きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第19話 厚志は、私の。

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 人の喧騒は、海の家に活気をもたらす。
 夏の日差しは容赦なく降り注ぎ、涼を求めた海水浴客は次々に海の中に飛び込んでいく。

 実由はラムネの瓶を子供に渡したあと、辺りを見渡した。
 今日も厚志は休みを取って理香たちと過ごしている。
 海の家から少し歩いた砂浜にパラソルをたて、理香の友達も交えて四人で棒倒しをして遊んでいた。

 今日は波が高い。白く泡立つ波間の中に人の頭がいくつも見え隠れする。
 波の揺れにあわせて上下する頭の数を数えて、途中でどこまで数えたかわからなくなってしまった。せっかく数えたのに、なんだかくやしくて大きくため息をついた。

 汗ばんだTシャツの衿をつかみ、パタパタと揺らして風を体に当てる。動いていなくても噴き出す汗が、不快感をよりいっそう強める。

「実由ちゃん」

 ふいに声をかけられ、実由は声をうわずらせて返事をした。
 ビキニの上からパーカーを羽織った理香が、先っぽだけぬれた髪の毛をなでながら近付いてくる。

「私にもラムネちょうだい」
「あ、はい」

 冷蔵庫の中からラムネを取り出し渡すと、理香はにっこりと笑って「これ、小さいころから好きなの」と言いながら座敷に座る。

「このビー玉が欲しくてさ」

 蓋代わりのビー玉を指差す。

「集めて、宝箱に入れてた」

 実由に笑いかけてくる大きな瞳は愛らしくて、女の実由でも視線を送られるだけでドキドキしてしまう。
 二人きりになってしまったことが、実由はきまずくてしかたない。
 話題が無いか探して、厚志のことしかないと気付く。聞きたくもないけれど、微妙な空気に耐え切れず、実由は質問してしまった。

「あっくんとは……あ、厚志さんとは、付き合ってどのくらいなんですか?」
「あっくんって呼んでいいのに」

 開けられたラムネからしゅわしゅわと泡が溢れる。
 それを楽しそうに見つめる理香は無邪気でかわいい。

「厚志とは一年の夏からだから、もうすぐ一年」
「長い、ですね」
「そうかな。私、前の彼氏は三年付き合ってるから、あんまり長くは感じない」

 こくりとラムネを飲み込んで、理香はあいまいな笑顔を実由に向けた。

「厚志、優しい?」
「はい、すごく」
「やっぱりね……」

 短く息を吐き、砂浜で寝転がる厚志を見る。
 寝ている厚志に理香の友達が砂をかけるから、厚志は体を起こして何か言っている。

「あいつ、優しすぎるよね。女の子なら、誰でも期待しちゃう」

 実由自身がそうだから、何も答えられない。押し黙り、理香の視線の先を一緒に見つめる。

「実由ちゃんも、期待しちゃうようなこと、あった?」

 女の第六感なのか、実由の心の内を見透かすような言葉。
 実由はごくりと唾を飲み込んで、自分の足で自分の足を踏んづける。

「すごく嫌なの。他の女の子としゃべってるあいつを見るの。あいつの優しさに皆騙されて、あいつを好きになっちゃうんじゃないかって、怖いのよ。誰かに取られちゃう気がして、疑心暗鬼になって……疲れる」

 一瞬見せた理香の鋭い目は、厚志と仲良くしゃべっている友達に注がれる。

「そういう風に、人を疑う……自分の友達も疑う私自身が、一番嫌い」

 何も答えられず、実由はうつむく。
 厚志を好きになってしまった罪悪感と、こんな綺麗な人でも自分を嫌いになったりするんだと、妙な親近感沸いて、理香に対しどう接すればいいのかわからない。

「ごめんね、変な話して」
「そんなこと、ないです」
「ちょっと牽制してるの、わかる?」

 テーブルに肘をついて含み笑う理香が、実由には少し怖い。

「牽制?」
「厚志に惚れないでね。私の、だから」

 何か言おうとして息を飲んで、でも声は出なかった。
 理香は感付いていたのかもしれない。実由の気持ちに。

「ごちそうさま!」

 いつの間にかラムネを飲み終わっていたのか、空になったビンをつまんで持って振ってみせる。
 中に入っているビー玉がカラカラと音を立てた。


 ***

 午後三時。
 理香は友人たちと車に乗って、帰っていった。
 帰る二時間前、厚志と理香はまたどこかへ行ってしまったから、二人だけで別れの挨拶をしていたのかもしれない。

 去っていく車を見送りながら、実由はほっと安心する。
 もう、仲の良い二人の姿を見なくてすむ。また以前の安らげる時間が戻ってくる。

 そう思うけれど、前のような気持ちのままではいられないこともわかっている。
 厚志が好きだと自覚してしまった。
 でも、厚志は理香のもの。

 隣にたつ厚志の肩をそっと見つめる。
 小麦色の肌が白いシャツとコントラストになって、やけにまぶしく感じる。

 気持ちなんて、すぐに移り変わる。
 ずっとただひとりを好きなんて、ありえない。奪おうと思えば、奪えてしまう。

 理香はもういないのだから、惚れていようがいまいが、理香にはわからないこと。どんな風にだって行動できるんだと、実由の中の悪魔が甘い誘惑をささやきかける。

「みゅーちゃん、アイスおごってやるよ」
「え?」
「俺が三日も休んだから、仕事大変だっただろ? お詫び」
「ほんと!?」

 甘えた声色が勝手に出てくるのは、女の本能なのかもしれない。

「何味がいい?」
「ソーダ!」

 奪い取るような真似をしようとしていいのか、迷いが胸をよぎる。
 でも好きなんだもん、と言い聞かせて、そんな自分を嫌悪する。

 どう行動することが、正しいのか。
 自分を優先にすべきなのか、他人を優先にすべきなのか。
 わからなくなって、手をぎゅっと握りしめた。

 でも。
 厚志が好きだと、自覚だけが強くなる。

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あとがき↓
18話にコメントありがとうございます!
お返事はコメント欄にてさせていただきました。

拍手もありがとうございます。
すっごく嬉しいです。



理香の言動、どうでしょうか?
こうやって笑顔で牽制してくる女の子っていると思うのですが。
女って怖いなーって思います(笑)


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18話にコメントありがとうございます!
お返事はコメント欄にてさせていただきました。

拍手もありがとうございます。
すっごく嬉しいです。



理香の言動、どうでしょうか?
こうやって笑顔で牽制してくる女の子っていると思うのですが。
女って怖いなーって思います(笑)

【2009/02/16 02:28】 | 神様がくれた(恋愛)
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