きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第38話 恋のカタチ

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 人生において、自分に関わるイベントっていうのは二十代を越えると三つしかないというのを、誰かから聞いた。
 成人式、結婚式、お葬式。以上。
 二十代という年代は、その三つしかないイベントの二つをほとんどの人が終えてしまう。
 もしかしたら、人生がめまぐるしく動く年頃なのかもしれない。
 その分、焦りを感じたり必死に走りすぎたり、制御できない自分を抱え、悩み苦しみ、右往左往するのかもしれない。
 三十代に入った途端、肩の荷が下りて楽に生きられるようになったという芸能人を、何度かテレビで観たこともある。

 あと数年で三十代へと突入する私は、どういう『私』になっているだろうか。
 未だ恋に悩み、同僚にちょっと転職の話を聞かされただけで、自分の仕事への熱意さえも疑問に思え、私ももっと将来を見据えなければいけないなんて考えてしまう、そういう自分をいつ終えることが出来るのだろうか。
 立派な大人になっていると、自負できるようになっているだろうか。

 昼休みの時間を、屋上で過ごすことが多くなってきた。
 梅雨の時期も終わり、本格的な夏が到来し、屋外にいるとジリジリと肌が焼ける。
 湯気が立ちそうな体を抱え、うんざりするくらいの蒸し暑さに辟易しながらも、やはりここに来てしまうのは、透き通るような青を見たいからだ。
 排気ガスまみれの空でも、白い太陽光線によって青さを増していく。
 ホイップクリームみたいな雲は真っ白に輝いて、光をよりまぶしくさせる。

 コンビニで買ったおにぎりを口の中に放り込み、ベンチに寄りかかった。風で衿元が揺れているのわかって、それがくすぐったくてたまらない。

「凛香」

 名を呼ばれ、閉じた目を開けると、英美子が私の顔を覗き込んでいた。
 ネイリストになりたいと話してきてから、英美子は昼休みを私と過ごしたいようで、ちょくちょく屋上に来る。
 他の同僚にはまだ話していないらしく、相談相手がほしいのだろう。

「座っていい?」
「どうぞどうぞ」

 右に体を寄せると、英美子は嬉しそうに笑い、腰を下ろした。

「昨日ね、転職の雑誌買ってきたんだ。スクール情報も載ってるやつ」
「へえ。見せて」

 ランチボックスを入れた小さなトートバッグから、分厚い雑誌を出してくる。『好きを仕事に!』とデカデカと書かれた表紙を見て、気が滅入りそうになった。

「英美子はなんでネイリストになりたいって思ったの?」
「事務の仕事って、退屈じゃない。お金のためだけに働くのって、私にはちょっと合わないなって思ったから。ネイルはすごく好きだし人と話すのも好きだし、資格を取りたいし。私に出来る仕事で、資格があるものっていったら、ネイリストかなって。仕事を充実したものにしたいの」

 鼻息荒く語る英美子を、雑誌を見るふりしながら横目で見た。
 頬を紅潮させ興奮気味に鼻を膨らませる英美子は、生き生きしているように見える。

「実はね、課長に辞めたいって話はしたんだ」
「え!?」
「この前の飲み会で、凛香と岸川さんと赤峰さん、転職を勧めてくれたじゃん? あの後、よく考えたんだけどね。打算的な考えだけど、私は女の子だし、転職が不利になる率も男の人よりも低いし。ネイルがダメでも、結婚するっていう逃げ道もあるんだもん。飛び込んでもいいかなーって」
「英美子、計算してるね」

 つい笑ってしまう。
 世の中を渡っていくのは、女の子の方がうまいんだろうなあ。

「うん。凛香がお嫁さんになる時は、ネイルを私がやってあげるね」

 差し出された手に、右手を乗せた。英美子は私の右手を軽くつかむと、ネイルを塗る真似をする。

「凛香、赤峰さんと付き合ってるの?」
「え!?」
「違うの? 飲み会の時、二人で話し込んでるの見ちゃったんだけどさ。すごーい親密な雰囲気だったから、付き合ってるのかなーって。取引先だから秘密にしてるのかなーって」

 赤峰って、誰かと思ったけど、ジャイさんのことか。
 英美子、のほほんとした顔してるくせにするどい。

 付き合ってるかといわれれば、付き合ってないけど。けども!

