きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第26話 ジーに会いたい。

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 次の日も、ジーはいなかった。
 芝生の上に座り、実由は空を仰ぐ。

 ジーはどこに行ってしまったのだろう。ジーをかぐや姫のようだと思ったけれど、まさか月に帰ってしまったのだろうか。
 ばかげた想像して、「あるわけないし」と首を振る。

 太郎の毛をなでながら、小さなため息をもらす。
 厚志は、いつも通りにふるまってくれる。実由に笑いかけ、優しくしてくれる。
 それが、苦しい。

 和斗には諦めるなんて言ったけれど、気持ちはそう簡単には切り替えられない。
 そばにいればいるほどに、気持ちは強くなる一方で、終わりにしようと思えば思うほど、終わりなんて遠ざかっていく。
 お盆まで働くことにはなったけど、もうここにはいないほうがいいのかもしれない。
 そう思ってはいても、離れることを拒む自分がいる。

 ぎりぎりまで、そばにいたい。
 でも、それは苦しいだけ。

 矛盾する葛藤を何度もくり返し、見い出せない答えを探し求める。

 諦めるしかない。
 実りのない恋をずっと続けていても、意味がない。

「わかんないよ……」

 にじみでてくる涙をなんとかこらえる。目の奥がツンと痛んで、よけいに涙が出そうになる。

「苦しい」

 いつまでこんな気持ちを抱え続けなければならないのか。

 終わりはある。
 いずれ、気持ちは終わりを迎える。それを知ってはいても、今の自分には『終わりが見えない』のだから、苦しさは消えやしない。
 真っ暗な道の先を思い、ぐるぐると思考が渦巻く。

「助けてよ、ジー」

 そばにいて、話を聞いてほしかった。うなずいてくれるだけでいい。馬鹿にして笑われたっていい。
 ジーがいるだけで、それだけで救われる。
 ジーの包み込むような優しさをひたすらに欲している。

 実由の髪の毛を、太郎がパクパクとくわえて遊んでいる。
 実由は小さく笑って、太郎の頭を小突く。

 たった数週間なのに、こんなにも大きな存在になる人がいる。そんな人に出会えたことが嬉しい。

 空には満天の星。光は降り注ぎ、海に反射する。波の音はゆるやかに響いて、心地良い感覚を与える。
 まぶたを閉じて、流れる涙をそのままに。

 明日、ジーがいなかったら。
 ジーを探そう。
 ジーに会って、ジーに伝えたいことがある。

 実由は心に誓う。



 ***

 空は朝焼けで真っ赤に染まっていた。空と同じ色に、海も染まる。
 燃えるような赤が一面に広がって、太陽の光が鮮やかに伸びる。
 畳にこびりついた砂を掃きながら、実由はガラス戸の向こうの世界を見つめていた。
 あまりに赤すぎる世界。
 まるで、別の次元の世界のようだった。

「手、止めんな」

 和斗の声で我に返る。
 和斗は台所の掃除をしながら、実由に鋭い目を向けた。

「ごめん」
「……ここにいるの、つらいか」

 和斗の低い声は聞き取りづらくて、実由は「え?」と聞き返す。けれど、和斗はもう一度は言ってくれなかった。

「つらいか? って聞いた?」

 返事をしてくれない。でも、きっとそう言ったのだろうと実由は勝手に解釈して、首を横に振った。

「大丈夫」
「だったら、いいけど。我慢はするなよな」
「心配してくれてるの?」
「浮かない顔されりゃ、誰だって心配になる」

 つっけんどんな言い方だけれど、和斗が嘘をつかないことを実由だって知っている。
 心配させてしまったと、申し訳ない気持ちになると同時に、嬉しかった。

「和くんは、優しいね」
「うるせ」
「ありがとね」

 実由の言葉を聞いていたのかいなかったのか、和斗は何も言わずに、台所の掃除を再開させた。
 照れ屋だなあ、と実由はこっそりと笑う。


 ***

 ジーがあの場所に現れなくなって、三日がたった。
 これまでジーが裏庭にいなかったことなんてなかったから不安はどんどん募っていく。

 実由は、水族館からの帰り道、いつも通らない路地の方へと入っていった。
 ジーの家がどこにあるのか知らないけれど、この辺に住んでいるのは確実だ。
 ジーの居場所がわかれば、ジーの安否がわかる。

 怖くて仕方なかった。

 若く見えるが、ジーはもう年寄りだ。
 見た目が元気だって、いつ死んでしまうか、わからない。もしかしたら、と思うとぞっとしていてもたってもいられない。

 家の窓からは光が漏れ、晩ご飯の匂いが漂う。
 どこかの家で魚を焼いているのだろう。焦げ臭い香りがあたりを充満している。

 窓をそっとのぞきこんでは、次の家に行く。
 ほとんどの家は家の中まで見えないけれど、なんとなく団欒しているかどうかくらいはわかる。

 ジーは、和やかな家庭の住人ではないだろうと実由は予測していた。
 そうでなければ、「帰る家が無い」なんて言うはずがない。
 実由のように、家庭円満でも「帰る家が無い」なんて言いだすこともあるけど。ジーが、自分とその部分まで同じとは、実由には思えなかった。

 ブロック塀の向こう側で、様々な家庭が、様々な姿を見せる。笑い声の絶えない家もあれば、テレビの音さえ聞こえてこない家もある。

 二階から音楽が騒音を出す家、写経が聞こえてくる家、掃除機の音が響く家。

 ジーのいる家がどれなのか、全くわからない。
 苗字も名前も知らない。ジーが何者なのか、全くわからない。

 もうジーには二度と会えない気がした。
 そう思ったら、胸の中がざわついて、気持ち悪くなる。

 そんなのは嫌だと、心が叫ぶ。

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【2009/03/03 03:39】 | 神様がくれた(恋愛)
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