きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第30話 大事な場所。

+++++++++++++ 

 まだまだ熱いのに、夏は終わりに向かって進みだしていた。
 つくつくぼうしやひぐらしが声を出し始めたのだ。

 食堂で仕事をしていた実由は、食器を片付けながら、夕焼けに染まりつつある外を眺めた。
 開けっ放しの入り口から、オレンジ色の淡い光が四角い陰影を残す。
 風鈴の音が小さく響く。それが無性にさびしさを煽った。

 零れ落ちそうになる涙をこらえて、テーブルをぐいぐいと拭いていると、海の家で働いていた和斗が戻ってきた。

「おかえりなさい」
「おお」

 疲れているのか、片手をあげるだけで、和斗はすぐに家に上がろうとする。実由はとっさに和斗のシャツを掴んで、引き止めた。

「和くん、お願いがあるの」
「……なに」

 一重まぶたの鋭い瞳が、実由を見下ろす。不機嫌そうな態度に実由はびくついて、持っていた布巾をぎゅっと握りしめた。

「犬を、拾ったの」
「犬」
「うん……」

 ジーに太郎の面倒を頼まれた。
 すぐに実由の家に連れ帰ることも出来ないから、まずは高山家に預かってもらう他ない。そのためには、高山家の承諾を得なければ、実由にはどうすることも出来ない。

 厚志に相談しようと思ったけれど、厚志とは距離を感じてしまって、頼みごとなんて出来なくなってしまった。

「私がおうちに帰るときに、連れて帰るから、それまで、ここに置いてくれたり……しないよね」
「どこで拾ったんだよ」
「水族館の近く」
「ああ……」

 短い頭髪をなでて、和斗は何かを思い出したかのように中空を仰いだ。

「母ちゃんに聞いてみるよ。うちは庭もあるし、大丈夫だろ」
「本当!?」
「俺が拾ったことにするから。お前は『犬を連れて帰りたい』って言え。その方がいいだろ」
「え? でも」
「お前も自分の親に確認取っておけよ」

 有無を言わさぬ態度で和斗はそう言うと、さっさと家の中に入っていってしまった。
 アルバイトで寝泊りしている実由が『犬を置いてくれ』なんて言うのはわがままだ。
 だからこそ、わがままが通るであろう自分が拾ったことにすると、和斗は言ってくれたのだ。

 ぶっきらぼうで冷たい。けれど、優しい。
 実由は和斗の表には出にくい優しさをかみしめて、背中に向かって小さくお辞儀した。


 ***

「たろー!」

 上がり坂になった道路を走りながら、白い塊に向かって駆け出す。
 道路の上にいた太郎は、実由の声を聞き分けて、三角形の耳をピンと立てた。

 和斗に話した後、実由はすぐに母親に電話した。
 玲子は最初、かなり渋っていたが、最終的には実由の熱意に負けて了承してくれた。

 実由が世話をすること、散歩もエサも実由がやること。ちゃんとしつけること。家犬として家族に迷惑がかからないよう、実由がしっかり面倒を見ることが条件になった。

 太郎が家族の一員になる。
 ジーとは離れ離れになるけれど――太郎も実由も――ジーとの絆の証を連れて帰れることが実由には嬉しくてたまらない。

 太郎のそばに行くために、全速力で走る。
 だが、太郎は案の定、鬼ごっこと勘違いして走り出してしまった。
 ジーといつもいた水族館の裏庭に向かって行く。
 まるで、実由をそこに連れて行こうとするように。

 駐車場を横切り、生垣を乗り越えて、裏庭にたどり着く。
 すでに到着していた太郎は、ジーがいつもダンボールを敷いている場所に行儀よく座って、振り返ってきた。
 ぺろりと舌を出し、大きく息を吐き出す。
 実由は隣に座ると、額にかいた汗をぐいっと手の甲でぬぐった。

「太郎。私と太郎、家族になるんだよ」

 思いっきり顔を舐められる。くすぐったくて、実由は笑い声を上げる。

「うちはね、あんまり広くないけど、お母さんがきれい好きだから、けっこう居心地いいよ。うちに帰ったら、私の部屋に連れてってあげるね。お気に入りのベッド、寝かせてあげる。ピンクのベッドカバーをかけててね、アロマの芳香剤置いてるの。すごくリラックスできるんだよ」

 話している内、あんなにも帰りたくないと思っていた家が急に愛おしく思えてきた。

 モノトーンに染まっていた自分の部屋の光景が、少しずつ少しずつ色を取り戻していく。
 ベッドカバーのピンク色、白い机、揺れるレースのカーテン……花開くように、記憶の中で鮮やかに咲いていく。

 初めて気付いた。
 大事な場所だったことを。

 どこにも居場所が無いなんて、自分を哀れむ弱い心が創り出した幻影に過ぎなかったのだ。本当は、きちんと目の前にあった。
 曇った目が、それを見えなくさせていただけで。

 居場所をなくさせていたのは、自分自身の心の弱さだった。

「私、しっかりしないといけないね。太郎のこと、面倒見るんだもん」

 太郎の毛を逆さになでる。
 毛が逆立っていくのを直して、また逆立たせる。それを繰り返しながら、実由は少しずつ気持ちが落ち着いていくのを感じていた。

 居場所なんて、あってないようなもので、ないようであるものなのかもしれない。
 見失うのも、無くしてしまうのも自分自身で、創り出すのも、見出すのも自分自身なのだと、思い知った。

「私が、ジーを支えてあげるんだ」

 ジーには、本当の意味で帰る場所が無くなる。今までの居場所と、ジーは決別しなければならない。
 実由とは、違う。

 だからこそ、ジーのそばで、ジーを守りたい。
 残り少ないこの夏の時間を、ジーと共に過ごそうと、誓う。

 見上げる空の上。
 群青色の雲に翳る月。
 光は降り注いで、波間を白く染める。
 真っ黒な海は、潮騒の音を奏でる。

 ジーと見た光景を、目に焼き付ける。
 ジーに話して聞かせるために。

+++++++++++++

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あとがき↓
急に忙しくなって、しかも風邪が治らなくって、更新がままならない状態になってしまいました(;ω;)
最近、「更新できなくてすいません」ばっかり言ってる・・・(涙)

忙しいのは一応あと少しで終わりなので、ちゃんと更新できるはず、です(涙)

最近、春らしい天気が続いてますね(^^)
花粉症の方はつらいシーズン到来でしょうか?

一応まだ花粉症じゃないのですが、花粉が多いっぽい日は目がしぱしぱします。
「それが花粉症の始まりだ!」と言われて、ちょいとびくびくしてます(笑)
花粉症にだけはなりたくないっ


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急に忙しくなって、しかも風邪が治らなくって、更新がままならない状態になってしまいました(;ω;)
最近、「更新できなくてすいません」ばっかり言ってる・・・(涙)

忙しいのは一応あと少しで終わりなので、ちゃんと更新できるはず、です(涙)

最近、春らしい天気が続いてますね(^^)
花粉症の方はつらいシーズン到来でしょうか?

一応まだ花粉症じゃないのですが、花粉が多いっぽい日は目がしぱしぱします。
「それが花粉症の始まりだ!」と言われて、ちょいとびくびくしてます(笑)
花粉症にだけはなりたくないっ

【2009/03/16 02:22】 | 神様がくれた(恋愛)
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