きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第45話 晴れのち曇り、時々雷雨

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 好きという気持ちはどこから発生するものなんだろう。どの瞬間に好きだと思うのだろう。
 純粋に相手を好きだと思う、そういうものを失ったのは、いつだったろう。
 たとえば高校生の頃、性格や容姿で恋に落ちたのは、その人ひとりの価値を見出してのことだ。
 だけど、大人になると、付加価値を求める。経済力や包容力、生活力や社会人としてのレベル。一定の生活レベルを保てない男、許容範囲のせまい男、マナーを守れないような男や社会人としてあるまじき行為を平気でする男なんてのは、どんなに性格や容姿が好ましくても恋愛対象からは外れていく。
 もちろん、そういったものを気にしない女もいるだろうが、アラサー世代の女の大半は、性格や容姿よりもそういう付加価値に基準を設けるんだと思う。

 女は経済力、男は容姿を相手に求めるのだと誰かが言っていたが、あながち間違ってはいないんじゃないだろうか。

 それじゃあ、私は『彼』に何を求めるのだろう。
 一緒にいることの安心感? 結婚して生活を共に出来ること? 裕福とまではいかなくても安心した生活を送れる経済力?
 ……どれも違う気がする。

 やっくんに対しては、一体何を求めていたんだろう? やっくんといる時の平穏な空気が好きだった。彼の醸し出す空気感が心地良かった。陽だまりにいるような穏やかさを、やっくんは与えてくれた。
 だけど、やっくんに求めたものと、これから付き合う人に求めるものは、全く別物だろう。
 私はジャイさんに何を求める?
 ……わからない。

 ジャイさんから何かを与えてほしいと思ったことがない。ただ、つらい時にそばにいてくれて、勇気づけてくれた。欲しい言葉をくれた。背中を押してくれる手が、いつもあるって教えてくれる。
 彼といると、強さを思い出す。
 私の中にある『強い部分』を引き出してくれる。
 同時に、見ないようにしていた自分の粗(あら)と向き合わされてしまうけれど……自分と向きあわなければ、前に進むことは出来ない。

「佐村」

 頭上から降ってきた威厳ある低音で、はっと我に帰る。少しの間いじっていなかったパソコンはスクリーンセーバーの青白い光を右に左に躍らせていた。
 ぼーとしていた私を怒る様子もなく、課長は首を左右に振って肩の凝りをほぐしながら、書類をデスクに放った。

「ここの数字、間違えてるぞ。午前中に直して提出するように」

 マウスを握る手の上に乗せられた書類を見ると、ミスをした数字に赤線が引いてあった。三箇所も間違えてる。

「申し訳ありません」
「佐村らしくないな。いつもはほとんどミス無いのに」
「気を付けます」

 口を真一文字に引き締め、マウスを動かす。スクリーンセーバーは消え、画面がエクセルのページに変わる。

「しっかりな」

 ポンと私の頭を小突いた後、課長は自分の席に戻っていった。ばれないように短くため息を吐いて、立ち上がる。コーヒーを淹れに給湯室に入り、マグカップを軽くゆすいだ。

 プライベートのことが仕事に影響したのだろうか。最近は少しミスが増えてきている。
 やっくんに振られた時はがむしゃらに仕事をして憂さ晴らししていたところもあって、気持ちが落ちている時期とは思えないほど充実した仕事っぷりだったのに。
 最近ときたら、頭の中が霞がかったようにはっきりしなくて、ついついぼんやりしてしまう。

 何が原因って、ジャイさん、なんだろうなあ。

「あー……嫌になる」
「どうしたの? お疲れ?」

 いきなり声をかけられたからびっくりして顔を上げた。給湯室の入口で仁王立ちしていたのは英美子だった。

「なんだー。サボってるのばれたかと思った」

 安心して肩をなでる。英美子は「私もサボり」とコーヒーをカップに注ぎ、ゴクリと飲み込んだ。

「どうしたの? 元気ないみたいだけど」
「うーん」

 週明けの月曜日だ。元気も出ない。だけど、それだけじゃない。

「英美子はどう? 最近」

 どう? って一体なにが聞きたいんだ。主語の無い言葉に英美子は首をかしげてはいたが、内巻きにした髪をなでながら頬を赤く染めた。

「一応、退社の日が決まったよ。来月末。あんまりたいした仕事してなかったし、後任がすぐに決まったから、早めに辞められるみたい。ネイルの学校も決めてきたから、再来月からはスクールに通って職探しかな」
「職探しって、ネイルの?」
「うん。資格取れたら未経験で入れるところ探す予定」
「そっかあ。頑張って」

