きよこの書き散らかし小説。
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Fly high, High sky

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第14話 心の傷

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「潮干狩りに行った時のこと、一昨日だっけ? 話したじゃない」
「うん」

 美月の顔が見れず、幻想的な夜空をじっと見据える。星と星をつなぐ線が現れ、これがふたご座だとかこぐま座だとか解説をしているけれど、ちっとも頭に入ってこない。

「……あさり、いっぱいとって、おすそ分けしたじゃん」
「そうそう。私、何軒も近所中歩き回ったもん」

 思い出して笑ってしまう。けど、美月の笑い声は聞こえない。
 空しくなって、乾いた笑いが口元にびたりとはりついたまま、顔が強張ってしまった。

「隣のおじさんに、あげた」

 消え入りそうな声はカタコトになっていて、聞き取りづらい。
 私は腰をあげて座り直し、美月の方に顔を傾けた。

「少し、寄って行けば、って家に、あがった」
「……おじさんに『家に寄って行きな』って言われたの?」

 主語の無くなった言葉は、意味を明確に伝えてはくれない。美月の言葉ひとつひとつを汲み取り、聞き返すことで、文脈を探ろうとする。

「まだ、子供だったから。わかってなかったの」
「うん。だって、小学生だったもん」
「あさりのお礼をするからって、言われて」

 震える美月の声が、プラネタリウムの解説の声と重なる。優しい響きが震えて消える。

「家に、上がったら、ね」

 話の筋は、察しがついていた。
 でも、美月が意を決して話そうとしているのを邪魔したくなくて、押し黙る。

「体を、触られた」

 ああ、と嘆息することしか出来なかった。
 どうして、気付かなかったんだろう。美月がずっと負い続けてきた陰は、小学生の、まだたった十歳の時に美月の背中にどさりとのしかかっていたのだ。

「胸を触られて、あそこも触られた。怖くなって、ひっぱたいて逃げた」
「うん」
「おじさんは、私が中学生になる頃に引っ越していなくなったけど、男の人の手が、怖くて、汚らしく思えて、でも、きっとあれは夢で現実じゃなかったって、何もなかったって、あのおじさんはもういないし、なにも怖がる必要ない、あんなことするのはあのおじさんだけだ、そう思って、逃げて、逃げて、逃げて、でも、でもね」

 早口にまくし立て、しゃくりあげる。
 涙交じりの声が、プラネタリウムの空に溶けていく。

「男の人が、怖かったの……」

 喉の奥がじわりと痛む。
 圧迫される痛みに、私は唾を何度も飲みこむ。

「あのことを夢だと思い込もうとして、いろんな人と付き合ったけど、結局、怖くなる。初めてエッチした時は勢いでなんとかなったけど、その後からは嫌悪感しかなかった。求められるから答えたけど、本当はしたくなかったの」
「……そっか」
「駿介には、全部話してから、付き合い始めた」

 目の前に広がる星が滲んで歪む。水滴を落としたみたいに広がり、ゆるゆるとたわむ。

「駿介は、支えてくれるって言ってくれた。でも……最後は支えきれなくなっちゃったみたいで、いなくなっちゃった……」
「……そうだったんだ」

 何も言葉が出てこない。
 唇が震えて、肺から空気が押し出され喉で詰まる。苦しくてたまらないのに、私は我慢した。そうしなければいけない気がしたから。

「今も、怖いんだよ」
「何が、怖いの?」

 美月の返事は無かった。

 ただ、満天の星を見つめるだけだった。


 ***

 人生はめまぐるしく変化する。
 たくさんの出来事が目の前を動いて通り過ぎる。
 翻弄されるのは、まだ世の中の渡り方ってやつを学んでいないからなのだろうか。
 私たちは、まだ人生の始まりの一ページを書き終えたに過ぎない。
 これからの長い人生を語る上での、序章を描いたに過ぎないのだ。
 それでも、それがあまりに過酷で辛く思えるのは、大人になりきれていないからなのだろうか。

「ふがーーーーーー!」

 美月が突然叫ぶから、私は驚きすぎてブレーキを踏んづけてしまった。
 急に停まったせいで、慣性の法則に従い、体が前のめりになり後ろにのけぞる。

「14でごわす!」
「はあ?」
「サイコロだよう。14が出たのー! ほらほら、ここ、見て!」

 運転してる最中だっつーのに美月は道路地図を押し付けてくる。後ろの車が車間距離を詰めて煽ってくるから気が気じゃない。
 バカ美月のせいで後ろの車におかまほられたら、しゃれにならん。

「見られないから、口で説明して!」
「うふふ」

 気持ち悪い含み笑いをして、美月は大きく手を広げた。

「ディズニーランドの方に行けるんだよーーー!」

 ……福島から浦安に逆戻りかよ……。

 まだまだ続く運転にうんざりしながらも、ディズニーランドには行きたくて足が軽くなった。

「それじゃあ、行きますか」
「行かれますか」
「ディズニーランドーーー!」

 同時に叫ぶ。私はアクセルを踏み込み、美月は窓を全開に開けて、外に向かって叫ぶ。

「ミッキー! あ-いーしーてーるー!」

 某芸人の物真似です。一応、補足。

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【2009/11/30 04:03】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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