きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第14話 恋人。

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 朝の陽光が畳にたまった砂をきらめかせる。
 片手を目の上にかざし空を見上げると、白い光線が顔を熱くさせる。
 実由はまだ重たいまぶたが朝日を浴びて軽くなるのを感じ、大きく深呼吸した。海風の生臭い香りが肺を巡って、吐き出される。

 ガラス戸を開けている和斗は、今日も仏頂面だ。
 実由の発言にすぐに笑い出す彼だけれど、たいがいは同じ表情で、いまいち何を考えているのかわからない。

「和斗君」

 ガラス戸の向こうから、白いワンピースを着た女が声をかけてきた。
 リネンの優しい風合いをしたふんわりワンピースから伸びる手足はすらりと細く、まるでモデルのよう。肩にかかる髪はゆるくウェーブがかかり、清楚なお嬢様風だ。
 歳は実由よりもいくつか上に見えた。厚志と同じ大学生くらいだろう。

「あ、理香(りか)さん。お久しぶり」
「久しぶり」
「来るの、今日だったっけ?」
「そうだよ。忘れてたの?」

 理香と呼ばれたその女の後ろで、友達らしい二人が楽しそうにおしゃべりをしている。
 理香と同じく、モデルのようにきれいな子達で、実由は遠巻きに見つめることしか出来ない。

「兄貴、食堂の方だよ」
「そう。じゃあ、行ってみる。今日から三日間泊まるから、よろしくね」

 よろしくね、という言葉だけ大きくして、体を実由に向けてきた。どうやら和斗だけでなく、実由にもあいさつしてくれたらしい。

 びっくりして目を丸くする実由に向かって、大きな瞳を細めて笑いかけてくる。
 艶やかな薄い唇から零れ落ちる笑みは優しげで、実由は慌てて頭を小さく下げた。

「あとでまた来るね」

 細い手をひらひらと振って、理香は行ってしまった。
 和斗がすぐに仕事を再開させるから、実由は遠慮がちに声をかけた。

「今の人、誰?」
「兄貴の大学の同級生」
「へえ……きれいな人だね」

 まだ見える後姿を眺める。
 風で揺れるワンピースは、映画の中の登場人物のようで、違う世界の人みたいだ。

「兄貴の彼女だよ」
「え?」

 思わず聞き返す。一瞬にして思考回路が停止する。

「大学入ってからずっと付き合ってる」

「そ、そっかあ……」

 頭を思い切り殴られたような衝撃だった。
 厚志は『彼女』がいるそぶりなんて全然見せなかった。
 携帯電話をいじってる姿も見たことがなかったし、彼女の話をしたことも一切無かった。
 だから、実由は勝手に決め付けていたのだ。厚志にはそういう特定の人がいないと。

 昨日の花火大会の日、握った手の平を思い出す。
 自分の手を見つめて、小さくため息をもらす。

 優しさは残酷だ。
 もしかしたら、と期待してしまう。

「いるよね、恋人くらい」

 あれだけかっこよくて優しいんだもん、とつぶやいたけど、和斗は何も答えてくれなかった。



 ***


 朝早くに来た理香たちは、食堂で厚志と挨拶を交わし、また海の家に戻ってきた。
 水着に着替え、日焼け止めクリームを塗りあっている。

 楽しそうな女の子たちの笑い声を聞きながら、実由はぞうきんを握りしめていた。
 耳を塞いでしまいたい衝動を抑えながら、テーブルをふき続ける。
 唇を噛むたび、何かが零れ落ちそうになって、手に力が入ってしまう。

 少しして、厚志が海の家にやって来た。水着を着て現れた厚志は、実由の頭をポンと叩いて笑いかけてくる。

「今日は休みもらったんだ。みゅーちゃん、ごめんね。今日は頑張って」
「……うん」

 不機嫌気味に返事をする実由に向かって、厚志は首をかしげる。
 何か言いたそうに口を開いたが、厚志の名を呼ぶ理香の声で、厚志はパッと顔をそちらに向けてしまった。

 理香の方へと歩を進める厚志の背中が、とても遠くに感じる。
 日に焼けた腕に絡みつく理香の姿を、直視することが出来ない。
 幸せそうに笑う理香と、理香の背中にそっと触れる厚志の手が二人の親密さを表していて、実由はただ苦しくなる胸を押さえるしかなかった。

「おい」

 肩を掴まれて、はっとする。

「具合でも悪いのか」

 和斗の顔が間近に迫り、鋭い目をいっそう鋭くさせて実由を見つめる。

「だ、大丈夫だよ!」

 慌てて、実由は体をひねらせた。そのままテーブルを拭く作業を再開させる。

「だめだったら、すぐに言えよ」
「大丈夫だってば」

 和斗の顔は見ない。泣きそうになっているのがばれてしまう気がした。

「見てるのが嫌なら、食堂の方を手伝えばいい」

 声音は低く、冷たい。けれど、芯に沁みる温かみを帯びる。

「食堂に行きたくなったら言えよ」

 振り返った時には、和斗はもうそこにはいなくなっていた。台所の方に行って、何かをがちゃがちゃといじっている。

 厚志への感情を、和斗に気付かれていた。
 実由は、彼が思った以上に人を見ていることに、ただ驚いていた。


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【2009/02/10 02:31】 | 神様がくれた(恋愛)
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