 ネイリストになりたいと聞いたのはつい最近のことなのに、とんとん拍子に進んでいく英美子には驚かされてしまう。
 決断を次々に出来てしまう彼女がうらやましい。

「凛香は?」
「え、私?」
「だって、暗い顔してるもん。だめだよー。そんな顔して仕事しちゃ」
「うん」

 そんなあからさまに暗い顔してたのか……。課長も怒らないわけだ。

「なんかさあ……心の中がもやもやしてて、晴れないというか」
「恋愛的なこと?」
「そうだね。相手の気持ちが全く見えなくて。そういう時に限って、アタックのうまい男が乱入してくるから、よけいに混乱するというか」
「相手って、赤峰さん? それともアタック男の方が赤峰さん?」
「相手。アタック男はまた別。この間、合コンして知り合った人」
「ふうん」

 英美子はニヤニヤしながら、目を細める。英美子、絶対楽しんでる……。

「赤峰さんって、まだ告ってこないんだあ?」
「付き合おうとは言われたけど」
「じゃあ好きってことじゃん」
「でも、言葉が欲しいの! ちゃんと好きって言ってほしいんだよ」

 英美子はウフッと唾を飛ばしながら一瞬噴き出して、すぐに真顔に顔を作り直した。やっぱり楽しんでやがる。

「赤峰さんのこと好きなんだねえ」
「ええ? なんで? 別に好きじゃないよ!」
「否定しなくてもいいじゃーん。だめだよう。自分に素直にならなきゃあ。相手の気持ちを気にするなんて、相手に対して自分がなにかしらの気持ちを持ってるからこそじゃん。凛香っち、意地っ張りだあ」
「そ、それはさあ、だって、それは」

 ごにょごにょとしか言い訳が言えなくて、だんだん声が小さくなってしまう。
 英美子は含み笑いをしながら、マグカップ片手に「もう戻らなきゃ」と足を弾ませて行ってしまった。
 その背中を見送りながら、熱いコーヒーの入ったカップを握りしめる。

「だって、嫌なんだもん」

 子供みたいだ。
 でも、気付かないふりしてただけで、わかってることなのだ。
 ジャイさんにも言ったこと。そして、言われたことでもある。

 傷つくのが怖い。

 気持ちが見えず、恋をして、その結果が破綻だったとしたら。
 独りよがりな思いを先走らせ、思い違いで結末を迎えたりしたら、どれだけ惨めな思いをするのか。

 私は卑怯だ。
 相手に言わせることで、安心感を得たいだけだ。
 私が好きになったわけじゃない、相手から好きだと言われて始まったことを免罪符にしたいだけ。
 自分の気持ちが大きくないのなら、終わりを迎えても傷は深くならない。

『好き』と言葉にしたら、それは大きく膨らんで、風船みたいに割れるまで膨張し続けるだろう。
 それがわかっているから、歯止めをかけていたい。


 傷つきたくない。逃げ道を用意していたい。



 私は。
 臆病な人間になっている。

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あとがき↓
香港

香港に行ってきました!
夜景がものすっごい綺麗でしたー。
特にアクアルナというクルーズ船から見る夜景はちょうオススメ!!

シンフォニー・オブ・ライツの時間に合わせて乗ると、すごい楽しめます。
船内に流れる音楽に合わせて(ラジオなのかな?)香港のビルから光が踊る姿はもう「きれいー!」としか言えない。

香港島からの夜景も九龍半島からの夜景も両方見れるから、どっち見たらいいのやら状態(笑)

あとはピークトラムが面白い。
急勾配を進む電車で、ほんとに急勾配で肩凝った笑
ピークトラムで登ったら、高台からオープンバスで降りると面白いと聞いてそうしてみたら、これも楽しかった。
残念ながらオープンバスには乗れなかったんだけど、二階建てバスが右に左に揺られながら山を降りるので、ジェットコースターみたいなの。

香港に行く機会がありましたらぜひぜひお試しあれ!

アクアルナ




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香港

香港に行ってきました!
夜景がものすっごい綺麗でしたー。
特にアクアルナというクルーズ船から見る夜景はちょうオススメ!!

シンフォニー・オブ・ライツの時間に合わせて乗ると、すごい楽しめます。
船内に流れる音楽に合わせて(ラジオなのかな?)香港のビルから光が踊る姿はもう「きれいー!」としか言えない。

香港島からの夜景も九龍半島からの夜景も両方見れるから、どっち見たらいいのやら状態(笑)

あとはピークトラムが面白い。
急勾配を進む電車で、ほんとに急勾配で肩凝った笑
ピークトラムで登ったら、高台からオープンバスで降りると面白いと聞いてそうしてみたら、これも楽しかった。
残念ながらオープンバスには乗れなかったんだけど、二階建てバスが右に左に揺られながら山を降りるので、ジェットコースターみたいなの。

香港に行く機会がありましたらぜひぜひお試しあれ!

アクアルナ



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【2010/03/21 03:39】 | Deep Forest(恋愛)
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