きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第48話 心の迷宮

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 次の日はジャイさんとのデートだった。
 気持ちが落ちてしまっているせいか、なかなか家を出る気になれず、三十分も遅刻してしまった。一歩足を踏み出すたびにため息がこぼれ出て、ため息の力で歩いてるみたいだ。
 今日のデートは横浜に行くことになっていた。途中の駅で待ち合わせをして向かう予定だったのだが、私の遅刻でジャイさんはその辺で時間をつぶすはめになってしまっている。
 ようやく待ち合わせの駅に到着すると、ジャイさんは軽い足取りで私に近付いてきた。

「ごめん」

 開口一番、謝る。三十分も待たせたのに、ジャイさんはさほど怒っている様子も無く、「じゃあ行こうか」とホームに向かって歩き出す。
 ふわふわと揺れるこげ茶の髪を見ていると、それだけで罪悪感が込み上げて、足が動かなくなってしまった。
 罪悪感とはいっても、ウコン君と遊んだことや、告白されて悩んでしまっていることへの罪の意識じゃない。
 ジャイさんという人を真正面から見ることが出来ない……こんなもやもやを抱えたまま一緒にいることが苦痛なのだ。
 苦痛、というのもちょっと違う。苦しいのとも痛いのとも違う。胸の中で膨らむ風船が喉元を押しやるような感覚というか、胸焼けしているような感覚というか。
 吐きたいのに吐けない時の喉の痛みに似てる。

「凛香ちゃん?」

 先に進んでいたジャイさんが戻ってきて、私の顔をのぞきこんでくる。

「具合でも悪い?」
「ううん、行こう」

 ジャイさんの腕を掴む。恋人同士として歩くことで、確固たる気持ちを手に入れたかった。
 迷わない、一筋の道を歩む、自分を手に入れたかった。
 それが、見つけられないことを、自覚していたから。

 ***

 中華街でランチを食べ、そのまま買い物をして山下公園でまったり散策した後、赤レンガ倉庫へ向かう。
 一緒に過ごすうち、だんだん暗い気持ちは晴れて、楽しさが増してくる。明るい日差しのおかげだろうか。夏の光線を和らげる海風によって、心の中の曇り空まで一掃されていく。
 隣を歩くジャイさんはいつも通り。意地悪だったり優しかったり、ニヤニヤと笑ったかと思うと、柔らかい表情をみせて、私の手を握ってくる。
 コロコロと変わるジャイさんの表情に合わせて、私の気持ちも惑わされる。せり上がってくる恥ずかしさや喜びが隠し切れない。
 不思議な感覚だった。
 ジャイさんに左右される自分。今まで付き合ってきた人たちとは何かが違う、この気持ち。
 好きだから喜んだり照れたりしているのとはちょっと違う。
 一緒の空間で共有する気持ちを、共感しあっている……そんなかんじ。

 赤レンガ倉庫が見えてくると、否が応でもテンションが上がる。日差しはだんだん西に傾き、海に反射する赤い光が目の端に映る。

「ちょうどいい時間だったね」

 海風も強くなって、髪が顔に当たる。それを手で梳いて耳にかける。波の音は聞こえない。

「おっさん、ちょっと歩き疲れた。赤レンガの中で休もう」
「まだ二十代でしょう。おっさん言うな」
「凛香ちゃんには黙ってたんだけど、俺、本当はもうすぐ四十歳なんだ……」
「嘘つけ」

 掴んでいた腕を軽く叩くと、ジャイさんは「凛香ちゃんの平手打ちは心に痛い」とぼやく。
 この人はほんと、ふざけてるというかなんというか。

 横浜港を出発するクルーザーの光が明滅する。その光に目を奪われて目を細めた時だった。ケータイがメール着信を知らせる。
 何の気なしに開いたメール。
 
「あ」

 声を上げてしまったせいだろう。クルーザーを見ていたジャイさんの視線が、ふと私のケータイに降りた。
 慌ててケータイを閉じたが、この慌てっぷり、逆に怪しまれるだろうな……。
 冷や汗をかきながら、チロリとジャイさんの顔色を伺う。
 ジャイさんは怪訝そうに眉をしかめた。

 あて先はウコン君だった。文面は『早くまた会いたい』。

「友達の、友達」
「何も聞いてないけど」

 思わずいいわけを言いかけて、唇をかんだ。少しつりあがった眉毛。切れ長の瞳。いつもと変わらない表情。怒っているのかも何も気にしていないのかも、読み取れない。

「告白、されたの」
「そう」

 そう、って。それだけなの? あっけない返答に怒りが込み上げてくる。
 どうして、感情を見せてくれないの? なんでもかんでもあっけらかんと、飄々としてて。
 いつもどこかで不安を抱えてしまうのは、釈然としない気持ちをジャイさんに対して抱えてしまうのは、ジャイさんの感情を見せない表情に対してだったんだ。
 にこやかにしてるし、意地悪そうにも笑う。だけど、まるでそれは、岸川さんや英美子に見せる営業スマイルと一緒で、一歩踏み込んだ関係だと思っていても、いつもいつも壁を感じてしまう。
 ジャイさんは、私に、何も見せてくれていない。
 表情も感情も気持ちも心も。

「何も言ってくれないんだね」
「相手にするなって、言ってほしいの?」
「違うよ! ジャイさんはなんとも思わないの? 私が他の誰かとくっついちゃうかもしれないんだよ?!」

 思わず大きな声を出してしまい、恥ずかしくなってうつむく。私たちの少し前を歩いていたカップルが振り返って不思議そうに首を傾げてきた。

「俺は凛香ちゃんの行動を締め付けるつもりはないから。そいつとどうなろうが、俺は関与できないと思ってる」
「それって、ひどくない? すごい……突き放されてるかんじ」

 声を押し殺す。震える低い声は、犬のうなり声のよう。
 私はジャイさんを威嚇しているのだから、犬のうなり声と同じなのかもしれない。

「俺は凛香ちゃんの答えを待ってるだけだから」

 何それ。なんなんだそれ。
 強引に私を捕まえていようとか、離さないとか、そういう、気持ちは無いってこと?
 私に主導権を持たせてるようで、結局は私まかせにしてるだけじゃないか。
 ジャイさんの気持ちは?
 どこにあるの?
 本当に私が好きなの?

 わからないことだらけすぎて、頭が混乱する。奥歯を噛み、ぐしゃりと髪をつかむ。
 海風が髪をなぶる。首筋にまとわりつく熱風がうっとおしくて、嗚咽が込み上げてくる。

 ――はっきりしない男より、俺の方が絶対いいよ。

 ウコン君の言葉が、脳内を駆け巡る。

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【2010/04/07 03:33】 | Deep Forest(恋愛)
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