きよこの書き散らかし小説。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Deep Forest

目次へ
TOPへ

第41話 運命なんてものは

+++++++++++++

「俺は凛香ちゃんに会いたかったんだよ。それで、会えた。会って話したら、やっぱり面白い子で、かわいかった。親指で俺を思い出す女なんて、人生で初めて会ったわ」

 クスクスと笑いながらうつむくジャイさんを、私はただ見据えるしかなかった。
 思い出し笑いされてもな……。だって、ジャイさんの指の爪、幅と広さの比率が私のお父さんの額と同じ比率っぽかったんだもん。
 そりゃあ、インパクトでかくて覚えるでしょ。
 憮然として口をへの字にゆがめていたら、ジャイさんは笑うのを必死にこらえて、ゴホン、と一回咳払いした。
 態勢を立て直すため座り直し、もう一度ちゃんと向かい合ってくる。
 なんだかお見合いみたい。

「俺は正直に話したよ。凛香ちゃんは?」

 私に振るの!?
 目を丸く見開いて、自分の顔を自分で指差す。ジャイさんはウン、とうなずいて、どうぞとばかりに手を差し出してくる。

「わ、私は」

 一呼吸置いて、ゴクンと唾を飲み込む。
 きちんと話そう。整理出来ていない自分の気持ちを順を追って話していけば、答えが見出せるかもしれない。

「ジャイさんのこと、遊び人だと思ってる」
「いきなり矢を飛ばすな」
「だって」

 イテテ、と胸を押さえて痛そうに顔をしかめるけれど、私の言葉にそこまで傷ついていないようだ。

「やっくんと別れ話をして……何もかもどうでも良かった。復讐してやりたい思いもあったし、自分が消えてしまいたい気持ちもあったの」

 復讐なんて、火サスじゃあるまいし。実行するつもりなんてないけれど、心に宿る嫉妬の炎はそうやすやすと消えるもんじゃない。
 奥さんがいたとかふざけてんじゃない。奥さんも奥さんだ。旦那の手綱くらいしっかり握ってろよ。罵声を飛ばしてやじってやりたい。
 でも、自分の中にある『女』の部分がそれを阻止する。
 結局は嫌われたくないのだ。いい女を演じて、嫌われたくなかったのだ。

 だから、方向性を失った嫉妬心や復讐心は自分へと刃を向けた。
 誰でもいいから抱かれてしまおう。やっくんだけが男じゃない。そばにいる誰かがいれば、やっくんでなくてもいい。
 自暴自棄。

 壊れてしまいたかった。

「何もかもどうでもよくて、自分自身だってどうでも良かった。ふらふら歩いて、見つけたのが……」

 ジャイさんをちろりと見る。鋭い視線は真摯に私へと向かう。
 真剣な面差しを見て、ほっとする。
 同時に心苦しくもあった。

「ジャイさんだけ、ぽっかり異次元に立ってるみたいに、私にはジャイさんだけが見えたの。だから、声をかけた」

 都心のネオンは白くてまばゆくて。チカチカと目の端で光が踊る。
 すらりとした手足。体になじんだスーツ。重そうなビジネスバッグ。都会を颯爽と進む男の人の姿に―-私は憧れに似た感情を抱いた。

「誘ったのは、それこそ振られたはらいせだったから。ジャイさんともう二度と会うつもりもなかったし。ジャイさんと同じで、運命の相手だとか、私が見つけるだとか言ったのはテキトーなその場しのぎの言葉だよ」

 そう、その場しのぎの戯言。それが本当になるなんて、思いもしなかった。

「またジャイさんに会って、ジャイさんは私のこと気に入ってくれてるみたいってわかって、嬉しかったけど、怖い気持ちもある」

 ビールジョッキにこびりついた水滴を指先でぬぐう。冷たい感触に、冷静さもよみがえる。

「傷つきたくない」

 そうだ。どんなに言葉を連ねて違う理由を探しても、理由は私自身にしかない。保身しか考えていない。
 また誰かを好きになり、裏切られてしまうことが怖い。
 トゲが刺さったままの心を抱えて、トゲが自然に抜けるのを待つ日々は苦痛でしかない。

「ジャイさんとなんか……出会わなきゃ良かった」

 あんな出会いをした男を、どう信用すればいい?
 私から離れていかないって保障は? そんなもの、どこにもないってわかってる。
 結婚したってすぐ離婚してしまうようなご時勢なのだ。書類で縛っても、効力なんてありはしない。
 女に誘われ、ついていってしまうような男が、私から離れずにいてくれる確率ってどのくらい?
 ものすごく低いんじゃないの?

 舞子。あんたの言うとおりだよ。

 認めるよ。

 私は、ジャイさんを信用していない。セックスで始まった私たちが、互いをしっかりと信用するなんて、難しいんだ。
 私よりもいい女を見つけたら、ほいほいとそっちに行っちゃうんでしょう?
 だって、会ったばかりの女とエッチ出来るんだもんね?

「出会わなきゃ良かった、なんて極論だな」

 ジャイさんの低い声が怖くて、身を縮こまらせる。
 ひどいことを言っている。人を傷つける言葉を吐き出して、それでいいって思い込もうとしてる。

 恋愛に始まり方なんて関係ない。大事なのは過程だ。なんて、自分を納得させるため、自分に言い聞かせているだけだ。
 始まりを気にして、臆病になってる。
 隣に誰もいない環境を怖がり、怯えてるくせに、誰かが現れ去ることを何よりも恐れる。
 このまま独りでいるほうが、よっぽど楽に思えるのは……心が傷ついて壊れてしまったからなのか。

「俺を信用できない?」

 何も答えられず、首を小さく横に振った。横に振ったけれど、否定の意味は含まない。
 答えを出せないから、ジャイさんを傷つけたくなくて、無意識で首が横に動いただけだ。

「俺はやっくんとは違うってわかってる?」
「そんなの」
「やっくんの時と同じ目に合うのが嫌なだけじゃないの?」

 そうだよ。それの何がいけないの?
 何度別れを繰り返しても、その度に傷ついても、やっぱり二度と味わいたくなくて、びくびくしながらしか恋が出来ないんだよ。
 情けない。
 本当に、自分が、情けなくて、涙が出そうになる。

「俺のことを信用しろなんて、俺には言えない」

 うつむいたままの私の髪の先に触れ、ジャイさんは落ち着き払った小さな声でつぶやいた。

「言葉なんつーのは、いくらでも言えるからね。俺の行動を見てよ」

 目線だけを上げる。
 柔らかい髪の毛からのぞく切れ長の瞳は、間接照明の光を照らして、優しげに揺らいだ。
 心臓が跳ね上がって、反射的にまた下を向いてしまった。

「凛香ちゃんは、俺に『惚れさせてみせろ』って宣言した。じゃあ、俺は『俺を見ろ』」

 耳をつかまれ、引っ張られた。
 強い力ではなかったから痛くはないけれど、びっくりして顔を上げてしまう。
 ジャイさんと目が合う。
 すっと目を細めて、ジャイさんは意地悪げに笑う。

「その目んたま見開いて、俺を判断しなさい」

 俺はやっくんとは違いますからね、とジャイさんは声を弾ませた。

+++++++++++++

次話(第42話)へ
目次へ
TOPへ

拍手いただけると嬉しいです!

FC2blog テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2010/02/24 04:41】 | Deep Forest(恋愛)
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。