きよこの書き散らかし小説。
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Fly high, High sky

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第16話 美月の行方

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「え……なんで」

 ついさっきまで美月はそこにいた。なのに、隣のベッドには美月の姿は無い。
 トイレに行った気配も、どこかに隠れるような動きも、何も無かった。
 本当に忽然と、美月はいなくなったのだ。
 事態が把握できず、冷や汗だけがどっと溢れ出る。
 乱れたシーツに触れる。ひやりと冷たい。寝ていたはずの美月の温もりはどこにも無い。

「え、と。み、美月? どこ?」

 声を出し、返事を待つ。冷房の作動音だけしか聞こえない。
 溢れ出す汗をぬぐい、ベッドから這い出る。美月はいたずらが好きだ。あせる私を、どこからか見ていて笑っているに違いない。

「もう! つまんないよ、こういうの!」

 半笑いで怒鳴りながら、ユニットバスのドアを開けた。暗闇が漂うだけで、人の気配すらない。トイレの横にある風呂桶の中も覗き込む。覗き込まなくても丸見えだったからそこに何も無いのはわかっていたけど、確かめずにはいられなかったのだ。

「美月?」

 剥き出しの肌が冷房の風によって鳥肌に覆われる。両手で二の腕をさすり、部屋を振り返る。しんと静まり返った室内には、私以外の人の気配はどこにも無く、闇だけが存在していた。
 体がのしりと重くなる。氷の粒で体中を覆われたみたいに、冷気が私を食らいつくそうとする。

 なんなんだ。なんなんだ、これは。

 まるで、美月なんて最初からいなかったみたいな、この雰囲気は、一体なに?
 美月の荷物は鏡台の隅に置いてある。美月が寝ていた形跡のあるベッドだって、美月の存在を主張する。ぽかりと美月の姿だけを抉り取ったみたいに、最初から無かったことにされたみたいに、美月の存在だけが消えうせていた。

「嘘でしょ……」

 フロントに電話をかける。美月はこっそりと部屋を出て行ったんだ。きっと、風に当たりに、外に出たんだ。
 フロントの男性が電話に出たから、私は女の子が出て行かなかったか、その辺に女の子はいないか、怒鳴るように聞いた。
 私の勢いに戸惑っている様子で、男は「誰も通っていないし、女の子もいません」と声を上ずらせた。
 どうせ、寝ぼけて周りをちゃんと見てなかったんだろう。ビジネスホテルのフロントなんて、きっと使えないやつが多いんだ、そう言い聞かせて、部屋から飛び出る。
 エレベーターを降り、フロントに駆け寄ると、電話で聞いたことと同じことを聞いた。電話に出た男と、フロントにいるこの男は同じやつだろう。
 しどろもどろに「先ほどの方ですよね? 電話でお話したとおり、ここを通った人はいません」と答えるだけだった。

「でも、いなくなっちゃったんです。どこかにいると思うんですけど」

 食い下がる。だって、おかしい。こんなことあるはずない。ほんの数分前まで一緒にいた子が、突然姿をくらますなんて、ありえない。

「ちょっと、待って下さい」

 フロントの男は、困惑した様子のまま、奥の部屋に行ってしまった。仕方なく、私はガラス製のドアごしに外を眺め、美月らしき人がいないか探してみる。
 入口が裏通りにあるためか、人通りは一切無い。街灯の白い光に虫が群がっているのが、影になって見えた。

「あのう」

 さっきのフロントの男とは別の、整った身なりの女の人が眉間に皺を寄せながらも作り笑いを浮かべて話しかけてきた。

「お連れ様がいなくなったとお伺いしたんですが……」

 この人、チェックインした時にフロントにいた女の人だ。だったら、美月のことを見たはず。
 なんとなく安心して、短く息を吐いた。

「あの、私と一緒にいた女の子……目がくりっとしてて、長い黒髪が綺麗な子、覚えてますか? あの子がいなくなっちゃって」
「え? あの……チェックインされた時に一緒にいた方ってことですよね?」
「そうです。私の後ろにいた……」
「私は、お客様お一人しか姿を拝見しておりません。お友達は、どこにいらしたんですか?」

