きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第8話 初仕事。

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 夏休みの海の家は昼間になると大繁盛だ。
 午前中から着々と客が増え始め、昼時には軽食を食べようとする人達で混みあう。

 実由は高校一年生の時に工場でピッキングのアルバイトをしたことがあるだけで、こういう客相手の仕事は初めてだった。
 手を挙げて呼ばれ、「おーい」と声をあげて呼ばれる。その度に額から溢れ出る汗を拭って、張り付いた笑顔を向けた。

 人の熱気が熱さを濃くする。
 ガラス戸は全開で開けてあるから風はいっぱい入ってくるけど、それ以上の運動量で、汗が止まらない。
 日に焼けた真っ赤な体を晒して、熱いラーメンを食べる金髪の男や、カキ氷を食べて「寒い」と笑うビキニの女の子が、ちょっと羨ましい。

 台所では厚志が焼きそばやラーメンやおでんを手早く用意していっている。
 ただでさえ熱いのに、火を使う場所にいる厚志は体中から汗を流している。
 でも、客に呼ばれれば笑顔で答えるし、お待たせしないようにとずっと動き続ける。
 厚志の隣で里美がフランクフルトを焼きながら、カキ氷の用意までしている。

 実由はテーブルを右往左往して、厚志と里美が作るものを、お客に運んでいた。
 お盆にのっけたラーメンの汁がちょいちょいとこぼれる。これ以上こぼれないように慎重になりながら、急ぎ足でテーブルに行こうとすると、誰かの足を踏みそうになる。
「あぶなっかしいなあ」と小さな子供を連れた男に苦笑いされてしまった。

 和斗は海の家の外で浮輪を膨らませていた。空気を入れる機械を使っているから、あっという間に丸い形に膨らむ。
 それを見ていた小学生くらいの女の子が嬉しそうにお礼を言っているのが聞こえた。
 和斗は鋭い目を細めて笑い、女の子の頭をなでる。
 顔は怖いのに、案外優しいのかもしれない。



 ピークタイムが過ぎて、客もまばらになり始めた。
 畳に寝転がって昼寝をする人たちのいびきが聞こえてくる。

「みゅーちゃん、ラーメンでいい? 朝も麺だったから、申し訳ないけど」
「いえ、なんでもいいです」

 従業員達も交代で休憩だ。
 はじっこの開いてるテーブルを使っていいと言われて、厚志が作ったラーメンを持っていって座る。
 
 つるりとした麺とさっぱりしたしょうゆ味のラーメンをちゅるちゅるとすする。
 たぶん、ラーメン屋で食べたら「おいしくない」と思うのだろうけど、海の家で食べると格段においしく思える。

「みゅーちゃんて、おいしそうに食べるよね」

 実由の前に厚志がラーメン片手に現れた。

「俺も休憩。一緒していい?」

 だめ、とは言えない。

「夕飯の時も、ゴハンおいしそうに食べるし」
「そ、そうですか」
「そうだよ」

 くすくすと笑いながら、勢いよくラーメンを食べる厚志を見て、実由は箸を止めてしまった。
 ズズズなんて音をたててラーメンを食べるのが、少し恥ずかしい。汁が飛びまくったりしたら、もっと恥ずかしい。

「食べないの?」

 もぐもぐと口を動かしながら、厚志が不思議そうに実由を見つめてくる。
 タレ目の大きな瞳。男の人にも、目力(めじから)ってあるんだな、と実由はつい繁々と見つめ返してしまう。
 縁取る黒い睫毛が、よりいっそう目の力を強くしている気がする。

「みゅーちゃん?」
「あ、え、あ、食べます」

 麺をすくいとって、蓮華にのせる。そのまま口に入れて、よく噛みしめる。

「みゅーちゃん、バイトはいつまでやる?」
「……まだ決めてなくて」
「お盆まではいてほしいんだけど、だめかな?」
「お盆?」
「それまでがピークだから。お盆過ぎるとくらげが出るようになるから、客が減るんだ」

