きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第12話 幸せ、と思う時。

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「ちょっと出かけてくる」

 居間で寛いでいた厚志と里美が、いっせいに実由へ視線を向けた。
 海の家の仕事を終え、夕飯を食べた実由は、ジーのところへ行こうとしていた。
 昨日は厚志と花火をやったから行けなかった。今日は絶対に行きたい。

「実由ちゃん、この前から気になってたんだけど、どこに行ってるの? いつも」

 エプロンで手を拭きながら、里美は立ち上がった。心配そうに丸い目を向けてくる。

「え、ええと……」

 ジーとの密会を、実由は秘密にしたいと思ってしまった。
 隠れた場所でジーと二人きり。閉鎖的で居心地のいい時間を、人に話して失いたくなかった。

「海を見てるの」
「海?」
「うん。月の光に当たって黒い波が白く光るでしょ? それが綺麗で……好きだから」

 嘘はついていない。
 ジーと二人で、いつも海を見ている。
 白い月の光が、水面を滑ってゆらゆらと光を反射する様は、実由の心を捉えた。
 ジーも、もしかしたらその光景が見たくて、あの場所にいるのかもしれない。

「ここらへんは平和だけどさ、夏はアホみたいに馬鹿騒ぎしにくるやつらもいて危ないんだ。だめだとは言わないけど、心配だな」

 テーブルに肘をついて寄りかかった体勢で、厚志が実由に声をかけた。

「俺も付き合おうか?」

 里美も厚志も心底心配してくれている。
 真剣な眼差しを向けられて、実由は答えに狼狽した。

 ジーとは二人だけ(プラス太郎)で会いたい。
 厚志の気持ちは嬉しいけれど、受け入れることは出来ない。

「ほっときゃいいだろ」

 ふと気付くとすぐ横に和斗が立っていた。あくびをしながら、腹を掻いている。

「一人になりたいんじゃねーの? 兄貴も母ちゃんも心配しすぎ」

 実由のことなんて一度も見ずに、実由と里美の横をすり抜けて、居間に入っていく。
 見たいテレビでもあったのか、厚志の前にあったリモコンを奪い取ってチャンネルを変えてしまった。
 テレビの中から陽気な笑い声が聞こえてくる。

「冷たいやつだなあ」

 厚志がぼそりとそう呟いたのを聞いて、実由は少しだけ首をかしげた。
 冷たいやつ――確かにそうかもしれない。
 でも、実由には嬉しくもあった。一人になりたい――本当は二人(プラス犬)になりたいだけど――という実由の本音を言い当ててくれたから。

「まあ、そうね。携帯電話だけはちゃんと持って出かけてね。何かあったらすぐに電話するのよ」

 実由はポッケに入れた携帯電話を見せて、ちゃんと持っていることをアピールする。

「気をつけてね」と笑って見送ってくれた里美に会釈し、まとわりつく外気の中に飛び込んでいった。


***


「ジー!」

 水族館脇の裏庭。ジーがいつもいる場所。いつもの場所に座って、ジーは煙草を燻らせていた。
 隣には太郎。実由の姿にいち早く気付いて、しっぽを振ってくれた。

 ジーは相変わらずそっけない。
 でも、吐き出される煙はドーナッツ型。
 歓迎の気持ちを表してくれているのかも、と実由は嬉しくなる。

 ジーの隣には太郎。太郎の隣は実由。その席順が当たり前になってきた。

「ジーはさあ、人を好きになったことある?」
「愚問だな。俺を何歳だと思ってるんだ」

 確かに、と実由は笑ってしまった。
 ジーは七十代か八十代だ。人生の酸いも甘いも経験してきた人に、聞くようなことじゃない。

「何歳?」
「数えるもの億劫な歳だ」
「それじゃあわかんないじゃん」
「大体わかるだろう。そんなもんだ」

 ふさふさと髪の毛に混じった白髪の量を眺めて、八十代に入っているのかも、と思った。でも、筋肉の残る体型や伸びた背筋が、八十代には思えないような気もした。

「どうしてそんなことを聞く?」
「私、人を好きになったことないのかも、と思って」

 煙が一筋たなびいた。南風が煙を煽って、霧散し消える。

「彼氏とね、別れたの。つい最近。なのにね、今、ちょっと気になる人がいるの」

 太郎の毛をなでる。太郎の毛は固くてさわり心地はイマイチだ。

「なんかそれって、軽いと思わない? あの人がだめだから、もう次の人って。そんなの、本当の恋じゃないよね?」

 ジーを見る。白いシャツが風で揺れていた。
 熱帯夜なのに、ジーの顔には汗ひとつない。
 ジーの周りだけクーラーでもついてるんじゃないかと思えるほど、ジーは涼しげな顔をしていた。

「女心と秋の空ってことわざ、知ってるか」
「え、うん」
「女はすぐに心が変わる。俺にもわからん」

 実由は口を尖らせた。
 南から吹いてくる風が実由の前髪をなでる。汗をかいていたから、少しだけ額が冷えた。

「気持ちなんて一瞬のもんだ。どんどん変わる。その時は真剣な気持ちだろう。それでいいじゃねえか」
「うん……」

 元彼の顔を思い出す。
 一ヶ月前まではいつも一緒にいたのに、もう記憶に残る彼の姿はおぼろげだ。薄情としか思えない。

「ジーは、どういう時に幸せって思う?」

 目に見えないものが多すぎて、実由は底知れない不安を覚える。擦りガラスの壁に囲まれて、一人脱け出せない。

「今だな」
「え?」
「だから、今だよ。綺麗な月夜に、うまい煙草。隣には若い女が座ってる。どうだ? 幸せじゃねえか」
「えー! ジー、エロいよー!」

 ジーと肩を叩いて笑い転げた。
 ジーは叩かれた肩をなでて、「老体にはきつい一発だ」と笑いながらぼやく。
 何が起こったかわかってない太郎が、実由とジーを交互に見て、べろりと舌を出してハッハと息を吐く。

 実由はおなかを抱えて笑いながら、目の奥がじわりと熱くなるのを隠し切れなかった。
 笑いすぎて泣いているんだとごまかして、目尻に沁みる涙を人差し指でぬぐう。

 ジーとの時間は、実由にとっても幸せに思えたから。
 こんな風に誰かといる時間を愛おしく思うのは初めてだったから。

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【2009/02/08 04:13】 | 神様がくれた(恋愛)
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