きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第44話 やり手王子、襲来

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 ふんぞり返りながら弟に熱弁した『モテ期』のことがよぎった。
 まさに今、私はモテ期にいるんじゃないだろうか。

 高二の頃だったか、彼氏をとっかえひっかえしたことを思い出す。あれが人生一番目のモテ期だった。遊びすぎたことに神様が罰を与えたのか、その後、大学を卒業するまで全くモテなくなるわ、好きな人にはこっぴどく振られるわで不遇な恋愛経験を積んだ。
 社会人になってからの恋愛だって、やっくんのことだったり、他にもあるけど、あんまりいい恋愛はしてない。
 そこに来てジャイさんにウコン君だ。

 これまでの経験からしたって、二兎を追うもの一兎も得ず。こういうパターンの時っていうのは、絶対どちらともうまく行かなくなる。
 ジャイさんとの恋愛が進み始めたっていうのに、こういう人に出会うって……嫌な予感がする。
 だが、しかし。『会ってみたかった』って言われただけで、この人が『私を好きになるかも』と思うのはどう考えても自意識過剰だし、早計ってもんだ。
 気に入られてはいるだろうが、恋愛までは発展していないはず。
 だったら、変に意識せずいつも通りにすればいい。
 私にその気が無いとわかれば、おかしなことにもならないだろうし。
 そう納得して、私はフォークに肉をブスッと刺すと大口を開けてぱくついた。
 小食ぶってかわいこぶるつもりはない。『女の自分』を作る必要なんて無い。
 この人の気を引こうとする気が無いから、素の自分でいればいい。

 ウコン君が薦めてくれた肉料理や野菜料理は、本当においしかった。
 濃厚なソースの味が口の中に充満して、肉や野菜の歯ごたえが食欲を刺激する。ほっぺが落ちてしまいそうとはまさにこのことだ。
 ひとしきり料理を食べたりお酒を飲んだりしたところで、「そろそろ帰ろうか」とウコン君が立ち上がった。

「あ、お会計」
「いいよ。もう払ってきたし」
「え? いつの間に?」

 さっきウコン君はトイレに行ったから、その時ついでに払ってくれたのだろうか。お財布を取り出しお札を何枚か出したら、ウコン君に手を押し返された。

「今日は俺の誘いだからさ。おごり」
「でも」
「いいからいいから。楽しい時間をもらったから、それで満足」

 そう言って、ウコン君はふっくらとした唇に笑みを浮かべる。
 もうなんていうか、紳士のオーラが見えるよ、この人。小花柄っぽいやつ。

「ありがとう」
「いえいえ」

 お店の外に出ると、心地良い風が頬をくすぐる。お酒で火照った体にはちょうど良い外気で、ウコン君の横で「んー」と伸びをした。

「気持ち良さそう」
「うん。料理もお酒もおいしかったから。満腹で幸せ」

 さっきまで食べていた料理の味が口の中に甦る。牛肉のカルパッチョやアンチョビのパスタ、マルガリータのチーズの味……この店の場所、ちゃんと覚えておこう。

「凛香ちゃん、幸せそうな顔でゴハン食べるから、俺もなんだか幸せな気分になったよ」
「うそ! 食い意地はってる顔してた?」
「してたしてた」

 クスクスと笑われて、むくれてしまう。だっておいしかったんだもん。がっついて食べちゃうに決まってるじゃん。

「怒らないでよ、かわいかったってことだよ」
「お世辞うまいね。でも、素直に受け取っておこうかな。ありがと」

 かわいかったと言われれば悪い気はしない。現金なこった。

「あ、駅こっちだよ」

 左に曲がろうとしたら、ウコン君に腕をつかまれ引っ張られた。

「あれ? こっちから来なかったっけ?」
「凛香ちゃん、方向音痴?」

 成り行きとはいえ、そのまま手を繋がれてしまった。突き放そうと思ったが、さすがにそんなまねできなかった。だって、おごってもらったし……。
 おごりって怖い。おごりマジック。

「もう一軒行かない?」
「え……、うーん。終電もうすぐだしなあ」
「大丈夫だよ。明日も休みなんだし」

 確かに明日は日曜で休みだが、二夜連続で朝帰りなんかしたら、母のみならず父からも雷落とされるだろう。父は普段怒らないだけに怒らすと死ぬほど怖い。

 小さい頃、弟と喧嘩して弟を泣かせたら、父が怒ってしまったことがある。どんな内容の喧嘩だったかは覚えていないが、父があれだけ怒るのだから、私が一方的に悪いことをしたんだろう。
 父の体からにじみ出る怒りのオーラに気付いた幼い頃の私は、危険を察知しトイレに逃げ込んだ。そしたら父が追いかけてきてトイレのドアをがんがん叩いてきた。
「隠れるんじゃない! 出て来い!」と怒鳴られた記憶は未だ鮮明で、悪いことをしでかすと必ずトイレのドアを叩かれまくる夢ばかり見るようになってしまった。
 どう考えてもトラウマだ。

「ごめん。親がうるさいんだ」

 あんまりうるさくないけど、嘘ではない。
 肩をすくませて謝ると、ウコン君は残念そうに眉尻を下げた。

「そっか。じゃあ、今日は諦めるよ。代わりにまた来週遊んでくれる?」
「え」

 それはそれで困る。だって、一応、私にはジャイさんという彼氏が。
 って、彼氏。ジャイさんが、彼氏! ちょっと奥さん、聞いた? ジャイさんが彼氏ですって!
 ウケるんですけどー!

 ……酔ってるのかもしれない。
 脳内でわけのわからんボケツッコミをしながら、あいまいに笑うしか出来なかったら、ウコン君はきゅっと握った手に力をこめてきた。

「俺、ここでお別れするの、けっこう寂しいんだよ?」

 ちょ、ちょ、っと、奥さん聞いた?! ここにかわいいコネコちゃんがいるんだけど!
 普段の私なら「寂しいとかサムイこと言ってんじゃねえよ。ケッペッ」とか言いかねないセリフなのに、すがるような目つきとフンワカ唇からこぼれるセクシーボイスが寒々しさを吹っ飛ばした。

「いや、えっと、あの、さ」
「来週、映画でも観に行こう。二時にまた六本木駅ね」
「あ、で、が」
「凛香ちゃんは地下鉄だよね? ここでお別れ」

 そっと背中を押され、そのまま地下鉄の改札を通り抜けてしまった。
 ウコン君はにっこりと笑い、「ホラ、終電来ちゃうよ」と駅のホームを指差す。

「う、あ」

 すっかり日本語がしゃべれなくなった私はうなずくだけうなずいて、仕方なくホームへの階段を降りる。
 振り返ると、ウコン君が手を振って見送ってくれていた。
 右手を少し振って、すぐに階段を駆け下りる。

 なんなんだ、なんなんだ。あのやり手王子は。ウコン王子だ! ウコン王子、怖い!

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【2010/03/14 02:48】 | Deep Forest(恋愛)
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