きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第46話 言葉をくれる人

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 正直言って、自分でも自分にうんざりする。
 ジャイさんのことが好きなのかどうかぐだぐだ悩みっぱなしだったり、流されやすくて同じような誘いに乗ってしまっていたりとか。同じことのくり返しばかりで、全然進歩が無い。
 ため息のたびに逃げていく幸せをどう追いかければいいのか、迷走して進まない。

 付き合うということになったわりに、ジャイさんからの連絡はあまり無い。二、三日に一度の頻度で来るメールは業務連絡みたいなものがほとんどで、味気ない。
 次会うのは日曜日で、その日に何をするかのやりとりしかしていないのだ。
 どちらかというと私はマメではないから、このペースに不満は無いけれど、不安はある。
 ジャイさんの気持ちがやはりわからない。

 好きと口に出してくれない。連絡はあまり多くない。私をつなぎとめようとする素振りも無い。

 こうやって考えると、ジャイさんが本気で私を好きだとは思えなくなってくる。
 遊びなのか、ゲーム感覚なのか。
 私が煮え切らないからこそ、どうすれば落ちるのか楽しんでいるんじゃないだろうか。

 ……疑心暗鬼になっているとしか言いようが無い。疑ってばかりいてはまとまるものもまとまらなくなるってわかってるのに。このままじゃ、ジャイさんと私の関係もすぐに崩壊するだろう。

 物思いにふけっていると、暗くなっていた室内に明かりが灯り始めていた。
 はっとして頬杖をついていた手から顔を上げる。
 隣にいるウコン君が腰に両手を当てて「んーっ」と体をほぐしていた。

 先週、食事をした時、強引に土曜の約束を取り付けられてしまったのだ。ジャイさんとのデートの時もこのパターンだったから、私ってつくづくこの手の強引さに弱いんだろう。

「面白かったね」
「え? 何が?」

 椅子に備え付けられたボトルホルダーからコーラの入った紙コップを取り、飲み干す。ウコン君は晴れやかに話しかけてくれたけど、何の話をしているのかわからなくて首を傾げてしまった。
 ズビ、とストローを鳴らしてから、映画の感想を言っていることにようやく気付いた。
 映像がすごいとかなんとかで話題になっている映画をさっきまで観ていたのだが、色々考え込んでたから、ストーリーが全く頭に入ってない。

「ほら、主人公が剣を握って叫ぶシーンとかさ。そのまま映像が全体を写すアングルに変わったじゃない? あれもCGなのかなあ。すごい映像だったね」

 どのシーンのことを言っているのか全くもって思い出せないけど、とりあえずうなずくだけうなずいた。

「少し早いけど、夕飯でも食べようか?」

 ぞろぞろと映画館を出て行く人たちの背中にくっついて歩き出す。
 冷房の効いた室内から出た途端、夏特有のむんわりとした湿気が体をなでていく。西に傾き始めた日差しをよけるように手をかざして、目を細める。

 私、何してんだろう。
 一応、彼氏がいるっていうのに、しかも付き合いたてほやほやのラブラブ期だっていうのに、他の男とデートしてる。
 けじめはつけといた方がいいんじゃないだろうか。
 告られたわけでもないんだから、はっきり断る必要はないはず。彼氏が出来たということを匂わせる程度でいいんだ。

 ***

 食事をする場所をどこにするかという話になって、適当にぶらついて決めようと提案した。
 ヒルズやミッドタウンの中で食べようと考えていたみたいだけど、せっかく時間に余裕があるし、お腹もそこまですいていないから、散策してみたい気分だったのだ。
 六本木駅を少し歩いたところで、スペイン料理のお店を見つけた。
 古ぼけた雰囲気だけど、メニューの書かれた黒板の牛の絵が下手くそすぎて笑えたので、気になってしまったのだ。
 格子になった窓から中を覗くと、赤いチェック柄のテーブルクロスやナチュラルな木目調のインテリアが見えた。
 ヨーロッパの田舎にありそうな家庭的な雰囲気が素敵で、私は「ここにしよう!」と勝手に決めて中に入る。
 お店の奥から出てきたずんぐりとした体型のおばちゃんが、ソファーの席に案内してくれた。

