きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第24話 大人になりたい。

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 厚志に触れられた箇所がうずく。
 頬に太陽の熱が集中して当てられている気がする。
 心臓の音が指の先端にまで響いて、体が動かない。
 厚志の大きな手の温度は実由の体温よりも低くて、そこだけ熱を奪われたように感じる。
 うつむいたまま、目をつぶり、ゆっくりゆっくりと数を数える。
 そうすることで心を落ち着けようとしていた。あるいは、過ぎる時間を心に刻みつけようとしていたのかもしれない。

 海風が実由の前髪をなでる。風の中に混じった潮の香りに、体は少しずつ冷静さを取り戻していった。

「みゅーちゃん」

 厚志の小さな声に、実由は顔をあげた。厚志の顔がすぐ近くにある。
 二重まぶたのタレ目の奥に、実由の顔が映っていた。

 厚志は一瞬口を動かしただけで、動こうとしない。
 静寂の中に、波の音だけが木霊する。

「あ、」

 沈黙に耐え切れず、実由が言葉を発しようとしたそのとき、防波堤の上で黒い影が揺らいだのが見えた。

「兄貴」

 ひょこりと短い頭髪が動く。和斗がまぶしそうに目を細めながら、実由と厚志を見下ろしていた。

「母ちゃんが呼んでる」

 呼びかけられた厚志は実由の体から手を離し、声の方に体を向けて「わかった」と返事する。

「みゅーちゃん、こういうの、やめよう」

 テトラポットに足をかけ、少しかがんだ体勢で、厚志は実由の耳元でささやいた。
 和斗に聞こえないようにするためだろう。本当に小さな声だったから、実由は聞き逃しそうになって「え」とかすれた声を出すことしか出来なかった。

「じゃ、みゅーちゃん。俺、行くから」

 いつもの優しい笑みを浮かべて、厚志はひょいひょいと足を動かして、テトラポットの山から離れていった。
 実由はその後姿を見つめながら、しおれていく心と向き合うしかなかった。

「帰らねえのか」

 防波堤の上から、和斗が呼びかけてくる。
 実由は首を振って、膝を抱えて座り直した。

「あのさあ」

 影が実由を覆い尽くす。いつの間にか、和斗は実由のすぐ横に立っていた。

「そういうやり方、俺は気にくわねえな」

 何のことを言われたのかわからず、一瞬考え込む。けれど、思考回路はすぐに追いついて、気付く。
 厚志と実由のやり取りを、和斗は見ていたのだ。思わず、和斗を睨みつける。

「和くんには、わからないよ! 私、あっくんが好きなんだもん!」

 大声で叫んで、歯を食いしばる。くやしかった。和斗に否定されたことが、くやしくてたまらない。

「好きだからって、人のもん奪い取るのかよ。ガキの理屈じゃねえか」
「ガキだもん! まだ子供だもん! しょうがないじゃん! 好きなんだから!」
「理由つけて、正当化すんな」

 和斗の目が、冷たくぎらついた。
 それは、実由を心底軽蔑した目だった。

「最悪だな」

 ぼそりとつぶやかれた言葉が、重りのように胃の底に落ちる。
 背を向け歩き出した和斗の背中は、実由を拒絶して、遠ざかっていく。

 鼓膜を震わす、船の警笛。
 テトラポットに当たって跳ね返った潮水が実由の背中に雨のように落ちる。

「だって……」

 誰にも聞こえないのに、喉の奥で言い訳が踊り狂う。

 どうすればいいのかわからなかったから。
 どうしても厚志に自分を見てほしかったから。
 こんな風でしか気持ちを伝えられないと思ったから。

 たくさん出てくる自分の行動への言い訳は、溢れ出て一回転して、ミキサーにかけたみたいに粉々に砕け散る。

 どれもこれも、後付けの理由でしかない。
「こうするしかなかった」と自分に言い聞かせるためだけの理由を探して、自分の行動の責任を別の場所に置いて来ようとする。
 卑怯で浅ましいやり方。

「最悪……」

 太陽光線が網膜に残ってめまいがする。力の入った眉間が痛くてたまらない。
 テトラポットを伝って、波の音が足元を揺らしていく。
 海に浸かり、身を任せているときの、あの浮遊感が胃を押し付ける。
 ゆらゆらと揺れて。
 流される。
 気付かぬうちに、全然違う場所に流される。

 逆らうことも知らない。
 抗うことを知らない。
 ただそのまま、流されることしか出来ない。

 情けなくて、恥ずかしくて、実由は突っ伏したまま、息を飲み込んだ。

「私、どうしてこうなんだろう……」

 初めて、大人になりたいと思った。
 わがままなままでいられる、王様のように君臨できる子供のままでいたいと、ずっと思ってた実由が、初めて、大人になることを望んだ。

 世界は、自分のためにあるんじゃない。
 中心にいるのは、自分じゃない。

 利己的にしか生きられない自分が、嫌で仕方なかった。
 何が正しいのか導きだせる、大人になりたかった。

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あとがき↓
更新が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
仕事も一段落しましたので、また毎日更新していきたいと思います。

最近、噛みしめていることがあります。
素直であること!

日々生活していて、色々感じることがあります。
そういうものを物語に還元できていけたらいいなと思ってます(^^)




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更新が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
仕事も一段落しましたので、また毎日更新していきたいと思います。

最近、噛みしめていることがあります。
素直であること!

日々生活していて、色々感じることがあります。
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【2009/02/27 04:27】 | 神様がくれた(恋愛)
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