きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第22話 後悔を繰り返して。

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 カキ氷の器を持った厚志の手にきゅっと力がこもったのがわかった。
 実由をじっと見下ろして、小さく息を吸い込む。

「好きになったら、だめ?」

 実由は目をそらさない。
 ここで引いてしまったら、もうこの恋愛は終わりだ。それをわかっているから、絶対に引かない。

「みゅーちゃん、冗談だろ?」

 厚志の口元から、ぎこちない笑みがこぼれる。
 冗談だと思いたいだけで、本当は実由が冗談でこんなことを言っていないってわかっている顔だった。

「私が、あっくんのこと好きになったら、迷惑?」
「俺には……」
「理香さんがいたって、関係ないもん」

 実由のセリフとかぶって、店の外から大声が聞こえてきた。
 それを好機にと、厚志はさっと立ち上がってしまった。

「あっくん」
「みゅーちゃん、ごめん」

 それだけ言って、厚志は台所から出て行ってしまった。
 どうやら声の主は客だったようで、厚志の丁寧な応対の声が聞こえてきた。

 実由はため息をついて立ち上がり、カキ氷を一口食べる。

 まだ、終わりじゃない。
 勝負はこれからだ。


 ***

「ジー、こんばんは」

 今日もジーはいつもの場所にいた。
 太郎はどこかに行ってしまったのか、ジーのそばにいない。
 ぷかりぷかりと空にむかって飛んでいく丸いわっかを眺めながら、実由はジーの隣に座った。

「ジーはさ、略奪愛ってどう思う?」
「なんだ、強奪でもしてきたのか?」
「略奪って言ってるじゃん」
「同じようなもんだろ」

 奪い取る、という意味では結局、略奪も強奪も変わりは無い。
 頬をふくらませて「そうだけどさ」と小さくつぶやくと、ジーは鼻から煙を吐き出して笑う。

「好きな人が出来たの……」
「いいことじゃねえか」
「でも、カノジョがいた」
「そうか」

 膝小僧の間に顔をうずめて、そっと目を閉じる。
 さざなみの音だけが鼓膜に響いて、波に揺られている感覚に陥る。

「奪っちゃおう、って思ってる」
「そうか」
「でも、そんなの、最低だよね」
「まあな」

 目を閉じているから、ジーがどんな表情をしているかなんてわからない。
 軽蔑しているだろうか。飽きれているだろうか。怖くて、目を開けることが出来ない。

「好きなんだもん……」
「そりゃ仕方ない」

 あっさりとしたジーの返答に、実由は戸惑う。
 顔をあげてジーの顔を見てしまおうか。
 そう思うのに、決意は出来ずに、ぐいぐいと膝に額を押し当てる。

「誰かの幸せを蹴っ飛ばして、自分が幸せになろうとする人って、最低だよね」
「まあ、そうだな」
「私、そういうことをしようとしてるんだよ」
「したけりゃすればいい」

 嘲笑も軽蔑も、その言葉には含まれていなかった。
 どんな感情がこもっているかもわからない、ジーの言葉。

 実由はやっと顔をあげて、ジーを見る。
 ジーはいつもと同じ表情で、煙草をふかしていた。

「思うとおりに生きればいい」

 長く煙を吐いて、ジーは実由に笑顔を向けてくる。
 深く刻まれたしわが口元で八の字を描いて、目尻をしわくちゃにする。

「後悔をたくさん繰り返して大人になれ、ミュー」

 肯定も否定もしない。
 ジーはただ、優しい眼差しを実由に向けるだけ。

「ジー……」

 ジーが大好き、実由は心の中で繰り返した。

 欲しい言葉とか言われたくない言葉とかたくさんあるのに、ジーはそのどちらも言わない。でも、心に深く染み渡る。

 人生の先輩がくれる言葉だから、素直に受け入れられるのかもしれない。実由の何倍もの時間を生きた人の言葉だから、納得できるのかもしれない。

 けれど、それだけじゃない。
 それだけだったら、こんなにもジーを愛しいと思えるわけない。

「ありがとう、ジー」

 ゆるやかな風が耳元をくすぐる。
 ジーが見つめる月を、実由も見上げる。

 ジーは何を思い、何を感じながら、あの月を眺めているのだろう。

 少しだけ欠けた月は、真っ白な光を放って、空にぽつんと咲き誇る。


 ***

 高山食堂に戻ると、実由はすぐに自分の部屋に入った。
 布団に体を投げ出して、開けっ放しにした窓に顔を向ける。
 夜風が火照った顔を冷やしてくれる。

 体を起こして、窓に寄りかかった。
 街灯の少ない田舎町の夜空は真っ黒で、闇の色に染まった木が、かさかさと音を立てる。
 時折、ジ、ジ、と虫の声が聞こえて、遠くから波の音が押し寄せてくる。

 散りばめられた星が瞬く。藍色の雲がゆるやかに空を流れていく。

――わかってる。別れるんだよね?
――うん。……別れよう。

 ふと、元彼との別れ際を思い出した。
 うつむき加減で、実由の顔も見ずに、独り言のようにささやかれた。
 何を言われたのかわかっていたけど、あまりに小さな声だったから、実由は「え?」と聞き返していた。

 何度、出会いと別れを繰り返すんだろう。
 今この胸にあるこの気持ちも、いつかは冷めて消えていくのだろうか。

 疑問が脳裏をかすめる。

 大好きだった。元彼のことも、大好きだった。
 なのに、気持ちはいつの間にか無くなって、うたかたの夢のように、儚く散った。

――俺は実由のことが好きだったけど。
――うん。
――今は違う。
――うん。わかってる。

 気持ちはいつか流されて、別の場所にたどり着く。
 どこに行くのかなんて、わからない。
 母が実由を「風船のよう」と言っていたけれど、恋愛のことだってそうなのかもしれない。

 ふわふわと浮いて、風に流されて、誰かの手にたどり着いても、また手を離されて。

 流されて、飛んでいく。

 あてもない空の中に、吸い込まれるように。

++++++++++++

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【2009/02/20 03:04】 | 神様がくれた(恋愛)
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