志から体をそらそうとする。

「みゅーちゃん?」

 いきなり暴れだした実由に、厚志は驚きの目を向けると同時に、迷いの表情を見せた。
 我に返り、今の状況を振り返った厚志のその顔は、ひどく狼狽している。

「あっくん、ごめ……」

 厚志の手から力が抜けて、必然的に実由と厚志の体は離れていった。

「私、どうかしてた……」

 零れ落ちる涙を我慢できず、手の甲で何度もぬぐう。

「あっくんには、理香さんがいるのに」

 厚志の顔が一瞬でこわばる。

「ごめんなさい……」
「みゅーちゃんは悪くない。俺のほうこそ、ごめん……」

 実由の肩に置かれていた厚志の手が、ゆっくりと離れていく。
 大きな手の平は、そのまま厚志の膝の上に置かれる。所在なげに佇む厚志は、眉間にしわを寄せ、苦しそうに小さくうなった。

「忘れよう?」

 さっきのことは、と実由は早口で言った。
 厚志の返事は無い。唇をかんで、うつむいているだけだった。

「あっくんの優しさに甘えてた。あっくん、私みたいなのがいるから、理香さんが本当に大切なら、誰にでも優しくしちゃ、だめだよ」

 涙で絶え絶えになる息の中、実由はそれだけ強く言って、立ち上がった。

 強がりだった。
 厚志に忠告することで、いっぱしの女をきどったふりをした。
 涙でボロボロになった実由では、本当にふりでしかなかったけれど。

 立ち上がり、鼻から零れ落ちそうな水っ洟をすすりあげる。ぬぐってもぬぐっても止まらない涙を、両手で叩くようにはじかせた。

「忘れて。お願い」

 厚志は視線を泳がせながらも、長い息を吐いてうなずいた。
 後悔に覆いつくされた厚志の心の声が、今にも聞こえてきそうだった。


 ***

 強く降り出した雨の中、実由は傘も持たずに歩いていた。厚志を置いて、すぐに海の家を出た。高山食堂に戻る気になんてなれず、ぼんやりと歩を進める。

 ノイズが走ったように目の前を眩ませる雨は、実由の体をあっという間にずぶぬれにした。
 濡れた体を抱えて、どこへ行くべきか迷う。帰る場所なんて、今の実由には無かった。
 ふらつく足は、力をこめようとしても無駄で、なんどもよろけてしまう。
 道路をはじく水が、サンダルをグチョグチョにする。
 土の匂いがあたりを包んで、黄土色に道路を変えていった。

 大粒の雨の向こうに、水族館の丸い屋根が見える。
 無意識の内に、水族館へと歩いていたのだ。

「ジー」

 どうしてこんなにもジーを求めてしまうのかわからなかった。
 だけど、やっぱりどうしてもジーに会いたくなった。
 ジーのそばに行きたくて、実由は病院に向かって踵を返した。

+++++++++++++

次話(37話)へ
目次へ
ブログTOPへ

拍手いただけると嬉しいです!

あとがき↓
すっかり週一更新になっております・・・すいませんです(涙)
あと10話くらいでラストなので、出来れば更新スパンを早めたいと思います。

あとちょっとなので、お付き合いいただけると嬉しいです。


追記を閉じる▲
すっかり週一更新になっております・・・すいませんです(涙)
あと10話くらいでラストなので、出来れば更新スパンを早めたいと思います。

あとちょっとなので、お付き合いいただけると嬉しいです。

【2009/04/27 03:05】 | 神様がくれた(恋愛)
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。