きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第13話 テトラポットの上で。

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 実由が海の家で働き始めて一週間が過ぎた。
 だんだん慣れてきて、ラーメンの汁をこぼさないで運べるようになったし、片手でお盆を持てるようになった。

 おぼつかない手つきでしか物事を進められない実由にとって、そんなささいな成長も嬉しかった。
 実由と厚志と和斗と里美、七月の終わりからアルバイトで入った女の子一人とで海の家を切り盛りしながら、実由は日々を過ごしていた。




「これを代入すると、Xは三になるだろ」
「え、う、うん」

 風鈴の音が風の中で踊る。
 それに気を取られ顔をあげた実由は、和斗に頭をつかまれた。

「すぐ上の空になる」
「だってえ……」

 情けない声を出しながら、机の上に広がったノートを両手で覆った。
 さっぱりわからない数学の宿題を和斗に教わっているのだが、教えてもらってもさっぱりわからない。
 和斗は根気よく何度も説明してくれるが、数字がまるで暗号のようで、知りもしないモールス信号を読み取れとでも言われている気分だ。

「お前、中学から数学やり直せ。出直して来い」
「無理だよ! どこから見ても中学生じゃないもん」
「そういう意味じゃねえ」

 あからさまにため息をつかれて、実由もわざとらしく頬をふくらませてみせた。

 わからないものはわからない。文系人間なのに、どうしてこんな不可解なものを勉強しなければならないの、とブウブウ文句をタレながらも、宿題をやらなければ苦労するのは自分だと、実由はまたノートにしがみつく。

「いいか? この数字は……」

 和斗の説明は丁寧だ。わからない実由の読解力の方に問題がある。
 実由は数字を一生懸命睨みつけながら、和斗の言葉にうなずき続ける。

「みゅーちゃん、散歩行かない?」

 勉強を始めて二時間が過ぎたころ、和斗の部屋のドアがいきなり開いて、厚志が顔を出した。

「散歩?」
「ああ、花火大会あるし」
「花火大会!?」

 そういえば、いたるところにポスターが貼ってあったことを思い出した。日にちの感覚が薄くなってしまい、今日が花火大会だったことをすっかり忘れていたのだ。
 実由は飛び上がるように机から立ち上がり、「行く」と大声を上げる。

「和は? 行くだろ?」
「……いや、俺は勉強する。二人で行って来いよ」

 相変わらずの仏頂面で、和斗は実由が立ち上がった椅子にどかりと腰をかけた。
 座るところをなくした実由は、ドアのところでニコニコと笑っている厚志の方に向き直る。

「じゃ、行こうか。みゅーちゃん」
「うん……」

 途端に恥ずかしくなる。実由は少しうつむき加減でうなずいて、ドアに向かった。途中で振り返って和斗の背中を見る。
 背筋をしゃんと伸ばして、和斗はもう勉強し始めている。

「和、根つめすぎんなよ」
「わかってるよ」



 ***


 高山食堂を出ると、浴衣を着た女の子達がわーわーしゃべりながら通り過ぎて行った。ちらほらと人が歩いているのが見える。

 実由と厚志もその中に混じり、浜辺に向かって歩き出す。
 進むにつれ、人の数が増えていく。
 いつもは花火で遊ぶ子達が数人いる程度の海岸に、人が溢れんばかりに集まっていた。

「みゅーちゃん、こっち」

 厚志はすいすいと人ごみの中を歩いて行ってしまう。
 混んでない場所でも人にぶつかってしまうような鈍くさい実由は、案の定うまく進めなくて、立ち往生しながらも、なんとか厚志の背中を追い、厚志のTシャツを掴んでしまった。

「どうしたの?」

 優しい笑顔で、厚志は振り返って笑いかけてくる。

「あ、あの、はぐれちゃいそうだったから」
「あーそっか。ごめん」

 じゃあ、はい。と厚志は実由に手の平を向けてきた。
 何がしたいのかわからず、実由は「え?」と目をパチクリさせる。

「ちゃんとついてきて。よく見える場所に案内するから」

 ぐっとのばされた手が、実由の手を掴んだ。
 そのまま、実由をぐいぐいと引っ張り始める。
 厚志の柔らかい手の感触は手の平から腕へ、そしてダイレクトに心臓へと伝わって、実由は困惑する。
 血がいきなり逆流したみたいに、顔だけが熱くほてる。

 厚志の手は、実由の手に比べたらずっと大きくて骨ばっている。
 小さな実由の手を掴む厚志の手が、実由にはずっと離したくないものに思えて、強く握り返していた。





「ほら、あそこ」

 防波堤の影のテトラポットによじ登る。
 影になっているせいで、そこには人がほとんどいない。
 もうはぐれる心配がなくなったから、厚志の手は実由から離れてしまった。
 それが寂しくて、実由は厚志の手をついつい見つめてしまう。

「そろそろ始まるかな」

 厚志の言葉と重なって、空を切り裂く音が響いた。花火の開く音が地響きのように響き渡る。
 わあ、という歓声がいたるところから上がる。
 実由も小さく感嘆の声をあげて、空に見入る。

 白い火花が放射状にのびて、余韻が長くたれ落ちていく。
 大きな菊の花が咲いたと思ったら、ススキの穂が落ちていく。
 赤の光が爆ぜて、青い火花へと姿を変える。
 いくつもいくつもの花が重なって重なって、空は花畑のように色とりどりも染まっていく。

「きれい!」

 隣にいる厚志に笑いかける。
 厚志は実由を横目でちらりと見て「だろ?」と笑ってくれた。
 厚志の頬が光に照らされ、朝日を浴びた山肌みたいに光って見えた。

「よかった。喜んでくれて」
「うん。ありがとう」

 花火を見上げるふりをして、厚志の横顔を盗み見た。
 厚志のタレ目は空に向かい、やっぱり優しい雰囲気を放ち続ける。

 とくとくと流れ出す。
 この思いを、実由は知っていた。
 始まる思いを、どこかで経験していたから。
 そして、この思いが、簡単に大きくふくらむことも知っていた。
 そんなこと無い、と否定しながらも、否定できないほど思い知っている。
 始まれば、それは終わりを迎えるその日まで膨らみ続けるのだ。


 好きになるかもしれない。

 そう思った。
 厚志に惚れてしまいそうだ、と実由は確信してしまった。

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あとがき↓
ひっそりこっそり運営している私の別ブログで、高校生の宿題についてお答えしてくださった方々に、今更ながらお礼申し上げます。
ありがとうございました!

ずいぶん前に教えていただいたのに、宿題エピが出てくるまで、どんだけ時間かかったんだ(^^;

のらりくらりとゆっくり進む物語ですが、ラストは畳みかけるように収束していきます(たぶん)。
ネット小説は掴みがかんじんだというのに……(--;
すいません、ラストでがんがん来る構成の物語が大好きなのです(笑)

最後まで辛抱強く読んでいただけたら幸いです。




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ひっそりこっそり運営している私の別ブログで、高校生の宿題についてお答えしてくださった方々に、今更ながらお礼申し上げます。
ありがとうございました!

ずいぶん前に教えていただいたのに、宿題エピが出てくるまで、どんだけ時間かかったんだ(^^;

のらりくらりとゆっくり進む物語ですが、ラストは畳みかけるように収束していきます(たぶん)。
ネット小説は掴みがかんじんだというのに……(--;
すいません、ラストでがんがん来る構成の物語が大好きなのです(笑)

最後まで辛抱強く読んでいただけたら幸いです。



【2009/02/09 03:37】 | 神様がくれた(恋愛)
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