きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第6話 一緒にゴハン。

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 東向きの窓から差し込んでくる明るい太陽の光とうるさい蝉の声で目を覚まして、実由は大きく腕を上に伸ばした。
 どこからともなく、潮騒の音が聞こえてくる気がする。
パタンとか、ガシャンとか、人が騒がしく動いている音もする。

 実由の家はどちらかというと静かな家庭だ。
 父も母も働いていて、朝早くに出て行ってしまうから、いつもぎりぎりに起きる実由とは顔も会わすこともない。
 大学生の兄とは朝食を食べる時に会うけれど、低血圧の兄はいつも不機嫌そうで、実由から話しかけることなんてほとんど無かった。

 幾何学模様のタオルケットをどかして、布団から畳の上にごろりと転がる。イグサの香りが鼻を通り抜けて、清々しい気持ちになった。
 網戸越しに見える木に、蝉がしがみついている。けたたましく鳴く声は、目覚まし時計もよりも強烈だ。

 厚志と和斗の母、里美が貸してくれたTシャツに着替える。
 普段だったら絶対着たくないリアルな犬の刺繍が入ったダサいTシャツだ。けれど、里美の気遣いをムダにしたくなくて、袖を通す。
 一階に下りると、喧騒が増す。里美の笑い声と厚志の柔らかい声が食堂から聞こえてくる。
 先に洗面所で顔を洗い、食堂へと向かった。

 昨日、里美と実由の母、玲子は和やかに電話で会話を交わしていた。
 二人の間でどんな会話があったのかは、里美の声からしか推測できなかったけれど、「大丈夫ですよ、お任せ下さい」という言葉と、「こちらこそよろしくお願いします」と里美が頭を下げたことで、実由のアルバイトが決定したことはわかった。

 実由のアルバイト中に使う諸々の生活雑貨とか洋服は、宅急便で送ってくれるらしい。取りに帰るのに、と思ったが、家出中だったことを思い出した。
 家出中に家から家出グッズを送ってもらうのもおかしな話だが、取りに帰るのもおかしな話だ。
 母の行動がちょっと変なのは、実由にもしっかり遺伝している、と実由自身思う。

 高山食堂は民宿も併設している食堂だ。
 朝の六時という時間でも、食堂にはすでに客らしき老人や若者の姿があった。カウンターに老人が一人、テーブルにカップルらしき若者が二人座っている。
 里美はカウンターに座った老人と話をしながら、包丁で何かを切っていた。その脇で、厚志がサラダを盛り付けている。

「おはようございます」

 食堂のキッチンは家の廊下と繋がっている。実由は廊下から顔を出して、一番近くにいた厚志に声をかけた。

「ああ、おはよう。手伝ってもらっていい?」
「はい」

 手伝ってもらうもなにも、アルバイトだから当然なのに、と実由はすぐに廊下から下りて、置いてあったビーチサンダルを履く。

「このサラダ、あそこにいるカップルに出してきて。そこに皿あるから」

 渡されたサラダを片手に、棚に並んだ小皿を二枚つかむ。眠そうなカップルのテーブルで「どうぞ」とサラダを差し出すと、「ああ、どうも」と受け取ってもらえた。

「あのカップル、昨日からうちに宿泊してくれてるんだよ。お客さんはここで朝飯と夕飯を取るんだ」

 戻ってきた実由に厚志は小声で耳打ちした。急に距離が近付いたから、実由は肩をすくませてしまう。
 厚志としゃべるのは、少し照れる。

「もう少ししたら、海の家の方に行くから、みゅーちゃんもおいで」

 厚志は実由の肩をトンと叩いて、キッチンの奥に行ってしまった。


 ***


 実由が履いているビーチサンダルは厚志のものだ。
 大きすぎて、足からすぐに飛び出してしまう。足を踏み出すたびに飛んでしまうビーチサンダルを追いかけながら、海の家に向かう。

 海の方から吹いてくる風はまだ冷たい。徐々に上に昇る太陽は熱を放ち、実由の体をじりじりと焼く。
 きっと夏が終わる頃には、実由も厚志と同じくらい真っ黒に日焼けしてしまうのだろう。

 石で出来た階段を下り、すぐ下にある海の家を覗く。
 和斗がやる気なさそうに片手に持ったほうきで畳を掃いていた。

「和、ちゃんと掃除しろよ」
「してるっつーの」
「しょうがねえやつだよな」と実由に向かって笑いかけて、厚志は海の家に設置してある台所に入っていった。実由も後をついていく。

「朝ごはん、ここで食べなよ。焼きそばでいい?」
「は、はい」
「今作るから、和の掃除、手伝ってやって」

 焼きそばを作ってもらえることが嬉しい反面、すぐ隣にいられなくなることに少しがっかりした。
 不機嫌そうに掃除する和斗は、朝に会う兄にそっくりで、近寄りがたい。

「あの、手伝います」
「そこに雑巾あるから、テーブル拭いて」

 実由の方を一度も見ずに、和斗はそれだけ告げる。
 指指す方向には、ハンガーにかかった雑巾が風で揺れていた。
 薄汚れた雑巾を片手に、水道を探してきょろきょろする。

「そっち」

 すぐに和斗から声をかけられた。でも、和斗は全然実由を見ていない。背中を向けて、いい加減にほうきを動かしている。
 超能力者みたい、と実由は心の中で呟きながら、水道がある海の家の外に出て行った。


 しばらくして、鉄板でこげるソースの香りが漂ってきた。手早い動きで焼きそばを炒める厚志の額に汗が浮いている。
 全開にしたガラス戸から入ってくる海風が掃除をして汗をかいた実由には気持ちいい。

「出来たよ。みゅーちゃん、テーブルに並べてくれる?」

 皿に盛られた三つの焼きそばを一個両手で持ってそろそろと運んでいたら、和斗が「とろい女だな」とすたすたと残りふたつを運んでしまう。
 とろい、と言われてむっとして、和斗を睨んだけど、和斗はそ知らぬふりだ。

「じゃあ、いただきますか」

 海が見える場所にテーブルを置いて、出来立てほやほやの焼きそばに箸をつける。ソースの味が絡まったキャベツを噛んで、そばをすする。
 ソースの香ばしい香りが口中に広がって、甘しょっぱい味を堪能する。

「おいしい?」

 実由の顔を厚志がのぞきこんでくるから、実由は恥ずかしくなる。
 うなずくことしか出来なかったのに、厚志は心底嬉しそうに「よかった」とにっこりと笑いかけてくる。
 よけいに照れくさくて、実由は下を向きながら、ひたすら焼きそばを食べ続けた。


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【2009/02/01 01:56】 | 神様がくれた(恋愛)
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