きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第33話 幸せになってほしくて

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「あ、そろそろ時間。行こうか」

 言うだけ言って、舞子はそそくさと立ち上がってしまった。
 私も慌ててバッグをつかみ立ち上がる。
 コーヒーの苦みが口の中に残って、舌が痛む。ぐっと噛みしめる奥歯がぎりりと悲鳴をあげた。

 ――ジャイを信じきれないから、逃げてる。

 舞子の言葉が、脳内で反響してぐるぐる回る。
 反論することさえ出来なかった。だって、私は、舞子の言ったことそのものを、気持ちが揺らぐことが起こるたびに逐一不安になって何度も考え込んでいたのだ。

「舞子は信用してないの? 男の人が言う言葉」

 会計を済ませ、店の外に出る。湿気のこもった外気がむわりと鼻を通り抜ける。梅雨ももうじきあけて、夏は目の前だ。

「男の人が言う言葉って?」

 私の三歩先を進む舞子は、歩くスピードを緩めることなく、ちらりと私を見て問いかけてくる。待ち合わせ時間に遅れてしまいそうなせいか、舞子は少し不機嫌気味だ。

「さっき言ってたじゃん。愛してるとか好きとか、言葉なんて信用できないって」
「だってそうじゃない。男なんて平気で嘘つくよ。下手くそだからすぐばれるけど。愛のある態度とそうじゃない態度なんて、すぐ区別つくでしょ」
「それは……そうだけど」

 同意はしたが、どうもはっきりと「そうだよね」とは言えなかった。
 私は鈍い。人の気持ちの機微ってもんを、いまいち理解できてないのかもしれない。自信がもてない。

「凛香」

 いきなり足を止めて、振り返ってきた。びっくりして前のめりになりながら立ち止まる。
 目の前で仁王立ちする舞子は威厳たっぷりのオーラを発散させながら、怒鳴るように告げてきた。

「恋は頭でするもんじゃない。心で感じるもんだ!」

 ふん、と鼻息を吐き出し、胸をのけぞらせて偉そうにする舞子を呆然と見つめる。いきなり何を言い出すんだ、舞子ってば。

「それ、なんかどこかで聞いたことあるセリフ」

 思わずそう言ってしまったら、舞子は頬を膨らませて、また歩き出してしまった。慌てて舞子の後を追う。

「凛香見てると、いらいらするよ。気持ちはわかるけど、いつまでも昔の恋をずるずるするのは褒められたもんじゃないよ。別れるのには別れる理由がちゃんとあるんだよ。どんなに思い返してもどんなに後悔しても、もう戻れないし、やり直せない。やっくんとジャイは全然違う人間なんだよ? やっくんとの恋愛を照らし合わせて、ジャイへの気持ちと向き合わないなんて、馬鹿らしい」
「だって」
「恋愛経験なんていくら積んだって、全部が全部同じようなことになるとは限らないじゃん。人と人との出会いは全部、初めての経験になるんだよ。頭でっかちになって、『こういう男はこうだろう』って決め付けるのもったいない」

 会社帰りのサラリーマンやOLがごったがえす新宿駅の前で、舞子は朗らかな笑みを私に向けた。どちらかというときつい顔立ちの舞子が、初めて春の陽光みたいな優しい笑顔になっている。
 いつもはつりあがりがちな目も、今日はタレ目に見えるのだから、変な感じ。

「舞子、変」
「失礼ね! 人がこんな人ごみのど真ん中でちょーいい話をしてやったのに!」
「でも、変。なんかあったの?」

 ゆるくウェーブした髪を掻き、目線をそわそわと移動させる。プリーツスカートのひだを整えながら、舞子は頬を赤く染め、聞き取りづらい低い声で言った。

「結婚、する」
「え?」
「……大と結婚することになった」
「嘘!」
「ほんと」

 人の話にはずけずけと物申せるくせに、自分のこととなるとからきし何も言えなくなる舞子は、いつもの尊大な態度もどこへやら。小さく身を縮こまらせ、恥ずかしそうにうつむいたまま、私と目を合わせてくれようとさえしてくれない。

「だから、凛香にも、幸せになってもらいたくて」

 なんなんですか、このツンデレ娘。かわいすぎて、私まで顔が赤くなってくる。
 告白しあったカップルみたいに顔を真っ赤に染めながら向き合う女二人。通りすがるサラリーマン達が不審そうに見てくるが、この際気にしない。

「高校からずっと一緒だったし。凛香の恋愛は色々聞いてたし。心配してんだよ、これでも」
「わかってる。ありがとう」

 恥ずかしくてたまらない。でも、嬉しくてたまらない。
 高一で同じクラスで仲良くなって早十年。お酒が飲めなかった頃はファミレスで、お酒が飲めるようになったら居酒屋で、いつもいつも飲んだくれながら語り合った気心の知れた友達の存在の大きさを、今になって実感する。

「とりあえず、合コンですから」

 やっと舞子は顔をあげる。ニタリと浮かぶ意地の悪い笑顔は、いつもの舞子だ。

「ジャイ以外にももっといい男がいるかもしれないし!」
「舞子さま、打算的」
「女は打算と計算ともののけ姫のサンで出来ているのよ」
「最後のサンだけ、思いっきり無理やりだよね」

 つっこんでやったのに、一緒に合コンに参加する女の子が来てしまい、私のツッコミは華麗に無視されてしまった。

「向こうの幹事から『飲み屋に先に行ってて』ってメールが来てるから、行きますか」

 舞子を先頭に新宿駅の東口に向かい歩き出す。
 新宿駅の白い光がふわふわと目の前を白くさせる。浮ついた気持ちが隠しきれず、高揚が足を弾ませる。

 舞子が結婚。そっか。ついにその時が来たのか。

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【2010/01/19 03:40】 | Deep Forest(恋愛)
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