きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第49話 これでいいって、誰か

+++++++++++++

「ジャイさんが何を考えてるのか、わかんない」

 みるみる押し寄せてくる涙を必死に我慢する。ここで泣いたら負けな気がして、ぐっとまぶたに力をこめれば、目の奥の熱さを感じて、よけいに涙が出そうになった。

「凛香ちゃんは、俺に何を期待してるの?」
「何って……」
「愛されたいだけ? 俺の気持ちって、そんなに大事かな?」

 何を言ってるんだ。相手の気持ちが大事なのは当たり前じゃないか。

「今、俺の気持ちを言うのは簡単なことだよ。だけど、凛香ちゃんは?」

 バッグを持った手に力が入る。潮風が気持ち悪くて具合が悪くなる。吐きそう、そう思って口元に手を添えるが、喉の奥で胃液の酸味を感じるだけで、何も出そうに無い。

「俺は、凛香ちゃんの気持ちが知りたい。卑怯なのはわかってるよ。俺が言わずに、凛香ちゃんに言わせようとするのは卑怯だってわかってる。だけど、今の凛香ちゃんにはそれが必要だと思ってる」
「そんなの」

 ジャイさんが決めることじゃないじゃない。そう言おうと思ったけど、口には出さなかった。
 ジャイさんなりに私のことを考えてくれてるってわかってる。だけど、それを受け止めて理解できないのは、私の感情がついてきてないからだ。
 こんな話し合いを、ジャイさんと私、何度繰り返したんだろう。
 確認したい自分。言ってくれないジャイさん。ずっとずっと悶々とした気持ちを抱え、でも、答えを出してしまうことが怖かった。
 離れていってしまうことが、怖かった。

「ごめん。私、ジャイさんと一緒にはいられないよ……」

 だって。今ほしい言葉を、今言ってくれない人と、一緒にいる意味はあるの?
 口から手が出るほどに欲してる。
 好きって言って。私を好きって、言ってほしいんだよ。それだけで満足するのに。それだけでいいのに。

「ジャイさんと一緒にいると楽しかった。いつも……いつも私を元気をくれて、ありのままでいさせてくれた。でも」

 こぼれる涙は、海風にさらわれる。強くなってきた風に、身震いする。
 震えて泣いてしまう私を抱きしめてくれる手は、ジャイさんだった。骨ばった男の人の手。頼りにしていたし、欲していた。

「このままじゃ、辛いんだよ」

 自分を追いつめてるのは、自分自身だ。辛いのも苦しいのも、切ないのも寂しいのも、全部全部自分の気持ちの問題なのだ。
 ジャイさんに助けを求め、救ってもらいたくて、それがただ一言の「好き」なのだと、ジャイさんに求めてしまっているのは私自身の弱さで、ジャイさんには何の落ち度も無い。
 ジャイさんはきっとそれを見抜いてるからこそ、何も言わないのだ。

「どうすればいいのか、わからないの」

 ジャイさんの手が、私の耳元に触れる。ビクリと体を震わせ、見上げる先には、寂しそうに笑うジャイさんの顔があった。

「凛香ちゃんがあの男のこと吹っ切るのを待ってるつもりだったんだけど」

 やっくんがいない寂しさを。
 埋めてくれた人。

「凛香ちゃんには時間が必要だと思ってる。俺の気持ちを押しつけても、今の凛香ちゃんにはちゃんとした答えは出せない。違う?」

 寂しいから、好きだと言ってほしいだけ。失った気持ちを、補うだけの愛を欲してるだけ。

 それを恋愛だと、言ってしまうには……私はまだ純粋さを失ってはいない。

「ごめんね……」

 謝るしか出来ないのは、もう私の答えは出ているから?

「ごめんなさい」

 嗚咽まじりの声は、ジャイさんの耳にちゃんと届いただろうか。
 道の片隅で泣きじゃくる馬鹿な女を、ジャイさんはどう思っているだろうか。
 来週からサーカスが始まると書かれた看板が掲げられた大きな門のそばで、私たちは隠れるように身を寄せる。
 白い柵の向こうにはひっそりと佇む白い建物が見える。その先には、横浜の海。すっかり闇に飲まれた海は、ビルの光を反射させ、虹色にたゆたう。

「もう会わないってこと?」

 問われて、声が詰まる。そういうことに、なるんだろう。

「……わかった」

 そういうつもりじゃないの、とか、違う、とか否定の言葉が次々に出そうになる。でも、押し殺して我慢した。
 ずるずるとするのは、ジャイさんにとっても良くない。
 私のことなんてとっとと切って、新しい人を見つけるべきだ。自分勝手な物思いで、人の人生をまきこめない。
 私を大切にしてくれたからこそ。

