きよこの書き散らかし小説。
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Deep Forest

目次へ
TOPへ

第37話 人生に三度、モテ期到来

+++++++++++++

 新規作成の画面を開き、宛名に舞子のアドレスを入れる。

『西岡浩太って、どの人だっけ?』

 文面を打ち込み、送信ボタンを押すと、すぐさまケータイがブルブルと震えた。早すぎる反応に驚きつつも、ケータイを握りしめて「ちょっと電話」と席を立つ。
 居酒屋のトイレに続く廊下は両脇が個室になっているようで、小さな扉がずらりと並ぶ。その一角に身を寄せ、電話に出た。

『ほんと、凛香には呆れるわ』

 舞子の第一声はため息まじりの暴言だった。いきなりダメだしされて、ちょっと頬を膨らませながら、「なによー」とぶうたれる。

『いいかげん人の名前くらい覚えろっつの。幹事の男だよ、浩太は』
「幹事って……。イケメンか」
『第一印象でつけたあだ名だけはしっかり覚えてるってどうなの』
「すいません」

 本当にねえ……あだ名なら覚えていられるんだけどねえ。

『なに? 連絡あったの?』
「うん。今度飲みに行こうって」
『返事は?』
「まだ」
『行くの?』

 うーん、とうなりつつも、私の中では結論が出ている。

「一応、行くかな」
『そっか。ま、悪いやつじゃないからさ、恋愛感情が起きなくても友達になってやってよ』
「ん」
『あ、電車来るから切るわ。健闘を祈る!』
「ありがとー」

 どうやら舞子は帰宅途中だったようだ。電話の向こうから、人のざわめきや電車の通り過ぎる轟音が聞こえる。
 電話を切って、早速メールの返事をしようとしたら、ケータイの画面の前にぬっと指が現れた。

「ぎゃっ! 指のおばけ!」

 びっくりして叫んだら、「あほか」と笑い声が頭上から聞こえた。

「指のおばけってなんだよ」
「なんだ、ジャイさんのおばけか」
「俺はおばけじゃないんですけども」

 いつの間にやら出現したジャイさんは、私のケータイをパチンと閉じると、右の口角だけを上げてにやりと笑った。
 目の奥が意地悪げに光ってる。たじろいで身をひきかけたら、肩を掴まれた。

「イケメンがなんだって?」
「聞いてたの!?」
「ばっちりと」
「盗み聞きしてたの!? 変態!」
「男は誰でも変態ですから」

 ちっとも悪びれた様子も無く、逆に尊大な態度でにじり寄ってくるから、私はじりじりと後退するしかない。壁に遮られ、コンクリートの感触がひんやりと背中に伝わってくる。

「トイレに来たら、凛香ちゃんが話し込んでたからさ。ついつい聞いちゃいました」

 ついついって。ケータイを胸の真ん中で抱きしめ、睨みつけてやる。盗み聞きするなんて最低だ、と目で訴えてるのに、ジャイさんの顔のニヤニヤは全然なくならないどころか、悪化の一途をたどっている。

「デート?」
「だったら、どうするの?」

 もしかして、嫉妬してたりする? 嫉妬を隠すためのニヤニヤ? そう思ったら、急に自分が優位に立てた気がしてきて、私もニヤニヤしてきた。
 ちょっと挑発してやりたくなる。

「イケメンが私のこと気に入ってくれたみたい。イケメン! イケメンパラダイス!」
「あそ」

 あそ、で片付けられた。がっくり。

「今日、うちに来る?」
「は?」

 私の挑発に全く乗ってこないと思ったら、今度は家に誘われたよ。意味わからない。

「せっかく会えたのに飲みに来て終わりなのは、ちょっと寂しいんだけど、俺」
「え」

 顔面にビンタくらった気持ちだ。お酒のせいじゃないのに顔が熱くなる。物欲しげな子犬みたいな目を向けて、私の髪の先っちょを指先でいじくってくる。
 なにこれ作戦? 寂しい子作戦? かぎっ子の子供がおうちで独りで寂しいよ作戦?

