きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第29話 私がいるよ。

+++++++++++++ 

 端に置いてあった椅子を引き寄せて座る。
 ジーとの目線が近付いて、実由はなんとなく、ジーの指に触れた。
 かさかさとした潤いの無いしわがれた手。でも、広くてごつごつとしていてたくましかった。

「ジー、げんいちさんっていうの?」
「ばれちまったか」
「うん」

 いたずらがばれた子供みたいに、ジーは舌をちろりと出して笑う。

「私は……」

 ジーの本名を知ってしまったのだから、自分の本名も、と思って言いかけて、止めた。
 どうしてなのかわからないけれど、まだ知られたくないと思った。
 ジーの前では、『ミュー』でいたかったからなのかもしれない。

 ジーの手が実由の指をかすめて、指先をつまんだ。そのままゆらゆらと指を揺らしてくる。実由はこそばゆい気持ちになって微笑んでいた。

「ジー、あのね」

 恥ずかしくなって、うつむく。照れ隠しに実由も指を揺らしてみる。

「ジーがいなくて、寂しかった」
「そうか」
「ジーがいないと、寂しい」
「そうか」

 だから。実由はささやいて、ジーをじっと見下ろす。
 どうしても伝えたかった。
 ジーが好きだから。ジーが大好きだから。

「ジーには、私がいるからね」

 ジーと実由。同じ二人。どうしようもない孤独感に包まれて、海を眺める二人。『同じ』だなんて、実由の思い違いかもしれない。
 でも、本当に『同じ』だとしたら。

 言ってほしい言葉があった。
 かけてほしい言葉があった。
 誰でもいいわけじゃない。心から欲する人に、言ってほしい。

 そして、言いたい言葉。

「いつだって、私がいるよ」

 ずっとそばにいれるわけじゃない。でも、そばにいることだけが、全てじゃない。
 だからこそ、実由は、どうしても言いたかったのだ。

「ミュー。お前さんは優しいいい子だ」

 ジーは目を細めてそう言うと、実由の髪をそっとなでた。

「俺はな、ミュー。どこにも帰れないんだ」
「うん」
「もう帰る場所は無い」
「うん」

 ゆっくりと落ちるジーの手を、実由は掴んでいた。冷えた指を温めるように、両手でしっかりと握りしめる。

「太郎の世話を頼まれてくれないか」
「うん」
「悪いな」
「大丈夫だよ」

 なぜだか、涙が込み上げる。
 でも絶対泣いてはいけないと、実由は喉に力を入れてこらえる。

 里美から、ジーの症状を聞いていた。
 ジーは腰骨を折った。
 歩くために必要なのは、足だけじゃない。腰の方が重要だったりする。
 ジーはもう歩けなくなるかもしれない。
 リハビリをすればいずれ歩ける可能性はあるが、老体のジーがリハビリという訓練に励めるのか、家族がリハビリを支えてあげられるのか。

 本人の頑張り次第とはいえ、困難なことだった。

 ジーもそれをわかっていたのかもしれない。
 諦観に包まれた暗い表情を実由に見せまいとしているけれど、時折陰りを見せる目が、それを訴えていた。

「また来てもいい?」
「ああ」
「ジー、忘れないでね。ジーには、私がいるよ」
「ああ、わかってる」

 いつもみたいに、右の口角だけを上げて笑う。その笑い方が、実由は好きだ。

「ジーのこと、大好き」
「ありがとう」

 誰よりも好き。

 実由はくり返しくり返しつぶやいて、その度にジーの手を強く握った。
 最初はうなずいていたジーも最後の方には「わかったから」と苦笑する。
 それでも、実由は繰り返す。

「ジーが好き」


 ***

――歩けなくなるかもしれないから。

 蝉の声が鳴り響く。
 病院の敷地の外に広がる林の奥で、雨のように降り注ぐ。

――園原さんちではお世話できないかもしれないって。

 立ち尽くして、空を仰ぐ。
 熱を放射する太陽の光はまっすぐに実由を貫く。

――少し入院したら、都内の方にあるリハビリセンターに入るんだって。

 吐き出す息が震えて、心も震えた。

――それでも歩けなかったら。

 じりじりと地面から熱が這い登る。蛇みたいに足に絡み付いて、足だけが熱を発する。

――老人ホームに入れるそうよ。

 火照った体は、言うとおりに動いてくれない。足先がむくれたみたいな、奇妙な感覚がじわじわと忍び寄る。

――しょうがないのよ。現実的に考えたら、ご家族だって、お世話できないし。

 歩けなくなった人の介護がいかに大変かくらい、実由にだって想像がつく。
 トイレに行くにしろ、お風呂に入るにしろ、ささいなことがもう一人では出来なくなるのに、四六時中そばにいて介護することは並大抵の努力ではできないだろう。
 そうなれば、必然的に答えは出てしまう。
 助けてくれる人がいるところへ行かせるべきだと。

 ジーが望んだとしても望まなくても、それがジーにとっても家族にとっても一番なのだ。

 うつむいた実由に、里美はそう何度も説明してくれた。

 実由も、里美の言うことを理解していた。

 だから、苦しかった。

 ジーは、もう今までどおりには生きられない。
 あの場所で月を見ることは二度とない。
 ジーと太郎と実由。二人と一匹の、あの時間はもう二度と訪れない。

 ジーと、会えなくなる時が来るかもしれない。


 ミンミンゼミの鳴く声が、耳の奥でずっと響いていた。

+++++++++++

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あとがき↓
更新が遅れまくってしまい、申し訳ありません。
仕事の他、色々ごたついてしまい、執筆が思うように出来ませんでした(^^;
今現在も、かるーいスランプで執筆が進んでません・・・

でも頑張って書き上げます!!

風邪をひいてしまいました。
読んでくださってる皆様も風邪に気をつけてください(^^)


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更新が遅れまくってしまい、申し訳ありません。
仕事の他、色々ごたついてしまい、執筆が思うように出来ませんでした(^^;
今現在も、かるーいスランプで執筆が進んでません・・・

でも頑張って書き上げます!!

風邪をひいてしまいました。
読んでくださってる皆様も風邪に気をつけてください(^^)

【2009/03/11 03:40】 | 神様がくれた(恋愛)
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