きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第35話 君は、残酷。

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 海の家は静けさに包まれる。
 朝を迎える少し前。かろうじて白み始めた空は雲に覆われ、地鳴りのような音が雲の向こうで響いていた。
 昨晩の天気予報では強い雨が降ると言っていた。
 雨はまだ降り出さないが、厚く重たい雲が空を覆いつくしている。

 実由は寝つくことが出来ず、海の家に来ていた。
 柱に寄りかかり、少しだけ開けておいた雨戸の向こうの空を眺める。
 湿った空気がまとわりついて、夏とは思えない肌寒さが突き刺さる。
 膝を抱えて、重たいまぶたをしぱたかせた。
 目をつぶると、太郎の姿を思い出してしまう。無事を祈るたびに、涙が込み上げてくる。
 早く朝になればいいと、いつまでも空を見つめる。
 だが、雨雲に覆われた空は、なかなか朝を告げようとはしない。

「みゅーちゃん?」

 突然、勝手口から声が聞こえてきた。
 肩をびくりと震わせながら振り返ると、そこには厚志が立っていた。

「どうしたの、こんな時間に」
「うん……あっくんは? どうしたの?」
「雨と風が強くなるっていうからさ、戸締まりの確認」

 そう言いながら、厚志は雨戸が閉まっているかひとつひとつ確認していく。
 がたがたと揺らして動かすと、雨戸はぴっちり閉じていった。

「建てつけが悪いから、けっこういつもテキトーに閉めてるんだ。雨水が入ってきたら、掃除が面倒だからね」

 すべてをきちんと閉じ終えると、むっとした暑さが充満する。
 かすかに雨の匂いがする。かび臭いその香りは、雨の到来を予感させた。

「みゅーちゃん、食堂に戻ろう」

 笑いかけてくる厚志の顔が見れず、実由はうつむいたまま首を横に振った。

「……和斗から犬のことは聞いたよ。大変だったろう?」

 柔らかい厚志の声は優しくて、心に沁みる。だから、涙がこぼれそうになる。
 我慢しようとしたけれど、目の前は涙の海に覆われて、いつの間にか零れ落ちた。

「今日は眠れなかった?」

 うん、とうなずく。

「そっか……そりゃあ不安だよな」

 厚志の手が、実由の頭にそっと触れた。指先が髪の毛を滑り落ちる。

「元気出せ。きっと大丈夫だから」

 こんな時に優しい言葉をかけられれば、どうしても涙は止まらなくなる。
 次々に落ちる涙の粒を手の甲で必死にぬぐいながら、実由はひたすらうなずいた。

「泣かないで、みゅーちゃん」
「ごめ、ごめん、なさい」
「謝ることじゃないって」
「あっくん、先に、帰って、いいから」

 嗚咽交じりの声で訴えるけれど、泣きじゃくる実由を放ってはおけなかったのだろう。厚志は実由の隣に腰を下ろし、「泣き止むまでいるよ」と笑った。

 なんとか涙を止めようと、喉に力を入れる。
 だけど、そんな風に我慢しようとすればするほど苦しくなるだけで、涙は一向に止まりそうになかった。

「ご、めんな……さい」
「何で謝るの」
「だって、あっくんに迷惑、ばっかり、かけてる」
「そんなことないよ」

 小さく笑って、厚志はまた実由の頭を軽くなでた。嬉しいけれど、切なかった。
 厚志の優しさは残酷だと思った。
 誰にでも優しい厚志。実由に優しくするのも、実由が特別だからじゃない。彼の性格がそうさせるだけ。

 理香が、なぜ厚志の優しさを嫌がっていたのか、今になってようやくわかる。
 気持ちが残っているのに優しくされたら、居たたまれなくなるのは、実由の方だ。

「優しく、しないで」

 わだかまる想いは声になる。

「そんな優しさ、辛いだけだよ」
「みゅーちゃん……」
「放っておいて。私のことなんか、放っといてくれればいいよ」

 声を振り絞って、腕の中に顔をうずめる。
 厚志の手が、実由の二の腕を掴んでくる。実由はびくりと体を震わせ、そっと顔を上げた。

「こんなに泣いてるのに、放っておけるわけない」
「あっくんは、ずるいよ! 私、あっくんが好きなんだよ?! そんな風に言われたら、どうすればいいの?」

 厚志の手に力がこもるのがわかった。

「俺にどうしてほしいの? 俺はどうすればいいんだよ?」
「わかんないよ……!」

 大粒の涙が落ちた、その瞬間。厚志の手は実由の髪の毛を掻き抱き、ぐいと引き寄せてきた。前のめりになる実由の体を受け止めて、体を寄せてくる。

 目の前がくらりと揺れた。立ちくらみに似た闇が一瞬襲って、触れる感触で我に返る。
 いつの間にか、実由の手は厚志の背中を掴んでいた。
 その態勢のまま、顔を無理やり上げて、厚志の目を見る。
 かち合った視線は、実由の体を突き動かさせた。

 Tシャツを掴んだ手に力を込めながら、顔を寄せる。厚志は逃げない。
 目を閉じ、唇に触れたその時、実由の脳裏は真っ白に染まっていった。
 
 一瞬、確かめるように離れたけれど、また目を見つめて、すぐに口付ける。
 厚志は実由の上唇を食んでくる。無意識の内に、実由は唇を開いてた。

 歯列をなぞってくる舌の感触。
 実由の首に回された厚志の手が、実由を引き寄せて離さない。実由もまた、厚志を離したくなくて、強く体にしがみつく。
 お互いを絡ませあいながら、甘い誘惑に落とされる。実由の背中をなぞる厚志の手の感触に体中が歓喜する。

「あ、っくん」

 吐息と共に漏れる。

「あっくん」

 それは、甘い甘い罪悪感。
 堕ちて行く快楽に身を委ねながらも、心は必死に抵抗していた。

 流される。
 厚志も、実由も。
 けして流されてはいけないのに。

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【2009/04/14 03:01】 | 神様がくれた(恋愛)
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