「ジャイさんがいて良かった。助けられたよ。いっぱい」

 何度お礼をしても足りないだろう。

「いっぱい。いっぱい、ありがとう」

 どうして、こうなってしまうんだろう。
 好きじゃなくても付き合えたはず。いつか好きになるのを待てたはず。
 だけど、ジャイさんに対しては出来ない。

 偽りの気持ちで一緒にいることを、私は良しと出来なかった。
 この人にだけは。

「帰ろうか」

 ハンカチを手渡され、素直に受け取り、涙をぬぐった。ハンカチの上からちらりと見たジャイさんの顔は無表情で、何を考えているのわからなかった。
 薄い唇の両端を少しだけ上げて、笑みを浮かべる。眉間に入った小さな皺が、一体何を物語っているのか、私にはわからなかった。

「友達に、なれないかな」
「俺はそういうの、ちょっと無理かな」

 図々しいお願いを口にしてしまったことが恥ずかしくなって、唇を噛む。
 失いたくないという気持ちと、このまま別れるべきだという気持ちがぐるぐると入り混じり、胸の中でざわめき続ける。

「いつかどこかでばったり会ったら、『よっ』って気軽に声かけてよ」

 陽気にそう言って、ジャイさんは歩き出した。背中を追いながら、何度も何度も深呼吸した。

 これで良かったのか。これで、いいのか。
 自分の選択を後悔する気がして、ジャイさんの洋服の裾を掴みたくなる。
 だめだ、そんなの甘えだと叱責をくり返し、空を仰ぐ。

 うずまく風で、雲が走る。月を隠し、星を隠し、飲み込んでいく。

 ――心が。

 泣いてる。

 未熟な自分が情けなくて、ただ涙が出る。

 お願いだから、誰か。
 間違ってないと、言って。
 これでいいって、誰か。

+++++++++++++

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あとがき↓
自分の気持ちって、自分のことなのにわからないことって多いですよね。
誰かと別れた直後に誰かと出会っても、その人への感情が、ただの寂しさなのか、純粋な恋愛感情なのか……。

整理しきれない気持ちも、ふとしたきっかけで道が開けてくることがあります。
つらいこと悲しいこと、そういう負の感情に流されると、何も見えなくなる。

つらい時は何も考えないようにします笑
飲んで笑って遊んではしゃいで。だんだん元気になれば、おのずと答えは出るものと思ってます。
悩んでいる人は多いと思いますが、自分が落ち込んでいる時に出す答えは、ほぼ間違えます(苦笑)
気持ちが元気を取り戻すまで、答えを出すのは待つべきというのが持論です。

今、この作品の主人公状態の友達がいて。
創作活動をしてるのは秘密なので、その子がこの作品を読むことは一生無いのですが笑

誰かがこの作品を読んで、何かを得るきっかけになればいいなと思います(^^)


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自分の気持ちって、自分のことなのにわからないことって多いですよね。
誰かと別れた直後に誰かと出会っても、その人への感情が、ただの寂しさなのか、純粋な恋愛感情なのか……。

整理しきれない気持ちも、ふとしたきっかけで道が開けてくることがあります。
つらいこと悲しいこと、そういう負の感情に流されると、何も見えなくなる。

つらい時は何も考えないようにします笑
飲んで笑って遊んではしゃいで。だんだん元気になれば、おのずと答えは出るものと思ってます。
悩んでいる人は多いと思いますが、自分が落ち込んでいる時に出す答えは、ほぼ間違えます(苦笑)
気持ちが元気を取り戻すまで、答えを出すのは待つべきというのが持論です。

今、この作品の主人公状態の友達がいて。
創作活動をしてるのは秘密なので、その子がこの作品を読むことは一生無いのですが笑

誰かがこの作品を読んで、何かを得るきっかけになればいいなと思います(^^)

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【2010/04/14 01:53】 | Deep Forest(恋愛)
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yu
はじめまして。いつも楽しみに読ませていただいてます。


ええええええー
別れちゃったんですか・・・。もったいない。こんないい人いないのに。。りんかちゃんの気持ちもわかる気もしますが。
これからもきゅんきゅんするようなストーリー、期待してます。できればハッピーエンドがいいなぁ

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コメント
この記事へのコメント
はじめまして。いつも楽しみに読ませていただいてます。


ええええええー
別れちゃったんですか・・・。もったいない。こんないい人いないのに。。りんかちゃんの気持ちもわかる気もしますが。
これからもきゅんきゅんするようなストーリー、期待してます。できればハッピーエンドがいいなぁ
2010/04/15(Thu) 23:40 | URL  | yu #-[ 編集]
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