 お盆まで。約三週間。長いような気もするし、短いような気もする。
 実由の返事を待つ間も、厚志はずっと実由を見ている。子供を見つめる親のような、優しい目線だった。

「お母さんに聞いて、大丈夫だったら、やります」
「そっか。よかった。今年はみゅーちゃんがいるから、楽しくなりそうだな」

 いつの間にか厚志はラーメンを食べ終わっていた。空になった器を持って立ち上がり、実由の頭をぽんぽんと叩く。

「あと、敬語、やめようぜ。夏の間は家族みたいに仲良くやろう」

 ふっくらした唇から、白い歯がのぞく。
 にこにこと笑う厚志の手は骨ばっているのに柔らかくて温かくて、触れた部分からじんわりと染み渡る。

「食べ終わったら、少し昼寝してもいいから。初仕事、疲れただろ?」

 首を横に振って否定するけど、厚志は「いいからいいから」とまた実由の頭を優しく叩いた。






 三時を過ぎるころには、海から吹きつけてくる風が強くなる。
 その時間を過ぎると海水浴客はシャワーを浴びに海の家に戻ってきて、シャワールームや着替え室が混み合い出す。
 あとはほぼ店じまいだ。

 夕闇が迫り来る。
 海の家にいた最後の客は、のんびりとラーメンをすすっていたけど、冷たい夜風が海の家まで届いて来たのを知ったのか、フードのついた上着をかぶって、帰り支度を始めた。

「今日は、きれいな夕日が見れそうだな」

 食器を洗っていた厚志が独り言のようにつぶやく。
 実由はふと、ジーのことを思い浮かべた。

 ジーは何時ごろからあの場所にいるのだろう。
 もうあの場所にいて、今、実由が見ている暮れなずむ太陽を眺めているのだろうか。

 オレンジに染まる海をバックにして、煙草をふかすジーの背中は様になりすぎていて、逆におかしい。
 笑いをこらえながら、テーブルをひとつずつ拭いていく。

 泡だらけの手をふと止めて、厚志は和斗に声をかけた。

「花火でもやるか? みゅーちゃんの歓迎会ってことで」
「え! ほんと!?」

 嬉しさのあまり、実由はワントーン高い声をあげる。なのに、話しかけられた和斗は不服そうに低い声でつぶやく。

「俺、受験勉強してぇんだけど」
「お前、息抜きって言葉、知らねえのか?」
「手伝いばっかで、勉強、全然すすんでねんだよ」

 ガラス戸を閉じながら、和斗は嫌そうに顔をしかめている。実由に背を向けていたけど、ガラスにその顔ははっきり映っていた。

「ほんっと、ノリ悪いよな、和は。みゅーちゃん、二人でやるか?」
「ええ!」
「え? やだ?」

 厚志の笑顔を見ながら、「ふたりっきりは無理です」なんて言えるわけがなかった。
 実由はあわあわと口を動かすことしか出来ず、目を右往左往させる。

「嫌じゃないなら、やろうよ。実はさ、今日泊まってったカップルいただろ? 朝、食堂にいた二人。あの二人、花火忘れてったんだよ。さっき電話があって、『いらないから使っちゃって下さい』って言われたんだ」

 夕焼けが背中に迫る。じりじりと熱い。
 背中から顔に伝わって、オレンジが体を侵食する。
 実由は唇にあてた手の、人差し指を少しだけ噛んで、こくりとうなずいた。

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あとがき↓
海やプールで食べるラーメンって、異様においしくないですか?
海とかプールとかに行くと、絶対ラーメン食べます(笑)
意外と食べないのがカキ氷。すぐに溶けちゃうから・・・(--;

拍手ありがとうございます。
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海やプールで食べるラーメンって、異様においしくないですか?
海とかプールとかに行くと、絶対ラーメン食べます(笑)
意外と食べないのがカキ氷。すぐに溶けちゃうから・・・(--;

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【2009/02/04 02:02】 | 神様がくれた(恋愛)
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