「スペイン料理って食べたことある? 俺、初めてかも」

 テーブルクロスと同柄の手作りっぽいクッションが置かれたソファーに座りながら、ウコン君はメニューを隅から隅まで眺めてる。

「私も初めて。何が有名なのかな」
「店員さんのオススメでも聞いてみるか」

 初めてということに浮かれているのか、ウコン君はワントーン高い声で楽しそうだ。ちょっと子供っぽい仕草が真面目で大人っぽい雰囲気と不釣合いで、だからこそ魅力的に映る。

「前の彼女とかは、俺が決めた店についてくるだけだったんだよ。こういう風に二人で見つけた店に飛び込んでみるのって久々かもしれない。予約して店決めないで正解だったかな」
「へえ。意外と女の子を引っ張るタイプ?」
「というよりは依存心の強い子にひっかかるタイプかな」

 自嘲気味に笑いながら、ウコン君は黒い髪をくしゃりと掻いた。まっすぐの眉毛がハの字に曲がっちゃってる。

「だから、凛香ちゃんみたいな子って新鮮なんだよ。大学時代に舞子から聞いてた印象そのままで、なんていうか……早いのはわかってるんだけど、やられた」
「え?」

 わかってるみたいだけど、ほんとに早くない? まだ食事も始まってないし、飲み物も運ばれてきてないし。なのに、話の切り出し方が、告白風味なんですけど。

「ごめん。俺、思ったことをすぐ口に出しちゃうんだよね」

 そう言って、じっと私を見つめてくる。視線を合わせられなくて、彼が着たシャツのストライプの本数を衿ぐりから数え始めてしまった。

「凛香ちゃんのこと好きになりそう。彼氏、いるんだっけ?」

 唾を飲み込む。嘘でしょう、と言いそうになったけど、その真摯な眼差しに黙らされてしまった。

「舞子から少し話は聞いてるんだ。はっきりしない男より、俺の方が絶対いいよ」

 合コンの日、この間の食事。そして今日。たった三日間で、この人は一体、私の何に惚れたというんだ。

「出会ってからの期間から言ったら早すぎるってわかってるんだ。でも、俺は舞子から話を聞くたびに凛香ちゃんに会いたいと思ってた。ずっと会ってみたかった。会ってみたら、印象は何ひとつ変わらなかった。表情豊かでかわいくて、一緒にいると楽しくてしかたない」

 困惑が隠しきれない。いくらなんでも、早すぎるってば。

「結論を急がせるつもりはないから安心して。ただ、彼氏がいるからって俺のことを眼中に入れないのは勘弁なんだ。気持ちを口にしない男より、凛香ちゃんを幸せにする自信がある」

 ふっくらした唇から零れ落ちる言葉は、力強くて凛々しかった。
 ジャイさんを否定されて、胃の中が煙に覆いつくされたような心地だというのに、胸の内は熱く高鳴る鼓動の音が広がっていた。

 突然現れて、突然真っ向勝負してくるなんて。
 モテ期って恐ろしい。

「凛香ちゃんのこと、好きになりかけてる。俺のこと、ちゃんと考えてくれる?」

 頭を抱えそうになるのを我慢して、私は小さくうなずいていた。
 だって、NOとは言えない。雰囲気に飲まれたのもあるけど……ウコン君の言葉がぐさりと刺さったのが一番の理由だった。

 ジャイさんは好きだと言ってくれない。
 気持ちを口にしてくれない男よりも……確かに彼の方が私を幸せにしてくれるだろう。
 ジャイさんとウコン君が、という比較じゃない。
 言葉というものが、それだけ大事で、無くてはならないものだと、思うから。

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【2010/03/28 04:16】 | Deep Forest(恋愛)
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2010/03/28(Sun) 13:14 |   |  #[ 編集]
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