きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第52話 一緒にいたい

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 ジャイさんとどういう話をするのか、それ以前に、何をどう伝えるべきなのか……わからないまま、時間が過ぎていく。
 ちゃんと向き合って前に進むと決めても、どこが前なのかわからない今の私に、進むべき方向は見えてこない。
 仕事中もぼんやりしがちで、これじゃあダメだと自分を奮い立たせ、いつものごとく川田に当り散らしストレス発散を行おうにも、最近の川田は何やら色々反省したらしく仕事に熱心で、なかなか怒るネタが無い。
 川田らしくないから問い詰めたら、はぐらかされた。イラッときてたら、岸川さんがこっそり教えてくれた。
 どうやら川田、合コンでかなり気に入った子が出来たらしい。その子が「仕事熱心な人が好き」とかなんとか言ったそうで、はりきってるっていう単純な話。
 恋のパワーはすごい。
 どんな人でも振り回される。いい意味でも、悪い意味でも。

 月中の今は、終電近くまで残業になることは少ない。疲れが溜まった水曜日、私は仕事を残業三十分で切り上げ、帰宅した。
 うこん君とも話をしないといけない。ずるずるしていては、うこん君に失礼だ。今日、家に帰ったら電話しようと考えて時計を確認する。
 もうすぐ七時になろうというのに、日はまだ暮れず、黄金色に包まれた道を歩く。
 ふと、向こうから歩いてくる女の子に目が留まった。制服の白いシャツをオレンジに染め、ぼーっとした様子で歩く、長い髪の女の子。
 どこかで見たことあるな、と思い、はっとする。
 弟の彼女だ。

「ねえねえ!」

 名前が思い出せず、走り寄って手を振ると、弟の彼女は怪訝そうに眉をしかめた。が、それは一瞬で、すぐに私が誰だか察したようで、顔を綻ばせる。

「お久しぶりです」

 ぺこりとお辞儀してくる礼儀正しさに、なぜか嬉しくなる。

「久しぶり。うちに来てたの?」
「はい。試験があるから、勉強しに」

 勉強だけだったの? と聞きたくなったが、オヤジ丸出しでセクハラだな、と思ったので止めておく。

「学生は大変だねえ。ええと……」
「竹永郁です」
「あ、郁ちゃんだ! 郁ちゃんはうちのバカと同じ大学行くの?」

 初々しくて、なんだか羨ましい。私もこういうかわいい時代があったはずなのに、どこに忘れてきてしまったんだろう。

「そのつもりだったんですけど」
「けどって? まさか別れるの!?」

 こんなかわいい子を捨てるなんて、あのバカは何考えてんだ! 家帰ったら説教三時間だな……とげんこつを作っていたら、郁ちゃんが首をぶんぶんと振って否定してきた。

「いえ。私が勉強したいって思ってる授業が、一緒の大学だと無くて。なんか……相手にすべて合わせちゃうのって、おかしいじゃないですか。自分が無いっていうか。ただ一緒にいたいってだけで、同じ大学を選んじゃっていいのかなって」
「ああー。確かにねえ」
「ごめんなさい。急に変な話して」
「ううん、いいよ。そういうの、悩むのわかるもん。ちょっとお茶でもしよっか?」

 今まで弟の彼女と遭遇したことは何度かあるが、こういうまっすぐそうな子は初めてだ。ふわふわした綿あめみたいな子や、モデルみたいなきれいな子を連れていた弟が、こういうタイプを選ぶことが不思議に思えた。
 目力が強くて意志が強そうで、袴が似合いそうというか。花に例えるなら百合だな。
 姉としてこっそり彼女を値踏みしながらも、この子のちょっと儚そうな部分に、女の私でさえも心惹かれてしまう。
 支えてあげたくなるというか、優しくしたくなるというか。
 遠慮する郁ちゃんを無理やり誘い、駅前に戻って、小さなカフェに入る。生クリームたっぷりのカフェラテを注文し、前に座るカチコチに緊張した女の子を眺める。

「すいません。変な話しちゃって」

 恐縮そうに謝るところがまたかわいい。って、すっかりオヤジじゃん、私。

「いいよいいよ。悩んでたんでしょ?」
「……はい」
「大学受験って、大変だもんね。私も死に物狂いで勉強したもん。行きたかった大学、落ちたし。でもま、落ちてよかったと思うけどね。動機が『好きだった先輩が入った大学だから』だもん」

 何年も前のことを懐かしく思う。
 私は郁ちゃんのように悩みもしなかった。大学に行きたい理由も特に無かったし、あえて理由がつけられるのなら、それはそれで良いと思えた。
 大学に進学した方が就職に有利だとか、まだ働きたくないとか、そんなしょうもない理由で進学したのだ。

「弟はきっと同じ大学行きたいんだろうけどさ、郁ちゃんは郁ちゃんの人生があるんだから。よく考えて選ぶべきだよ。自分の人生は誰の物でもない、自分の物だからね」

 そう。私の人生を選ぶのは私だけ。不純な理由であろうが、情けないことであろうが、それで良いと思えるなら、それが良いのだ。

「大学って、別にそこだけしか受けられないわけじゃないしさ。何校か受けて、受かったところから選ぶしかないんだから、弟のことはその辺にほっぽり投げて、やりたいことをやるべきさ」

 ウェートレスが持って来てくれたカフェラテの生クリームだけをすくい取り、ぱくっと食べる。甘い食感が口の中にとけていく。

「そうですよね」

 納得したのかしないのか、郁ちゃんは小さく微笑み、ココアに口をつける。色が白くてかわええなあ。ああ、だめだ。今日はオヤジになってる。

「郁ちゃんは、豊介のどこが好きなの?」
「え!?」
「人当たりがいいのは知ってるからさあ、それなりにモテるんだろうなあとは思ってたんだけど。姉としては、どこがいいのかさっぱり」

 弟は、身長も低くないし、こざっぱりとしてるし、いいヤツを装ってるし、モテなくはないんだろう。だけど、身内ってのは、どうも魅力を分析出来ない。

「や、やさしい、ところ、かな」
「ふうん」
「あと、しっかりしてるところ、です」

 顔が真っ赤になってる。形の良いアーモンド形の目を伏せ、必死にココアを飲んで照れ隠ししてるのがこれまたかわいい。

「好きって、どういう気持ち?」
「え?」
「郁ちゃんにとっての、『好き』ってどういう状態のこと?」

 こういう頃の純粋だった気持ちを思い出せない。
 自分の寂しさや、この先の未来やらが絡んで、打算的にしか判断できなくなってる。

「一緒にいたいって思うこと、だと思いますけど、よくわからないです」

 恥ずかしいのか、声がか細くなってる。おっさん、もう抱きしめたいです、この子のこと!

「お姉さんにとってはどうなんですか?」

 お、反逆された。

「そうだね。郁ちゃんと同じかも。一緒にいたい」

 とても単純なこと。
 そばにいてほしいとか、そばにいたいとか、そういう、本当にささいな願い。
 今、私がやらなきゃいけないことは、恋愛経験で培ったいらない武装を全部取っ払い、根底にある感情、単純で明快な答えを見出すことだったのだ。


 一緒にいたい。


 それだけがすべて。

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【2010/05/11 03:30】 | Deep Forest(恋愛)
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