 息が吸えなくなりそうになり、ゴホ、と咳をした。
 チェックインした時、宿帳に名前を記入して……その時、美月は私のすぐ後ろで、「和実って、なにげに字綺麗だよねー」なんて茶々を入れてきた。

「私のすぐ後ろにいました」

 すがるような思いで、言った。声がわずかに震えた。

「思い違いを……されていませんか? お客様しかいらっしゃいませんでしたよ? お二人でのお泊りだとおっしゃっていたのに、もう一方の姿が見えなかったのでよく覚えてます。お友達、いなくなってしまったんですか? 私たちもお探ししますが」
「あ、いえ……大丈夫。すいません」

 頭の中が真っ白だ。
 どういうこと? 美月がいなかった? そんなバカな。つい数時間前のことを思い違いするなんて、ありえない。
 美月はすぐ横にいた。ずっといた。

 頭を下げ、すごすごとエレベーターの前に戻る。上のボタンを押し、エレベーターが来るのを待つ間、もう一度、玄関を見た。

 神隠し? 人が突然いなくなるなんて、神隠しってやつしか思い浮かばない。
 一瞬のまどろみの中で私は、現実とそっくりそのままの異世界にワープしてしまったんじゃないだろうか。
 こんな馬鹿げたことがあってたまるか。

 ようやく一階まで降りてきたエレベーターに飛び乗り、自分の部屋に戻る。美月が戻ってきてるんじゃないかと一縷の望みを抱いて部屋のドアを開けたが、やはり、そこには夜の闇しかなかった。

「なんで? どういう、こと?」

 わけがわからない。乾いた喉に無理やり唾を流し込み、電源を切っていたケータイをつかむ。
 わなわなと震える指に「ちゃんと動け!」と活をいれ、電話をかけた。

 誰か。助けて。
 なにが起こっているのか、教えてほしい。

『もしもし』

 電話に出た懐かしいテノールの声は、混乱した頭にじんわりと染み入る。溢れ出る涙をこらえきれず、嗚咽をこぼした。

「知己……!」

 電話の向こうの知己が、よそよそしく冷たい空気を孕んでいた。でも、私は気付かないふりをした。
 なぜ知己を頼ってしまったのか、冷水を浴びせられたかのように、一気に冷静になってしまった。

『なに?』

 別れたのに、今更なんだよ? そう言ってきそうな感情の無い声が怖かった。

「ご、めん。美月が……いなくなっちゃって。あせっちゃっただけ……」

 すぐに切ろうと、ケータイを耳から話そうとした時、知己の声に温かみが戻ったのがわかった。
「どうしたんだよ?」と心配そうに問いかけてきてくれたのだ。

「美月と、一緒に旅行に、来てる、んだけど、美月が、突然いな、いなくなっちゃって。どこに行ったか、わからないの」

 横隔膜が痙攣して、うまくしゃべれない。

『なに? はぐれたの?』

 はぐれたのとは違う。だって、美月は消えたのだ。マジックショーみたいに、一瞬で消えてしまった。

『美月ちゃんのケータイに電話かけて出ないなら、美月ちゃんの親か自分の親に電話して聞いてみろ。もしかしたら、先に帰ったのかもしれないし、連絡が来てるかもしれない』
「うん」
『電話、出来るか?』
「うん、平気」
『電話かけたら、俺に連絡しろ。和実はテンパるとなにしていいかわからなくなるだろ。俺に聞けばいいから。いいか? 美月ちゃんと親に電話かけるんだぞ』
「うん」

 鼻水をすすりあげ、電話を切る。
 美月の携帯電話に電話をかける。何回かのコール音のあと、留守電に切り替わってしまった。

 これはきっと、夢だ。
 連日の運転で疲れきった体が、脳みそが。私に悪夢を見させているのだ。

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【2009/12/05 03:48】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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