きよこの書き散らかし小説。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

目次へ
ブログTOPへ

第17話 同じ空気を持ってる。

++++++++++++ 

 布団に入っても、実由は眠ることが出来なかった。
 厚志と理香。恋人同士の二人。絶対に入り込めない、二人の関係。

 タオルケットの中で丸くうずくまり、ぎゅっと目をつぶる。
 まぶたの裏にあの光景がよみがえる。愛し合っていたのだ。あの場所で、あの二人は。

 目を開き、タオルケットに包まれた闇に目を這わせる。
 窓の外から聞こえてくる虫の声が遠くに感じる。

 神様、とつぶやく。

「どうして、こんなに寂しいの?」

 小さく吐かれた言葉は、布団の中でくぐもって消える。

 体はどんどん小さくなるのに、世界だけは膨張し続けるみたいな気持ち悪い感覚に襲われて、震えあがった。

 何度も何度もつぶやく。

 神様、神様と。

 何かをほしいと思っても、手に入らないことの方が多いことだってわかってる。
 喉から手が出るほど求めても、決してそれは自分のものにはならないって知っている。
 それでも、どうしても、求めずにはいられない。

 欲しかった。自分だけの何かが。
 この手に、溢れるほど無くたっていい。ほんの少し、一滴でいい。温めてくれるものが欲しい。
 喉の奥からこぼれる感情は涙に変わって落ちていく。

 恋の始まりに気付いた時、恋の終わりを知った。

 嗚咽は止まらず、心は乱れる。
 神様に八つ当たりをする。平等な幸せなんて訪れやしない。不公平な幸と不幸が、ただまき散らされるだけの現実を呪わしく思う。

 厚志が好き。

 小さく灯ったこの思いを、改めて実感する。
 だけど、遠かった。
 厚志がくれる優しさは、道に迷った子犬に向けられるものと一緒。小さな子供が泣いていたら、厚志は頭をなでて慰めてくれる。そういう人だ。
 自分が『特別』だったわけじゃない。
 わけ隔てなく与えられるものの、ひとかけらをもらっただけ。
 そんなちっぽけなものに、淡い期待を抱いてしまった自分が、間違っていたのだ。

 でも、やっぱり、厚志の優しさが愛おしかった。
 自分だけのものに、したかった。

 今更気付いた願望を、実由はただ噛みしめるしかなかった。
 手をのばしても届かないことを、もう知ってしまったのだから。

 風鈴がリン、と小さく鳴ったのを、涙でふやけた世界の中で聞いていた。




 ***

 次の日も、厚志は休みを取っていた。
 実由にとってラッキーだったのは、厚志と理香が二人で出かけてしまったことだった。
 二人の姿を見ずにすんで、ほっとする。

 理香の友達の二人は海の家に来ていて、二人でラーメンをすすっている。
 その内の一人が実由に向かって笑顔を向けて「水のおかわり、もらっていい?」と声をかけてきた。
 水の入ったポットを持って、二人のそばに行くと、二人はコップを実由に差し出す。

「ええと、実由ちゃんだっけ?」
「はい」

 実由に声をかけてきた方の子が、気さくに笑いかけてきた。

「ごめんね。押しかけてさ」
「え? あ、いえ」

 なんと答えていいかわからず、声をどもらせる。
 厚志の知り合いであろうとお客様はお客様だ。押しかけてきた、なんて思ってもいない。

「厚志君が今年は海の家で働くっていうからさ、あの二人、せっかくの夏休みに二人で遊べないって嘆いてから。私らが計画しちゃったんだよね」
「仲……いいんですね」
「私たちと理香が? 理香と厚志君が?」
「両方とも」

 大きな口を開けて、彼女は笑う。愛嬌のある顔立ちが、実由の緊張を癒してくれる。

「仲良いよ。私たちも、理香と厚志君も。いいよね、あの二人。空気が合ってるじゃない?」

 くうき、と小さくつぶやいた。
 確かに温和な厚志と理香は、どことなく同じ空気感を持っている。
 人に警戒心を与えない笑顔とか、誰にでも向けられる優しそうな雰囲気とか、醸し出すものが同じなのだ。

 ずっと付き合っているから似たのか、似たもの同士だったから付き合ったのか、それはわからないけれど、お似合いなのは確かだ。

「ずっと一緒にいてほしいよね、ああいうカップルにはさ」

 複雑な思いを抱えながらも、実由はうなずいていた。厚志に恋心を抱いていなければ、実由だってそう思う。
 それくらい、あの二人はパッと見ただけで幸せそうだったのだ。

「みゅーちゃん、手伝ってー!」

 里美の呼び声が後ろから響く。実由は大きな声で返事をして、立ち上がる。
「ごめん、仕事中だったね」と手を掲げる理香の友人に頭を下げるとその場を離れた。

「おい」
 里美のところに行こうとした実由の腕を、和斗が掴んだ。

「大丈夫か」
「え?」
「顔色悪いぞ」
「大丈夫」

 大丈夫、もう一度、心の中で唱える。
 まだ始まりを迎えたばかりの恋心だ。傷は浅いと、言い聞かせる。

 むしろ、もっと好きになる前でよかったじゃない。もっと好きになってたら、もっと苦しかった。だから、全然、たいしたことじゃない。

 何度も何度も、自分にそう言い聞かせる。

++++++++++++

次話(18話)へ
目次へ
ブログTOPへ

*******
面白かったらぽちっと押していただけるとうれしいです!
アルファポリスの青春小説大賞にエントリーしてます。

【2009/02/14 03:12】 | 神様がくれた(恋愛)
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。