きよこの書き散らかし小説。
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Deep Forest

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第32話 気持ちと心、アウフヘーベン

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 朝、ジャイさんに叩き起こされ、始発の電車に乗って家に向かった。
 夜露の残った朝もやの中、ぼんやりと空を見上げる。湿った空に薄い膜がかかったような雲が横たわり、雨の匂いを漂わせる。
 今日は雨が降るのかもしれない。

 慌しく帰ってしまったから、夜の余韻を思い出せない。
 腕の中の心地良さに安心しきって、気付いたらジャイさんにしがみついて寝てた。子供が父親の腕の中で安らいで寝る時のように、私はジャイさんの温かさに包まれていたのだ。

 朝、五時前。寝ぼけ眼のまま、ジャイさんと歩く駅までの道のりは長いようで短かった。まるで恋人同士のように手をつなぎ、愛おしさを残した視線を絡ませあって、別れを告げあう。
 改札を抜け、振り返って手を振る瞬間。
 寂しくなったのは、一晩を共にしたからだろうか。

 初めて会ったあの日の朝は、雨の名残を残しながらも空は晴れ渡り、白い光を滲ませていた。私の心を反映するかのような、晴れ模様だった。
 なのに、今日はどうだ。
 天気が心を映す鏡なら、今の私の心境は曇り空だ。

 どっちつかずの気持ちは、いつまでたっても晴やしない。
 心はどこに向かうのだろう。
 落ちていくのも上向いていくのも、自分の気持ち次第だ。
 次の恋を望んでいるはずなのに、躊躇するのは、何かが私の足枷になり身動きを取れなくしてしまっているからだ。
 私は、何がしたいんだろう。
 迷路をさまよう心は、一向に出口を見つけてはくれない。

「おかえり」

 家の玄関を開けたところで、母親と出くわした。寝起きの不機嫌丸出しで、私をじろりと睨んでくる。

「ご、ごめんなさい」

 何も言われてないのに、先に謝ってしまった。

「別に、朝帰りするなとは言わないけど。あんたもいい年だし。でも、ちゃんと連絡くらいはしなさい。心配するでしょう」

 深く頭を下げ、うなだれるしかなかった。
 テンパリすぎて、家に帰れないって連絡するの忘れてた。

「……彼氏?」
「……と、ともだち」
「彼氏じゃないの? そっちのほうが心配だわ。早くいい彼見つけなさいよねえ。ちゃんと結婚できるのかしら」
「善処します……」

 善処ってなにすんだよ。

「仕事行くんでしょ? 早く準備しなさいな」
「うん」

 寝癖で爆発した髪の毛をなでつけながら、母はキッチンに引っ込んでしまった。父親がいたらどうしようかと居間を覗いたら、すでに出勤したようで、飲み終わったコーヒーカップがぽつんとテーブルに置いてあるだけになっていた。
 お母さんだけでよかった。お父さんまでいたら、どんだけ怒られたことか。
 二十六になったって、娘は娘だ。こうやって朝帰りすることは何度かあったけど、その度に同じように怒られる。
 ただ、二十五を越えてから、増えたワードがある。

『結婚』

 やっくんを思い出す。
 お母さんにも、ましてやお父さんになんて絶対話せない。
 既婚者と付き合い、略奪婚しそうになりました、なんて。

 どう考えても、どんなにやっくんを思い出しても、やはり答えはひとつしかない。
 別れるしかなかった。
 略奪婚のすべてを否定する気なんてないけど、私には出来ない。
 私には、無理だ。

 それでも、気持ちのどこかでは、いまだにやっくんを求めてる。

 だから、心は迷走を止めないんだ。

 シャワーを浴び、服を着替える。髪を整え、鏡と向かい合う。ストレートの髪はいつの間にか伸びて、前髪がちくちくと目をつつく。
 涙が出そうになる。

 いつになったら、私は出口を見つけるんだろう。
 気持ちはいつ区切りを知るのだろう。
 心はいつ晴れるのだろう。


 ***

「もうさあ、ジャイでいいじゃん。なんでそんなに迷うかねえ」

 週末の金曜、十九時に新宿駅で舞子と待ち合わせをしていた。
 駅ビルの中にあるカフェに入り、まったりとお茶を飲む。

 販売員の仕事をしている舞子はどちらかというとカジュアルめな服装をしていることが多いのだが、今日はOL系の服装にびしっと決めていた。
 パープルのパフスリーブのカットソーにはスパンコールのリボンがあしらってあって、オフホワイトのプリーツスカートとよく合っている。
 どうみても合コン仕様の洋服だ。

「だってさあ、ジャイさんだよ?」
「意味わかんないし」

 いや、私だってよくわからん。

「舞子こそ、今日は大丈夫なの? 大君にばれないようにした?」

 大君とは、舞子の彼氏の名前だ。体育会系のがっちりとした体型をしたイケメン君なのだが、舞子の尻にしかれっぱなしの草食男子だ。

「だいじょーぶ。合コン行って来るって言ったし」
「よく許可してくれたね……」
「私、浮気しないもん」

 さらりと言ってのける。さすが、舞子。
 今日は二十時から合コンなのだ。うだうだしてる私のために、舞子がセッティングしてくれたのはいいが、どちらかというと舞子のほうが浮かれている。

「久しぶりの合コンだー。職場は女だらけだし、彼氏が長くいると男友達との付き合いも薄くなるし、男との接触が彼氏だけでさあ! 飢えてる。飢えてるのよ! 飢えた狼なの!」
「……お持ち帰りとかしないでよ。大君に私が怒られるわ」

 血に飢えた狼はニヤニヤと気味悪い笑みを浮かべながら、カフェラテをすする。

「ところで、ジャイの何がご不満なわけ? エッチで始まった恋が嫌だとか?」
「それは、別に。始まりなんて関係ないじゃん。恋愛は過程が大事だよ」
「それじゃあ、何がひっかかってるの? 凛香ってばずっとそうじゃん。ずーっと奥歯になんかひっかかったみたいな言い方ばっかり。はっきりしなよ」

 はっきりしろと言われても。
 自分だってよくわかってないのに、どうはっきりすればいいんだ。

「……やっくんの時みたいに、不安な思いをするのが怖いんじゃないの?」
「え?」
「凛香とジャイはセックスして始まったから、凛香は不安なんだよ。ジャイも本当は平気でいろんな女と寝る男で、浮気も平気でするんじゃないかって。やっくんみたいに平然と本命以外の女に手を出して、自分のところからいなくなっちゃうんじゃないかって。愛してるとか好きとか、言葉なんて信用できやしない。ジャイを信じきれないから、逃げてる」

 ごくりと飲み込んだコーヒーが喉元に苦味を残して、胃の中に落ちていった。

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あとがき↓
あけましておめでとうございます!
新年の挨拶が相当遅れてしまいました(^^;
販売の仕事をしてるので、年末年始は忙しくて。

昨年はブログを立ち上げ、たくさんの方にご訪問いただいて、本当に素敵な一年でした。
不定期更新の遅筆サイトですが、今年もどうぞよろしくお願いします。


拍手やコメント、ありがとうございました!
お返事をResにてしております。


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あけましておめでとうございます!
新年の挨拶が相当遅れてしまいました(^^;
販売の仕事をしてるので、年末年始は忙しくて。

昨年はブログを立ち上げ、たくさんの方にご訪問いただいて、本当に素敵な一年でした。
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【2010/01/09 04:06】 | Deep Forest(恋愛)
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