きよこの書き散らかし小説。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

目次へ
ブログTOPへ

第9話 だから、笑って。

+++++++++++

 夜になると、浜辺は若者達の騒ぎ声でにぎやかさを取り戻す。
 ロケット花火の空気を割く音や雨のような噴出花火の音が、歓声共に響き渡る。

 厚志と実由はバケツとビニール袋に入った手持ち花火の束を持って浜辺にやって来た。
 子供がプールにもって行くような丸いビニールバッグに入った花火は、相当の量だったのだろう。この花火をくれたカップルが半分ほどやったようだが、それでもずいぶん残っている。二人でやるには多いくらいの手持ち花火が入っていた。

「みゅーちゃんはどれやりたい?」

 袋からごっそりと花火を出して、厚志は実由に広げて見せた。
 黄色と赤の紙巻の花火を選んで取ると、厚志がライターを近づけ、火をつけようとしてくれる。
 海風は強めで、ライターの火はついてもすぐに消えてしまって、なかなか点火しない。

「つかないね」
「大丈夫」

 風を防ごうとかざした手の平に火花が飛び散る。
 たいして熱くないのか、厚志は表情を崩さない。シュ、と紙を擦るような音と共にススキの穂のような火花が舞い飛ぶ。

「ついた!」

 歓声をあげて、実由は花火を振ってみせた。
 光の帯が風でたなびいていく。厚志も花火をやろうと実由の花火に自分の手に持った花火を近づけて点火させた。
 パチパチと拍手みたいな爆ぜる音がして、火花の花が咲いていく。

 この風の強さではライターで花火をつけるのは至難の業だ。実由と厚志は花火から花火へ、まるで聖火リレーのように次々に点火させていった。

 色とりどりの光が粒になって飛ぶ。尾を引いて線を描いて、舞い散る。
 振り回して遊ぶ実由はハートの形を作る度、網膜に残るハートの光の先に厚志がいるのを見た。

 赤い火の粉がスパークして、目に刺激だけを残す。

 実由のはしゃぐ姿を厚志も笑いながら見てくる。下がった目尻が、実由との時間を本当に楽しんでいてくれると主張しているようで、実由は嬉しくなる。
 火が消えないように次々に花火を点けていくから、消化はものすごく早い。
 いっぱいあったと思ったのに、気付くとあと二、三本になっていて、実由は楽しい時間の終わりを知った。

 ゆらゆらと煙が風に乗る。
 視界を真っ白に変えた煙がなくなっていくころ、花火も最後の一本になっていた。
 物悲しげにオレンジの光が落ちて、やがて、光は消えていった。
 真っ黒な闇が波の音と一緒に迫って来る。

「線香花火が残ってるよ、みゅーちゃん」

 バケツに汲んだ水に終わった最後の一本をつっこむと、ジュ、とこげたような音が響いた。
 名残惜しそうに煙が一筋、実由の鼻をくすぐる。

「線香花火、やる?」
「うん」

 厚志の正面に座って、六本束になった線香花火を取る。三本ずつにわけ、一本をつかむ。
 火がつくと、巻かれた紙がくるくると丸まって、丸いマグマが出来上がる。
 牡丹の花が開くみたいに勢いよく飛び散る火花を眺めながら、実由はちらちらと厚志を見た。
 半そでシャツからのぞく腕も、ハーフパンツから伸びる足も無骨でたくましい。でもすらりとした体型をしているせいか、粗野なイメージはない。
 目にかかるこげ茶の髪の先にあるタレ目は優しげで、瞳に映る花火がきれいだった。

「みゅーちゃん、仕事はどう? 辛くない?」
「うん、大丈夫」
「きつかったら言えよな。夏の海の家は、けっこう大変だから」

 うん、とうなずいて、花火に視線を戻した。
 いつの間にか、火の粉が短い一線をひいて、菊の花のように円を描いていた。

「まだ、二日だけどさ、少し安心したんだ」
「なにが?」
「初めて会った時のみゅーちゃんは今にも自殺でもしそうな顔してたから。普通に笑えるんだって、安心したんだよ」

 厚志に声をかけられた、あの日。

 実由はこの海に入水自殺でもしたらどうなるのだろうなんて、とんでもないことを考えていた。
 本気でそんなことするつもりなんてなかったけれど、あの瞬間に津波が起きて飲まれて死んだとしても、実由は別に後悔なんてしないと思った。
 死ぬことが怖くないわけじゃない。でも、生きている理由が見つからなかった。

「家出した理由、聞いたら、答えるか?」

 厚志の持っていた線香花火から、丸い火が溶岩のように煮えたぎってぼとりと落ちた。

「……私にもよくわかんないの」

 終業式を終えて家に帰って、誰もいない家に入った瞬間。
 足元が崩れていくような感覚に陥った。

 何も無いと思った。この手にもこの体にも、この心にも。

 蝉の声が耳の奥まで響いて反響して、駆け巡った。

 友達がいないわけじゃない。家族に愛されていないわけでもない。恋人にだってふられたけど、しがみつくほど愛してたわけじゃない。
 当たり前にあるものを当たり前に享受して、何かを失くすこともない。

 だからこそ、空しい。

 熱を持つ体。でも底冷えした心。行き場をなくし、持て余す。
 必要なものも必要でないものも手に持っているから、何が大切なのか、もう見えない。

「何もかも無くしたら、何が大切なのか、わかるのかなあ……」
「それじゃ、遅いだろ」

 実由の持っていた線香花火からも火が落ちていった。
 砂の中に埋もれた火種はやがて光を失っていく。

「私、自分で見つけたいんだと思う」
「何を?」
「自分で手に入れられるもの」

 それって、なんだろう? 自問自答して、実由は膝を抱えた。
 悲劇のヒロインみたいに自分を哀れんでいるようで、自分自身を気持ち悪いやつだと思った。
 苦しいとか辛いとか、原因も無いくせにストレスを溜め込む愚かさを嘆きたくなる。

「みゅーちゃんは、笑うとかわいいよな」
「え!?」
「ここにいる間は、俺が話し聞いてやるからさ。だから、笑って」

 な? と白い歯を見せて笑う厚志の手が、実由の背中を叩く。その手の大きさが、包み込んでくるようにあったかくて、実由はうっと泣きそうになった。

+++++++++++

次話(第10話)へ
目次へ
ブログTOPへ

*******
面白かったらぽちっと押していただけるとうれしいです!
アルファポリスの青春小説大賞にエントリーしてます。

あとがき↓
作中で、厚志がライターで直接花火に火をつけていますが、非常に危険ですので真似しないで下さいね(^^;
浜辺で花火をやろうとすると風が強すぎて、花火に火がつかないんですよね・・・
皆さまはどうやって火をつけてるんだろう。ものすごい素朴な疑問です(笑)





追記を閉じる▲
作中で、厚志がライターで直接花火に火をつけていますが、非常に危険ですので真似しないで下さいね(^^;
浜辺で花火をやろうとすると風が強すぎて、花火に火がつかないんですよね・・・
皆さまはどうやって火をつけてるんだろう。ものすごい素朴な疑問です(笑)




【2009/02/05 00:44】 | 神様がくれた(恋愛)
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。