きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第15話 好き、だから。

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 ふと横を見ると、厚志と里佳の姿が目に入る。
 実由はそれが嫌で、たいして忙しくもないのに、忙しそうに振る舞う。
 意味もなく何度もテーブルを拭いて、食事をしている客に水を提供したり、浮輪や水着を売っている棚をきれいに整えたり。
 気を紛らわせようとすればするほど、変な焦りが生まれて、脇の下に汗をびっしょりとかいていた。

 海の家から数メートル行った浜辺で、厚志と里佳がビニールシートを敷いて寝転がっている。
 理香は体を厚志のほうに向けて、厚志の髪の毛をつんつんと触って遊んでいた。
 厚志は寝入っているのか、何の反応も示さない。

 サーモンピンクに花柄の入った水着は、理香のすらりとした体型によく似合っている。
 線は細くても筋肉質な厚志とはお似合いで、実由は汗の沁みたTシャツを握りしめていた。
 厚志と自分が並んでも、兄と妹みたいで、あんな風に『お似合い』ではない。
 胸は無いわけではないし太っているわけではないけれど、おなかがポッコリと出た幼児体型の実由にとって、理香は羨望の対象になったのと同時に、嫉妬の対象にもなってしまった。

 体型のことだけじゃない。理香はパッと見で『いい女』だ。
 きれいな二重まぶたに大きな瞳。鼻筋も通っていて、唇の形も薄くはあるがきれいだ。
 対して実由は二重は二重でもたいして大きくない目だし、鼻は低めだし口だって小さい。友達は「実由は美人じゃないけど、かわいい顔してるよ」なんて言ってくれるけど、女の「かわいい」は当てにはならない。
 自分自身があんまり自分の顔の造形を気に入っていないのに、「かわいい」なんて思えるわけがない。

「馬鹿みたい……」

 額にうっすらと浮かぶ汗を、タオルで拭う。

 理香を見ていると、自分を卑下してしまう。それが嫌でたまらない。
 実由はわかっていた。
 厚志へと向かう感情があるからこそ、自分と理香を比べてしまう。
 花火大会の日、実由は厚志のことを好きになってしまうかもしれないと思った。

 違ったのだ。

 もう、好きになっていた。



 ***

 夕飯の時間も、厚志は理香と一緒に食堂にいた。
 理香と理香の友達二人と大きな口を開けて笑う厚志に、隔たりを感じてしまう。

 実由は高校生で、厚志は大学生で。
 まだまだ子供で縛られた世界にいる実由。
 一方の厚志は、学生生活を謳歌し自由な世界で友人に囲まれ笑う。
 それはとてもじゃないけど乗り越えられないくらい大きな壁に思えた。

「出かけてくる……」

 高山家にいるのが居たたまれなくて、実由は携帯電話と財布を手に取った。
 「気をつけてね」と玄関まで見送ってくれる里美に頭を下げて、歩き出す。
 とぼとぼとひきずるように歩くたび、足はどんどん重たくなっていく。

「うー」

 涙が頬の下のほうからせり上がってくる気がした。唇をへの字にゆがめて、必死にこらえる。

 無性に寂しくなる。空しくなる。
 誰かに、そばにいてほしくなる。
 早く、早く、と心が急かす。

 ジーに会いたかった。隣にジーがいれば、この苦しさを忘れられると思った。

 海岸沿いを走る道路を早歩きで進み、水族館の近くで太郎を見つけた。
 また道路の真ん中で、実由に向かってしっぽを振っている。
 それがうれしくてたまらない。

「太郎! 危ないよー!」

 太郎に向かって走る。
 太郎は太い足をちょこちょこと動かして、走り出した。追いかけっこでもしてると勘違いしたんだろう。
 時折、足を止めるとぱっと振り返ってきて、舌を出して首をかしげる。
 実由がついて来ているか、確認しているのかもしれない。

「太郎、止まりなさーい!」

 実由が叫んだら、太郎は「知らん!」とでも言いたそうな顔をして、だっと走り出してしまった。実由も慌てて走る。
 水族館の影に入っていく太郎を見て、実由はジーが今日もいることを確信する。
 生垣をかきわけ、ジーがいつもいる裏庭に足を踏み入れる。
 ジーはいつもどおり、煙草をふかしてダンボールに座っていた。

「ジー」
「おう」

 太郎はすでにジーの隣にいて、ぜえぜえと荒い息を吐き出す。
 実由も太郎と同じように肩で呼吸を繰り返す。走ったから、息が上がってしまった。

「太郎って、足はやい」
「犬だからな」
「そうだけどさあ」

 どうも太郎におちょくられた気がする。
 太郎のごわごわの毛を両手で撫で回しながら、実由は口を尖らせた。

「ジーはさ」

 ジーの目は白い月に注がれる。
 ジーが女の人だったら、かぐや姫のよう。
 毎日毎日月を眺めて、物思いにふけっている。
 月に帰りたがっているかのように。

「嫉妬したり、自分は負けてるー! って思ったこと、ある?」
「あるに決まってるだろ」
「どういう時?」
「好いた女が、他の男といる時だな」

 煙草を銜えながら言うから、なんて言っているか聞き取りづらかったけれど、ジーは片眉をピクリと動かしてちょっと恥ずかしそうにそう言った。

「好いた女ってえ?」

 つい、からかい口調になってしまったら、ジーは照れくさそうに実由の頭を小突いた。

「俺は恋愛結婚なんだよ」
「へえええ!」
「きれいな女だったからな。言い寄ってくる男も多かった」
「なんか、うらやましいなあ」

 幸せそうな夫婦像を想像して、実由は頬をゆるませる。
 ジーと結婚したら、幸せそうだなと、思ったのだ。

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【2009/02/12 03:53】 | 神様がくれた(恋愛)
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