「でも、今日は月曜だし、着替え持って来てないし、まだ一週間は長いし」
「じゃあ、金曜だったらいいってこと?」
「そうだね、金曜なら……」
「今週の金曜、八時に駅前で落ち合うか」
「え? 駅前って、ジャイさんちの駅ってこと?」
「そ。ちゃんとお泊りグッズ用意してくるように。うちに置いてっていいから」
「はーい」
「まあ、よいお返事。凛香ちゃんはいい子だねー」

 よしよし、というよりはグリグリと頭をなでられ、私の頭をもっしゃもっしゃにしたと思ったら、すたこらとトイレに入ってしまった。
 なんだよもう、髪の毛が雷様みたいになっちゃったじゃん。ふてくされながら髪を手すきで直して、はっとする。
 今、なんとなくよいお返事しちゃったけど、ええ?

「ちょ、お泊りって!?」


 ***

 合コンの席でその人の人となりを決めない、というのが私の信条であり、誘われたなら、まず一回はデートしてみようというのが私のルールだ。
 こう……なんだっけ? こう君だっけ? 彼だって私という人間の何かしらに魅力を感じてくれたからこうして誘ってくれたわけで、それを無下に断る理由が、今のところ私には無い。
 彼氏がいるわけでも好きな人がいるわけでもない。
 むしろ、忘れたい人を忘れるために、新しい恋を欲している。
 それならば、こんなチャンスを逃すなんて馬鹿らしいし、チャンスはしっかり掴むのが『モテる女』の極意ってやつだろう。

「モテ期!」

 そう。これは人生に二回だか三回だかしか訪れない、モテ期ってやつじゃないの? 振られて(しかも不倫だっつうんだから笑えない)かわいそうな私にくれた、神様からのプレゼントじゃないの?

「モテ期が到来した!」

 舞台女優のように体を一回転させてピタッと止まる。右手を前に差し出しポーズを決めたというのに、目の前に座る弟はゲームに首ったけだ。

「ちょっと無視すんなよ」
「邪魔なんだけど」

 弟がテレビの画面で勢いよく走るマリオカートに合わせ体を右に傾けるから、私もわざと同じ方向に体を傾ける。

「あ!」

 スリップしてチュドーンしたカートを見届けた後、テレビの電源を落としてやった。

「ひでえ」
「お姉ちゃんより大事なものなんて、この世には何も無いのよ、豊介」
「俺の姉貴は絶対、悪魔に魂を売ってる……」

 失礼なやつめ。
 くしゃくしゃの黒髪を抱えて泣きまねをする弟の隣に座り、どん、と焼酎のビンを置く。お父さんの隠し持っていた焼酎だが、どうせたいして飲まないんだから、今日飲んじゃっていいだろう。
 父は仕事が残業、母は「それはいい機会」と友達とゴハンに行ってしまっていない。こういう日は思う存分家飲みするに限る。

「飲むよ!」
「俺、未成年だっつーの」
「焼酎なんて、水よ水!」
「なんだよそのアル中っぽい発言」
「はあ、どうしよう……どっちの男にしようかしら」

 弟の失礼千万な発言は無視して、色っぽい(私の中では)ため息をつく。ちょっと言ってみたかったセリフを言ってみただけなのに、「息が酒臭い」と鼻を塞いで手を仰がれた。
 焼酎のビンで殴ってやろうかと思ったが、犯罪は犯したくないので我慢しよう。

「どっちの男にも告られてないくせに。とらぬ狸の皮算用って知ってる?」
「うっさい! 五歳の頃、近所の女の子二人に両側から『ほうちゃんは私の!』『私の!』って引っ張られて、『女の子って怖い』って大泣きしたくせに!」
「なんでそういうことだけはしっかり覚えてんだよ……」

 少しくらい、モテモテ気分に浸らせてくれたっていいじゃない。うちの弟はほんと生意気だ。

+++++++++++++

次話(第38話)へ
目次へ
TOPへ

拍手いただけると嬉しいです!


FC2blog テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

【2010/02/05 01:17】 | Deep Forest(恋愛)
トラックバック(0) |
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。