きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第51話 舞子大魔王とホウタイ女

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 舞子にケータイを渡したら、確実にジャイさんに電話をかけるだろう。それをやられたら、私、一体どうすればいいってんだ。
 躊躇してケータイを抱きしめていると、舞子の笑顔がどんどん歪んでくる。般若がいる。

「はよう渡せえや」

 もうヤンキー超えてヤクザですよね? 迫力だけなら組長クラスなんですけど。

「凛香」

 低く轟く声は、組長を飛び越えてマフィアの大ボスです。大魔王です。

「あんたは恋愛をしてないよ」
「なに、それ」
「自分だけの世界に閉じこもって、ごっこ遊びしてるだけになるよ。今のままじゃ」

 大魔王から吐き出される言葉は、胸の奥にぐんぐんと入り込んでくる。鼻の奥がつんと痛む。

「ちゃんと向き合わなきゃ」

 鼻をすすり、両手で握りしめたケータイからゆるゆると力を抜く。

「手、貸してあげることくらいなら、できるからさ」

 舞子の手が私の目の前に突き出される。広げられた手の上に、私はケータイを置いていた。
 本当はわかってた。
 ずっとわかっていたことなのだ。
 でも、逃げていたのは、怖がっていたのは、舞子の言うとおりで……。
 包帯だらけの自分の傷を直視することが出来ず、不恰好なそれを見て見ぬふりをした。
 たとえ傷が痛くても、それがいつか癒えることを知っている。知っているはずなのに、傷の痛みを知っているから、怯えていたのだ。
 誰かを好きになるということは、同時に失うということも覚悟しなければならない。
 それが、怖かった。嫌だった。もう二度と、味わいたくない。

 だけど、だけど、だけど。
 それでも、また誰かを好きになる。好きになってしまう。それを止めることなんて、出来やしない。
 だから――。

「もしもしー? ジャイさん?」

 舞子ののん気な声にはっとする。
 え、あれ? もしかしなくても、まじでジャイさんに電話してる?

「初めまして。原瀬舞子と申します。ええ、そう。凛香の友達の。あはは! ありがとうございますー」

 なんかすんごい楽しそうに会話してるんですけど。

「そうそう。今、凛香に説教してたところで。そうなんですよ! ほんと、バカな子ですいません。え? いえいえ。うんうん。ああ、そうですよね。はい。はあ、うーん。はい」

 ていうか、なに話してんの! さっきから、ああ、とか、はい、とか うん、とか! 盗聴したい!

「ああー……うん。そうそう。あはは! そうそう! うん、うん。あ、はい。わかりました。うん。じゃあ、はい。はい、わかりました。うん。いえいえ。こちらこそ。うん。はい。じゃあ」

 うん、だの、はい、だと連発したと思ったら、舞子はバチッとケータイを閉じてしまった。

「ええ! ちょっ! 切っちゃったの?!」

 代わるとか、あるかと思ってたんだけど!

「あ、ごめん。切っちゃった」

 テヘッとペコちゃんみたいに笑う舞子を唖然と見ることしか出来ない。

「ええと……。なに、話したの?」

 おかしくない? 話の流れ的に、舞子が電話してくれて、私と電話代わって、ジャイさんと私が話すんだとばっかり思ってたんだけど。
 手を貸すって、話が出来ない私の背中を押すために電話かけてくれることだと思ったんだけど。私、何か間違ってた?

「今週末、あいてる日あったら教えてって言ってて」
「え?!」
「金曜はあいてるかな? って聞かれたから『うん』って言っておいた」
「ちょっと! 勝手に予定を決めないでよ!」
「でもあいてるでしょ? 私と飲む約束だったし」

 そうだ。金曜は舞子を含む高校時代の友達と集まって飲む約束をしていたのだ。それに行かないで、ジャイさんと会えってか。

「土曜は休みだし。ジャイさんと話しあったら、うちらのところに来ればいいじゃなーい。あ、そっか。ラブホに直行かしら。いやん」

 いやん、って。

「とにかく。ちゃんと思いの丈をぶつけてきなさいよねー」
「思いの丈え?!」
「凛香が今、抱えてる気持ち、全部ちゃんと伝えてきなさい。好きでも嫌いでも、わかんないでもさ」
「もう、伝えたもん」
「もん、じゃねっつの。このままでいいなら、会えないってメールでもすりゃいいんだから。まだ月曜だし。よく考えなよ」

 舞子は強引だ。でも、この強引さに助けられてる。
 このままじゃいけないの、私が一番よくわかってるんだ。


 ***

「あーあ。あと一ヶ月かあ」

 夏の陽光はギラギラと照りつける。それでも私は屋上に行くのだから、物好きなのかもしれない。ついてくる英美子も物好きなやつ。
 お弁当を広げ、タコさんウィンナーをつまむと、英美子が「かわいーい」ともう一匹のタコさんを勝手に取って食べてしまった。
 何しやがんだと軽くキレたら、チロルチョコをくれた。よし、許す。

「なんでため息ついてんの? あと一ヶ月って、退職までの期間だよね? やりたかった仕事に向けての第一歩じゃん」

 英美子は細い足を投げ出し、ぐっと伸びをする。

「でもさあ、悩むじゃん? これでよかったのかなーって」
「英美子が悩んで決めたことでしょ? それでいいんだよ」
「そんなもの?」
「だって、自分で決めたんだよ? 後悔するようなことになっても、自分で決めたことなんだからしょうがないじゃない?」

 そうだ。全部、全部、自分で決めてきたことだ。
 誰かがそうしろと言ったわけでも、渋々そうしたわけでもない。
 自分の意思で、決めたこと。

「そうだよねえ。うん。そうだよね。後悔しないように頑張るしかないよね」

 何度もうなずきながら、英美子は「そうだよね」と繰り返す。私も合いの手のように何度もうなずいた。

「そうだよ。後悔することになったら、飲みに付き合うよ」
「憂さ晴らし?」
「憂さ晴らし」
「おごり?」
「それは無い」
「凛香先輩、冷たいー」
「同期でしょうが」

 目をつぶっても、日の光が届いてくる。真っ白に染まった世界の中で、私もまた「そうだよね」と何度もつぶやいた。

 このままではいけないんだ。
 私、このままじゃ、逃げてるだけになる。
 脱け出すんだ。迷いの森を。
 私の足で。

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【2010/04/28 03:15】 | Deep Forest(恋愛)
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