きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第31話 じっと耐える時。

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「昨日の月はね、ちょっと翳ってて、はっきり見えなかったよ。太郎も元気いっぱいだった。今日、連れて帰って、海の家に置いてもらうんだ」

 ジーのベッドの脇で、熱心に話し込む。
 ジーは布団に体をうずめて、うんうんとうなずいて聞いてくれる。

「和くんが……、あ、海の家の人ね。和くんが頼んでくれたの」
「そうか。よかった」
「和くん、無愛想だけど、優しい。ほんとはね、あっくんに頼みたかったんだけど、やっぱりちょっと気まずくて」

 少し涙が出そうになって、実由は慌てて、目頭をぬぐった。

「……つらいか?」
「うん」

 ジーはふと目を細めて、しわがれた手を実由に向けて開いた。指がちょいちょいと動いたのを見て、実由はそっとジーの手に触れる。

「ミュー。お前はお前が思っているほど、弱くない」
「うん」
「今は、力を蓄える時だ」

 実由の手を、ジーはぎゅっと握りしめた。

「がむしゃらに走らなければいけない時がある。だけどな、じっと耐えなければならない時もある」
「うん」
「今がその時だ。ミュー。じっと、耐えろ。足に力入れて、持ちこたえろ。今が踏ん張り時だ」

 自然と足に力が入っていた。地面を押さえつけるように、床と接した足の裏は引きつるくらいに力がこもる。

「踏ん張ったら、ちゃんと、ご褒美が用意されてる」
「ご褒美?」
「ああ。次の出会いだ」

 右の口角が上がって、ジーは意地悪そうに笑った。

「別れの次は出会いだ。失恋の後には新しい恋だ」
「そんなの、考えられないよ」
「今はな」

 実由は口を尖らせて、小さく文句をつぶやく。次の出会いなんて、そんなのよりあっくんがいいのに、と繰り返す。

「厚志とまた恋に落ちるかもしれん。別の誰かかもしれん。それは今、頑張ったお前に与えられるご褒美だ。だから、今は耐えろ、ミュー」
「ご褒美」
「そうだ」

 実由は大きくうなずいていた。
 また意地悪そうに笑って、ジーは握った手を振り回してくる。

「男で出来た傷は男で癒せ」
「うわあ。なんかエロい!」
「色恋沙汰なんてもんは、そんなもんだ」

 妙な説得力があって、なんとなく納得してしまった。
 ジーと話していると、心がほぐれる。
 ジーを支えるつもりで病院に来ているけれど、逆にジーに支えられている。
 実由はジーの布団を直しながら、ジーとの時間を大切にしようと噛みしめる。


 ***

 日も落ちて、辺りはすっかり闇夜に染まっていた。
 黒々とした雲がすごい速さで流れている。月は大きな雲に隠され、姿さえ見えない。
 いつもより肌寒い外気に、ショートパンツから伸びた足が、わずかに震えた。
 それでも、長い上り坂を歩くうち、体中がほてって寒さを忘れさせてくれる。
 上がる息を整えて、道路の先を眺める。
 広い道路の真ん中に伸びる白い境界線。途中から闇に溶け、見えなくなっている。上り坂の終わりだ。
 長く息を吐き出して、また歩を進める。
 実由の横を真っ黒な車が一台、猛スピードで通り過ぎていった。
 風が巻き起こって、耳元でうなる。髪を押さえ、「危ない車」とぼやいた。

 和斗が里美に「犬を拾った」と進言してくれたのは、昨日の夜の内だった。
 里美は実由の母同様、最初は渋っていたけれど、実由が「犬をずっと飼いたいって思ってたから、私がもらって帰る」と言ったところ、「それまでならしょうがないわねえ」と許可を出してくれた。

 海の家の仕事が終わって、ジーのお見舞いから帰った実由は、早速、太郎を迎えに水族館に向かっていた。
 水族館にずっといたままで保健所に連れて行かれてしまっては大変だ。だから、実由の足は自然と速まる。

 ジーは、ああして水族館に通うことで、太郎を守っていたのかもしれないと思った。
 ジーの発言からすると、家族とは不仲なのだろう。そうだとしたら、太郎を飼うことが出来ない。だから、わざわざ太郎の下へ毎日赴いていたのかもしれない。

 上り坂を上りきり、「つかれたー」と大声で叫ぶ。
 また一台、車が走っているのが見えた。
 車の風でなのか、白いビニール袋のようなものが、一瞬はねた。
 車はそれを避けるように右に大きく逸れて、何事もなかったかのようにスピードを上げる。
 白い何かは、また一瞬ひょいと動いた。

「なに、あれ」

 ビニール袋のような軽いものの動きではないことに、実由はすぐに気付いた。
 足を止め、じっと凝視する。
 白い物体はもう動きを止め、道路に横たわる。
 じんわりと、汗がにじんだ。

「あれ……」

 それが何なのか、目は正確に実体を捉え始める。
 ぼやけた視界がはっきりとその存在を主張して、明確に浮かび上がる。

 脇の下から、汗がどっと溢れ出た。
 足が動かない。

 風で白い毛並みが揺れる。
 まだらに赤く染まりながら。

 吸い込む息も、吐き出す息も震えて、体中が総毛だった。

「太郎……!」

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あとがき↓
しばらくは更新日に更新できないかもしれません。
なるべく更新できるように頑張ります!!



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【2009/03/18 02:58】 | 神様がくれた(恋愛)
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