「あの人、クセはありそうだけど、いい人だよね。付き合えばいいのに。岸川さんも『あの二人は付き合ったら絶対うまくいく』って豪語してたよ」
「だ、で、けど!」

 私とジャイさんの関係に誰も気付くはずないと思っていたから、色恋沙汰に話が発展してまわりが色々言ってるとは思ってもいなかった。
 びっくりして、どう反応すればいいのかわからない。

「彼氏と別れたんでしょー? 赤峰さんのなにがご不満?」
「ご、ふ、まん、っていうか」

 不満なことって、何があるんだ。
 感覚的な部分過ぎて、明確な言葉に出来ない。

「うーん……うん。元彼のが優しかったし、気持ちが伝わる人だったし。私、わからないのって嫌なのかも。元彼は私をちゃんと『好き』って言ってくれたけど、ジャ、えと、あ……赤前さんははっきりしないし」
「赤前じゃなくて赤峰さんだよー。凛香って、けっこう人と人を比較しちゃう人なんだねえ」
「え……」

 涼しい風が、肩まで伸びた髪を揺らしていく。首元をなで上げる風に、一瞬、鳥肌が立つ。
 寒くも無いのに、スウ、と体が冷えた気がしたのだ。

 やっくんとジャイさんを比較し、ジャイさんとイケメンを比較していた。
 どちらがいいのか、天秤にかけ、選ぼうとしていた。

――私と奥さんを、天秤の上に乗せて、どっちにしようかって選ばないで。

 そう言ったのは、私自身なのに。

「赤峰さんは赤峰さんのいいところがあるよー。元彼と比較しないで、赤峰さんのこと、ちゃんと見てみればいいのにぃ。もったいなーい!」

 涙がにじみそうになる。
 私は、私自身がされて嫌だったことを、知らず知らずの内にやっていたのだ。
 ジャイさんが好きになれないんじゃない。
 ジャイさんという人間を、私は見てもいなかった。
 やっくんの姿を投影させ、その後ろにいるジャイさんと重ね合わせ、違う場所を見つけては『これは恋じゃない』と決め付けていた。
 やっくんという型を作って、それが私の『恋のカタチ』だと決め付けていた。

「うん、そうだね」

 目から鱗、ということわざをふと思い出した。
 まさに鱗をはがされ、事実を直視した瞬間だった。

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あとがき↓
あと10話くらいで完結させられたらなーと思ってます。
いつまでに完結させる!と宣言すると絶対それまでに終わらせられない・・・なんでだろう(苦笑)

アバターの3D版観てきました。
すごいですね、映像美!
幻想的な空間と奥行きを感じる映像、はまりこんで観ちゃいました。
話の内容はラストサムライみたいなかんじで、よくあるストーリーなんだけど、ストーリーうんぬんよりもあの世界観はすごい。

ロードオブザリングとかラピュタとか、3Dで観てみたいなー・・・3D化しないかなあ。


拍手&コメント、ありがとうございます。
いつもいつも励みになっています。
お返事はResにて返しています。



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あと10話くらいで完結させられたらなーと思ってます。
いつまでに完結させる!と宣言すると絶対それまでに終わらせられない・・・なんでだろう(苦笑)

アバターの3D版観てきました。
すごいですね、映像美!
幻想的な空間と奥行きを感じる映像、はまりこんで観ちゃいました。
話の内容はラストサムライみたいなかんじで、よくあるストーリーなんだけど、ストーリーうんぬんよりもあの世界観はすごい。

ロードオブザリングとかラピュタとか、3Dで観てみたいなー・・・3D化しないかなあ。


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【2010/02/08 03:45】 | Deep Forest(恋愛)
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