きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第16話 真夏の夜。

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「ねえ、ジーの奥さんってどういう人?」
「ああ? まあ……気の強い女だよ」
「顔は? きれいって、芸能人に例えると誰?」
「芸能人? 俺はミューが知ってるような最近のやつ知らねえから、答えられん」

 耳の後ろをぼりぼりと掻いて、ジーは目を背ける。
 どうやら照れているらしい。
 ジーのそんな姿は初めてだから、実由はなんだかうれしくなって、ジーの腕にかじりつき、どんどん質問を繰り返す。

 出会いは? 好きになったのはなんで? どういうところが好き? 今は何歳? 結婚したのはいつ? プロポーズの言葉は? 尽きない質問の嵐に、ジーは珍しくたじたじだ。

「もうかんべんしてくれ」

 とうとう根を上げてしまった。
 実由は唇を尖らせて「聞きたいのにー!」とぶうたれる。
 ジーは質問から逃れるため、軽く伸びをしながら立ち上がってしまった。

「今度写真を見せてやるから。それでいいだろ」
「ほんと?!」

 ジーの提案に飛び上がるほど喜んだら、太郎がびっくりして吠えてきた。
 実由は慌てて、太郎に「ごめんごめん」と謝り、耳と耳の間をなでてやった。耳を後ろに伏せさせ、気持ち良さそうに鼻を鳴らしてくる。
 それがかわいいから、実由はもっとなでてやる。

「若い頃の写真だと、白黒写真しかねえが、いいだろ?」
「うん!」

 実由も立ち上がって、ジーの腕に抱きつく。ジーは実由の頭を三回優しくなでて、「そろそろ帰る時間だろ」と笑った。



 ***

 ジーと別れて、実由は来た道を戻っていた。
 今日も花火をやっている若者がどこかで雄たけびをあげている。
 ロケット花火が素っ頓狂な音をたて、闇の中で爆発する。

 白い月の下で、海は優しい音を奏でる。
 一定のリズムを刻むその音色に耳を澄ませた実由は、音の合間に、厚志の声を聞いた。

 気のせいかな、と思いながら、砂浜に視線を送る。
 三日月の下の砂浜は真っ黒に染まり、淀んだ波が白く瞬いていた。

 ちょうど浜辺に下りられる階段のすぐそばにいた実由は、声の出所が気になって、そろりそろりと階段を下りた。
 高山家が経営する海の家に行ける階段だ。
 もしかしたら海の家に厚志がいるのかもしれないと、そちらの方向に向かう。

「……か」

 耳を澄まさなければ聞こえないほどの声が、聞こえてくる。
 よくこんな小さな声に気付いたな、と実由は自分自身で感心してしまった。

「ん……」

 体がびくりと反応してしまった。
 甘いため息のような声は、理香のものだったからだ。

 夜は雨戸を閉じてすべて戸締まりをする海の家だが、今日は戸が一箇所だけ開いていて、取り付けられたカーテンがそよそよと揺れていた。
 その奥から、声は聞こえてきた。

 心臓は早鐘のように実由の胸を打つ。
 海の家の壁際からそっと中を覗き込んで、厚志の姿を見つけてしまった。
 厚志だけじゃない。そこには理香もいた。
 厚志と理香が向き合う形で座っていたのだ。

「理香」

 熱っぽい厚志の声は、荒い息に紛れる。
 理香は厚志の肩に両手を置いてしなだれかかり、苦しそうに息を吐いた。
 厚志の膝の上に跨るように座る理香の白い太ももを、厚志の手が滑っていく。
 理香の吐息が震え、「厚志、好き」とささやく。その言葉を受けて、厚志は理香の唇を捕らえた。

 絡みつく二人の影が、月明かりに照らし出され、白い肌の理香を浮き立たせる。
 理香の背中に伸びた厚志の手が理香の体を支えて、そのまま畳に倒れた。
 Tシャツがめくれ、白いふくらみが見え隠れする。二人はキスを交わし、強く抱き合った。

 逃げ出したいのに、実由の体は動かなかった。

 もし足音が聞かれてしまったら。月の光に、自分の影が映ってしまったら。二人に、存在を気付かれたら。

 足の裏から、奇妙な恐怖心が這い上がってくる。
 実由の体を硬直させ、楔を打ったかのように動けなくさせる。
 何度も何度も理香は吐息混じりに言う。「厚志、好き」と。

「俺も好きだよ」

 深い息を吐いた後、厚志はそう答えた。
 理香が幸せそうに小さく笑ったのが聞こえた。

 実由は崩れ落ちそうになり、壁に両手をついた。そのまま、よろけそうになりながらも歩き出す。

 ビーチサンダルの合間から砂が入ってきて、足がすべる。それでも、決して音は立ててはいけないと、足に力を入れて歩を進める。

 波の音が、耳の奥で反響する。
 目の前はぐにゃりと歪んで、真っ黒に見えた。

 厚志と理香は、恋人同士だ。そんなこと、わかっている。
 けれど、二人の姿をこんな形で見てしまうなんて、想像だにしていなかった。
 体中が震えて、心が揺れる。

 高山食堂の光を見つけて、走り出す。
 足がもつれ、思うとおりにスピードを出せない。夢の中で逃げている時のように、足が鉛のように重い。
 怖くて、苦しくて、悲しかった。

 濃厚な夏の空気が、実由の喉を締め付ける。

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【2009/02/13 02:51】 | 神様がくれた(恋愛)
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