きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第36話 なんとなくの日々

+++++++++++++

 鳴り響く電話を取り、会社名を告げる。
 電話の向こうは取引先の会社で、納品書の内容が違うという用件だった。
 マウスをクリックし、ジャイさんの勤める会社が作ったシステムを使い、取引先の会社に送った納品書の詳細を調べる。

「商品コードが500―XMSですよね? 申し訳ありません。納品書のミスですので、至急正しい納品書を送付致します」

 電話越しなのに、頭を下げて謝り、受話器を置く。しっかり置いたことを確認して、私の真向かいに座る営業の川田を睨みつけた。

「川田さん!」
「お、おう」
 
 手持ち無沙汰そうにパソコンをいじっていた川田は、「またやっちゃった?」と言いたげな表情で罰が悪そうに頭を掻いた。

「納品書にミスがあったんで、直して送付してもらえますか? NO.143950の納品書です」
「なんだよ、佐村。機嫌悪いな」
「この取引先、川田さんの担当ですよ? また間違えたんですよ? 何度目ですか、今月何度目ですか、私の血管がすでにもう五本くらい切れちゃってるんですけど、そろそろ脳卒中で死んじゃうと思いませんか」
「すぐやります」
「お願いしますね」

 会心の笑顔を見せたのに、川田は顔面蒼白で速攻パソコンにかじりついてしまった。

「佐村の笑顔は鬼より怖い」「俺は席替えを要求したい」とかぶつぶつ言っているが、聞こえないフリをしておこう。

 机の端に寄せてあった伝票をつかみ、指で端をずらしてめくりやすくする。
 電話で中断してしまった仕事の続きをしようと、もう一度パソコンを見る。パソコンの画面に隠れて、人陰がちらついた。

「おはようございます」

 さわやかな低音の声を会社で聞くのは久しぶりだった。
 会社のシステムの変更はほぼ終わり、今は移行期間の点検くらいでしかジャイさんはうちの会社に来ない。
 一週間前ジャイさんの家に泊まって以来、ずっと会ってなかった上に連絡も取っていなかったから、なんだかとても久々に思えたし、気恥ずかしくもあって、ジャイさんから私の姿が見えないように身を低くする。

「佐村さん、お久しぶりです」

 席がばれてるから、無意味だった。
 口角がひくつくのをこらえながら、顔を上げる。

「お久しぶりです……」

 薄い唇に営業スマイルを張り付かせ、私に軽く会釈する姿は、この間ベッドを共にしたとは思えない他人行儀さに思える。
 こいつ、俳優とかになれるんじゃないの……。

「システムはどうですか? 不具合は無いか確認に来たんです」
「特には……」
「そうですか。じゃあ、これから他のフロアの方のところに挨拶に行くので、失礼します」
「え、もう」

 行っちゃうんですか、と聞きかけて、口をつぐんだ。
 ジャイさんは仕事で来ているのであって、私に会いに来たわけじゃない。
 公私混同もいいとこだ。

「あ、赤峰さん、今日暇ですか?」

 課長と話し込んでいた岸川さんがちょうど戻ってきて、ジャイさんに声をかけた。
 踵を返しかけていたジャイさんは顔だけを岸川さんに向けて、「暇ですよ」と笑顔を返す。

「今日、営業二課と一課の何人かで飲みに行くんですよ。赤峰さんもどうですか?」

 そう、今日は岸川さんと私と英美子で飲みに行く約束をしているのだ。
 で、それにジャイさんも来るってこと!?

「佐村も来ますし。システム完成祝いってことで」

 ポン、と私の肩を叩き、岸川さんは「ね?」といつもの優しい笑みを向けてくる。
 この笑顔を向けられて、「いやあ、私はジャイさんがいるのはちょっとぉ」とは言えない。岸川さんの得意技、『天使の笑顔でごり押し』が炸裂した。

「赤川さんも、ぜひー……」

 棒読みで誘う。ジャイさんも岸川さんに負けないくらいの優しい笑顔で「喜んで」とうなずき、行ってしまった。

「凛香ちゃん、赤峰さんだよ」
「え? 誰がですか?」
「……うん、なんでもない」

 岸川さんが頭を抱えたが、私、何か間違えた?


 ***

「そうなんですよー。ネイルやりたいんですー」

 酔いが回った英美子は呂律が回らないのか舌足らずなしゃべりで、ジャイさんに右手を差し出す。
 その指のつめには、自分でやったというネイルが綺麗に色付いていた。
 ピンクから透明にグラデーションがかかっていて、花の模様が人差し指に描いてある。
 遠目から見ても女の子らしくてかわいいネイルだ。

「赤峰さんはあ、どう思いますかあ? 転職してえ、いいと思いますう?」

 ボブカットの髪を揺らし、上目遣いでジャイさんを見つめる英美子に、いらっとする。
 こんにゃろう。ジャイさんに媚び売るんじゃねえ。

「いいんじゃないですか? やりたいことを見つけて、それを仕事に出来るってうらやましいですよ」

 当たり障りの無い返答が英美子は気に入らなかったのか、ぷくうと頬を膨らませ、ビールを一気に飲み込んだ。
 ちょっとかわいいぞ、英美子のやろう。

「給料とかあ、安くなっちゃうしぃ、平日休みで、土日遊びに行けなくなるしぃ、休憩の時間もろくにとれにゃいっていうしい、迷ってるんですう」

 とれにゃいって、言った! ムカツクを通り越して、カワイイ。
 すっかり思考回路がオヤジ化してるのか、英美子の仕草にニヤニヤしちゃってるのは、むしろ私だ。

「英美ちゃんは人当たりがいいから、接客業向いてるんじゃない? やりたいこと見つけられるのって、いいことよ。事務は経験してるんだから、もしネイリストの仕事をやってみて向いてないって思っても、事務に戻ろうと思えば戻れるんだし。一度やってみたら?」

 岸川さんの先輩らしいアドバイスに、私もジャイさんのウンウン、と大きくうなずいた。

「なんかうらやましいなあ。好きなことを仕事にしたいって思えるの……」

 グデングデンに酔っ払って、目がすっかりラリってても、英美子の姿は輝いて見える。
 なんとなくで仕事して、なんとなくで日々を生きてる私よりも、きちんと自分の人生に向き合う英美子がうらやましいのだ。

 人のことをうらやましがっても仕方ないけど、片や結婚、片や転職……花開いていく友人たちの姿を傍観するしかない自分が、ちっちゃい存在に思えて情けなくなってくる。
 恋人もいなけりゃ、その辺で男を拾っちゃうし、仕事は年数だけ重ねてちゃらんぽらん。
 頑張ってるつもりだけど、何も実になってないような気がしてしまうのは、先が見えないからなのか。

 ため息をこぼしながら、ふと手元を見ると、テーブルに置いたケータイがメールの着信を知らせていた。

『この間は楽しかったよ。ありがとね。また飲みにいかない?』

 メールの送信者は、『西岡浩太』。
 ――って、あの三人の内、どれ?

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【2010/02/03 03:06】 | Deep Forest(恋愛)
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