きよこの書き散らかし小説。
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神様がくれた
じいに捧ぐ物語。

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第4話 高山食堂にて。

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「女の子が薄汚れた格好して、うろついてるなんて!」

 厚志の母親、里美は実由を見るなり、大きな口を大きく開けて笑った。
 小さな背とずんぐりとした体がドラえもんに似てる気がして、実由はつい噴き出してしまった。
 少し垂れた目尻が厚志と似ている。通った鼻筋も厚志と同じ。口元以外は、厚志は母親に似たのだな、と実由は思った。

 海の家でバイトすればいい、と言った厚志は、母親を連れて戻ってきた。
 その間の十分、実由は言われたとおり畳を一生懸命掃除していた。

「あっくん、あとはまかせるから、お母さんはこの子をうちに連れ帰るわね」
「よろしくー」

 「そういうことだから掃除変わるわ」と厚志は実由が握ったままのほうきに手を伸ばす。
 一瞬、実由の小指と触れ合った。思わずびくりと反応して、ほうきから手を離してしまう。
 厚志はまだほうきをしっかり握っていなかったから、ほうきが畳の上に倒れ、砂塵が舞う。

「あ、ごめんなさい……」

 顔が熱い。実由は頬に手をあて、その温度を確かめる。
 日焼けのせいなのか、それ以外のせいなのか、太陽の熱で茹だる体では判別がつかなかった。



 ***


 海岸沿いに走る道路を渡ると、民宿やお食事処が並んでいた。
 その中のひとつの、お世辞にも綺麗とはいえない古びた木造家屋に里美は入っていった。
 筆文字のような達筆な字で、『高山食堂』と書かれた看板が目に付く。
 家屋に入った途端、薄暗さが涼しさを呼び起こした。
 風鈴の涼しげな音がどこからともなく聞こえてくる。
 二つ並んだテーブルと、カウンターに五つの椅子が並んだだけのこじんまりとした食堂だが、片付けられた室内は見た目よりも古さを感じさせなかった。
 おばあちゃんの家に来たような、どこか懐かしい感覚に、実由はちょっとだけ涙が出そうになった。

「上は民宿なんだよ。ま、こんな汚い家だから、あんまり客はいないけど」

 書き入れ時なのに予約もさっぱりだ、と笑いながら、店の奥の階段を上がっていく。実由も慌てて、後を追った。

「あ、あの」
「なに?」

 赤の他人の自分が、人の家に勝手に上がっている。その事態に、戸惑いを隠せない。
 何か言わなければと声をかけたが、続く言葉が思い浮かばず、下を向いてしまった。

「遠慮しないでいいから。あっくんから事情は聞いてるし」

 太陽みたいに笑う里美の姿に、実由は安心してこっそり息を吐いた。
 里美は優しい。外見だけでなく中身も里美と厚志は似ているんだ、と心の中でつぶやく。

 階段を上がった先は廊下が続き、両脇にドアが二つずつ並んでいて、正面にもドアがある。
 民宿を経営しているというのだから、この五つの部屋が客室なのだろう。
 そのドアのひとつ、里美が立っているすぐそばのドアがからりと開き、実由と同じくらいの年齢の少年が、気だるそうに雑巾をぶら下げて出てきた。
 野球選手のように短く刈られた髪の毛を掻いて、鋭い目線を実由に投げかけてくる。

「お客?」
「いんや、家出少女」

 一重まぶたの切れ長の目が、実由を睨みつける。
 厚志や里美が優しげな雰囲気を身にまとっているのに比べ、この少年はひんやりとした冷たさを放っていた。
 その目が鋭すぎるから、実由にはそう見えたのかもしれない。

「あ、次男の和斗(かずと)だよ。高三。実由ちゃんのいっこ上、かしら。この子は実由ちゃん。うちでしばらく預かるから」
「はあ?」

 あからさまに嫌そうな顔をしてくる。ふっくらした唇をへの字にゆがめていた。

「私、お世話になるつもりなんてありません。ええと、あの、ホームレスになるから、平気です」

 慌てて、両手をぶんぶんと振りながら、実由は顔もぶんぶんと振り回した。元からお世話になるつもりなんてない。お風呂だけは入らせてもらおうと思っていたけれど。

「ホームレスって」

 不機嫌そうな顔が一気にゆるんだ。和斗は下を向いて笑いをかみ殺し、冷たい空気を和らげさせた。
 こんな風にころころと雰囲気を変える人間は初めてだ、と実由はまじまじと彼を見つめてしまう。

「すげえ女。そういう発想ってどこから来んの?」
「の、脳みそから」
「そりゃそうだけど」

 笑った顔は、厚志と少し似ていた。鋭い目が垂れて、くしゃっとなる。

「部屋の掃除、終わったの?」

 笑う和斗の頭を叩いて、里美が言った。

「終わったよ」
「ありがと。じゃ、食堂の掃除もよろしくね」
「オニババ」
「口が悪いこと!」

 頬をつねられ、和斗は「いてててて!」と素っ頓狂な声をあげる。低い声の彼の変な声に、実由はぶっと笑ってしまった。

「あそこ、実由ちゃんの部屋にしていいから」

 そう言われた先は、先ほど和斗が出てきた部屋だった。

「俺が掃除したばっかの部屋なんですけど」

 和斗が不満そうな声をあげると、すかさずまた頬をつねられる。また和斗は甲高い声で泣いた。

「お風呂は下の階にあるから、部屋に荷物置いてきな」
「でも……」
「帰りたくないんでしょ?」

 里美の核心をついた言葉に、実由は返事を窮してしまう。
 里美の言うとおり、帰りたくなかった。なぜなのか、そう問われたら、答えはでもしない。それでも、実由は帰りたくなかった。

 小花柄のカバーがかかったベッドや、ピンク色のカーテン。お気に入りの白い机――自分だけの空間、大事な自分の家の、自分の部屋。
 思い返しても、今は灰色の光景に変わってしまっていた。

 原因なんてわからなかった。
 ただ、むせ返るような息苦しい芳香が支配して、実由をさいなむ。
 立ちくらみに似た感覚は、ブラックホールが渦巻くように、実由の中の何かを次々に吸い込んでいってしまう。
 『何』が吸い込まれているのか、はっきりとしないけれど、それは、足元を砂場のようにして、実由をまっすぐに立たせなくしてしまっていた。



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【2009/01/29 00:21】 | 神様がくれた(恋愛)
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