きよこの書き散らかし小説。
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Fly high, High sky

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第13話 夢見る乙女

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4号から県道に入り、森林の中や畑の合間をひた走る。過ぎ行く景色を横目に、車は軽快に進んでいく。
 高原へとさしかかっているのだろう。道路は時折波打ち、その度、体を右に左に振られながら、私たちはそれでも和気藹々としゃべる。
 昼過ぎ、あぶくま洞の看板を見つけ、疲れた体を鞭打って、アクセルを踏んだ。
 広い駐車場には車が数台停まっているだけで、どうやら客は多くはなさそうだ。
 学生は夏休みに入ったとはいえ、やはりまだ混雑する時期じゃないのだろう。

 古びた建物の入場券売り場でチケットを二枚買い、浮き足立ちながら、洞窟への入口に進む階段を降りる。
 私たち以外に人はいないらしく、洞窟の中に入っても、声ひとつしなかった。

「妖怪の岩だって。怖いー!」

 どろりと融けたような岩が、まるで大きな手の平を広げて襲ってくるような格好でせり出している。
 美月は大げさに体を震わせて、横を通り抜け、どんどん先に進んでいく。
 滑らかな岩で覆いつくされた空間は、ドライアイスをところどころに置いたみたいに冷たく、冷気が漂っている。真夏の暑さなんてどこかに置き去りにしたような切り取られた異空間に、体も心も底冷えする。
 鳥肌のたった腕をなでながら、岩と岩の隙間を通り抜ける。
 大きなモミの木に似た三角形を連ねた岩や、滝をそのまま凍らせたような岩。水によって少しずつ模られた自然の芸術に目を奪われながら、一歩一歩歩を進める。
「クリスマスツリー」だとか「きのこ岩」だとか名前がつけられた岩を見つけるたび、美月は「ほわあ」とか「ぎょえええ」とか変な奇声をあげて喜んでいる。

 ……私たち以外に誰もいなくて良かった。

 細く長い道を抜けると、吹き抜けのように天井の高い空間に出た。ライトアップされたその光景にゴクリと息を飲む。
 大きなシャンデリアのような岩が上から垂れ下がり、壁は奇妙な形をした突起がいくつも空に向かい背を伸ばす。赤や青や緑の光が、ぬらりとした岩を妖艶に照らし出していた。
 映画のセットみたいで、急に違う世界に迷い込んだ気がして怖くなった。
 迫り来る岩に押しつぶされる気がする。光の届かない天井の、黒い闇の中で、何かが蠢いている気がする。

「なんか、怖いね」

 ぼそりと美月に向かって囁いたが、美月の返事はない。
 柵の手すりをぎゅっとつかみ、そこに悪魔でも見つけたみたいに、中空を睨み続ける。その形相があまりに怖くて、私はわざと美月の肩を思いっきり叩いてしまった。

「びびってんの!?」

 大きな声を出して笑ってみせる。
 美月は呆けた顔を私に向けたが、ふと真顔に戻り、小さくため息をついた。

「見とれてただけだよ。和実こそ、びびってたの?」
「まさか」
「もう行こう。見とれすぎて、首が痛いよ」

 美月に促され、私も渋々ついていく。
 もう少し見ていたい気持ちもあったけど、早くここから去りたい気持ちもあった。
 ここは荘厳で美しく、日常から隔離された、別の空間のようだった。
 だからこそ、触れてはいけない気がして、近付いてはいけない場所にたどり着いてしまった気がしたのだ。

 名残惜しくて、振り返る。
 入れ違いで来た私たちと同い年くらいのカップルが大きな声を出して「きれい!」「すげえ!」と騒いでいる。

「美月」

 呼びかけても、美月は振り返らない。

「美月!」

 怖くなる。なんだかわからないけど、後ろから鬼がせまってくるような、焦燥感に駆られる。

――世界で一番嫌いなものってある?

 そう問いかけてきたのは。昨日の夜、そう問いかけてきたのは。
 ……美月だ。
 あの声は美月だった。

 自分が一番嫌いだと、そう言ったのは、美月だ。


 ***

 プラネタリウムにも入ったが、私と美月しかいなかった。
 ゆったりとした椅子にもたれかかり、180度の夜空を眺める。
 運転の疲れが薄暗さのせいでよみがえって、目が開けられなくなってきた。
 せっかく料金を払ってるんだし、きれいな夜空を満喫したいところだけど、たぶんあとちょっとしたら私は寝てしまうだろう。

「高校の時に」
「ん?」

 美月の声で、はっと目が覚めた。
 誰もいないから、しゃべっても平気だと思ったのだろう。美月はいつもと変わらないトーンの声でしゃべりだした。

「初めて、彼氏が出来たじゃない、私」

 あれは高一だったか。私と同じクラスだった男の子が、美月に一目惚れしたって大騒ぎして、私が美月を彼に紹介してやったのだ。
 なかなかのイケメンだった彼を美月は気に入って、すぐに交際はスタートした。
 ラブラブになった二人は登下校もいつも一緒で、私は美月に速攻でないがしろにされた。
 女の友情はなんて儚いんだと、世を哀れんだものだ。

「あの頃ってさあ、一緒にいるだけで幸せでさあ。手をつなぐだけでドキドキして。そばにいるってことの幸せを死ぬほど噛みしめてた気がする。でも、エッチしちゃったら、なんていうのかなあ……欲望が最優先されてさあ、愛なんてどこに落ちてんだろうって、悩んだもんだよ」
「高校生が愛なんて、絵空事にもほどがあるでしょ。あの頃の恋愛なんて、ほとんどが恋に恋した夢見る乙女だよ。相手の何が好きとかじゃなくてさ、恋してる自分が好きなの。要は、横にいた男は自分を投影する鏡だったんだよ。思いっきり美化してくれる、さ」

 たくさんの人と付き合っても、未だにその人自身を愛してるなんて、言えない。
 ほんとの愛なんてものは、いつになったら出会うんだろう。
 いや、むしろ、本当の愛ってやつに、気付けるのだろうか。わがままと自己満足の恋愛ばかりを繰り返しているのに。

「私、高一に付き合ったあの人以来、誰ともエッチしてないんだ」
「嘘! だって、駿介とはけっこう長いよね? 二年は付き合ってるでしょ? それなのにヤッてないの!?」

 思わず大声を出してしまって、慌てて両手で口を塞ぐ。
 一応周囲を見回すが、やはり私たち以外は誰もいない。安心して、ほっと肩を下ろす。

「あのね、和実。私、今までずっと誰にも言えなかったことがあるの。自分の中で、無かったことにしたくて、夢だったって思いたくて。怖くて辛くて、言えなかった」

 プラネタリウムの、満天の星空。
 獅子座の流星群がどうたらこうたら、女のナレーターの声が優しい声で解説してる。
 いくつもの星が降り注ぐ。
 線を描き、一筋、一筋。

 ふと見た隣の美月の頬には。

 あの空の、空を裂いて落ちていく流星のような涙が、零れ落ちていた。

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【2009/11/30 04:01】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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