きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第25話 埋まらない、寂しさ。

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 苦しいくらい寂しくなるのは、何が原因なのだろう。

 友達もいる。家族もいる。なにひとつ不自由していない。
 なのに、小さな隙間風は止むことなく入ってきて、わずかにある温もりを奪い去っていく。
 失いゆくものを逃すまいと、体を縮こまらせて両腕で包んでも、どこからともなく落ちていく。
 空洞になった心は埋まる術を知らない。
 穿たれた穴はいつまでも開いたまま、カラカラになった心を逆なでする。

 それはいつしか、涙となって流れて、それも乾いた頃、思い知らされる。

 独りなのだと。

 だから、求めるのかもしれない。
 そばにいてくれる人を。すべてを受け入れてくれる人を。ひたすらに愛してくれる人を。

 空を見上げて、実由は深いため息をついた。
 ぼんやりと浮かび上がる月は、煌々と光を湛える。
 照らしだされた雲は、ゆっくりゆっくりと流されてゆく。

 水族館の裏庭にたどり着いた実由は、太郎の後姿を見つけた。
 白い毛並みが月に照らされ、風に揺れている。
 太郎は行儀良く座って、ハッハッと息を吐き出していた。
 隣に、ジーはいない。

「太郎」

 呼びかけると、太郎はすごい勢いで振り返ってきて、実由に飛びつく。中型犬といえども太郎の突撃は、けっこう痛い。
 どつかれたおなかを片手で押さえながら、太郎の頭をなでると、太郎は「きゅうん」と鼻を鳴らした。

「太郎、ジーは?」

 聞いても、答えられるわけはないけれど、ジーがこの場にいないことは初めてだったから、不安が込み上げる。
 青々と生えた芝生にはいつも敷いてあるダンボールもない。
 ジーがいた痕跡はどこにもなかった。

「ジー、おうちに帰ったのかな」

 初めて会ったころを思い出す。
 ジーは帰る家が無いと言っていた。家はあるけど帰る家は無いと、実由と同じなのだと、笑っていた。
 ジーは、いつもどこにいて、何をしているのだろう。
 帰る家は無くても、家があるのなら、それは一体どこにあるのだろう。

 実由は、ジーのことを何も知らないと、今更気付いた。
 自分の話ばかりをくり返し話して、ジーのことを問いただしたのは、奥さんのことだけだ。

――失って気付くことの方が多いんだよ、ミュー。

 急にジーの言葉を思い出した。

 ジーの奥さんは、もうこの世にはいないのだろう。
 だからこそ、ジーはあんなにも写真を愛しそうに見つめていたのだ。

 芝生の上に座ると、しっとりと湿った感触が太ももをなでた。気付かぬうちに一雨ふっていたのかもしれない。
 膝小僧を抱え、目をつぶる。

 失って、気付く。小さく呟いて、月を見上げる。
 月はいつもより一段と光り輝いて、クレーターがはっきり見える。もちをつくうさぎたちの姿を、実由は久しぶりにじっくり見た。

 かぐや姫は、何を思い、あの月を眺めていたのだろう。

 帰りたかったのだろうか。自分の在るべき場所へ。

「帰りたい……」

 どこへ? と聞かれたら、きっと答えを出すことは出来ない。それでも、実由は帰りたいと思った。
 自分の家でもない、学校でも、高山食堂でもない。
 どこか、自分がいるべき場所。誰かの隣。必要とし、必要とされる人のところへ。

 それは、未来の自分の姿なのかもしれなかった。

「寂しい」

 溢れかえる気持ちは胸の中で膨れ上がって、大きさを増して重くなる。
 抱えきれないこの気持ちを、どうすればいいのか。迷い込んだ道は複雑で困難で、行き先さえ見えなかった。

 ジーに会いたいと、心はくり返し叫ぶ。
 明日はジーはいるだろうか。
 明日まで、耐えるしかないと、実由は太郎を抱きしめる。
 実由の耳を太郎がなめるから、実由はくすぐったくって笑ってしまった。


 ***

 高山食堂に戻ると、待ち構えるように和斗が玄関に座っていた。

「どうしたの」
「いや……」

 斜め下を睨みつけながら、和斗は後頭部をぼりぼりと掻く。

「昼間は、悪かったよ……」
「別に、気にしてない」

 素直に謝られると、逆にすました顔をしてしまう。
 実由はわざと無表情を作って、和斗の横をすり抜けようとした。だが、和斗が寸前で実由の腕を掴んで、制止する。

「悪かったって」
「気にしてないってば」

 お互い、意地の張り合いになるような言葉を吐き出してしまって、実由は少し笑ってしまった。
 こんな問答を繰り返していたら、仲直りなんて出来やしない。

「和くんの言うこと、当たってるもん。だから、和くんも気にしないでいいよ」

 和斗の耳が赤く染まっていることに気付く。
 案外、照れ屋なのかもと思うと、なんだかかわいく思えてしまう。

「どうすんだよ」
「諦める」

 それしかもう手はないことを、実由だってわかっていた。

「家族みたいに仲良くしていきたいって、言ってもらえたから。もう、それでいい」

 それは、自分を認めてもらえたことと同じだ。
 恋人にはなれなくても、厚志と実由との間には二人なりのポジションがある。そこにきちんと自分が存在することを、実由は少なからず嬉しく思っていた。

 それでいいと思うしかなかった。

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【2009/02/28 03:13】 | 神様がくれた(恋愛)
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