きよこの書き散らかし小説。
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Fly high, High sky

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第12話 俗世を楽しむ

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 宿はなかなか見つからない。明かりの灯されていない店が時折現れるくらいで、田んぼがずっと連なっている。
 疲れもピークに差しかかり、目がしょぼしょぼしてくる。眠気がぐわっと襲ってきて、私は思わず車を路肩に止めた。

「ちょっと寝ていい?」

 と聞いたら、美月はすでに寝ていた。
 自分勝手なやつだなあ。
 車の後部座席に放り投げていたタオルケットを取り、美月のお腹にかける。女の子は腹を冷やしちゃいけませんからね。

 車のギアをバックにいれ、少し先にあるラーメン屋らしきお店の駐車場に車を入れた。お店の明かりはついていないし、朝になる前に出ればここに停めていても大丈夫だろう。
 私もタオルケットに包まり、窓を少しだけ開けて、エンジンを切った。
 風が通るよう、助手席側の窓も開けたから、涼しい風が車内を通り抜けていく。
 今日は風があるからか暑苦しくない。よかった、そう思いながら目をつぶる。

 今、何時だろう。腕時計を見る。九時過ぎ。普段なら起きてる時間だ。ずっと運転していたから疲れた。景色がぼんやり歪んでいく。眠気で、視界さえもおかしくなってきてる。
 うつらうつらしながら、窓の向こうを眺める。白い光がふわりふわりと動いていた。
 ああ、蛍だ。そう思いながら、私は夢の世界に落ちていった。

 ――世界で一番嫌いなものってある?

 誰かが問いかけてくる。

 ――私はね、私が世界で一番、嫌いなの……




 ***

「わ、ああ」

 窓を叩く音に跳ね起きた。視界が真っ白に染まったままで、何がなんだかわからない。噴き出す汗で、ようやく太陽がすでに昇りきっていることに気付いた。

「こんなところに車止めて、何してんだ、おめえら」

 禿げ上がったおじさんが、ステテコ姿で窓の隙間から唾を飛ばして怒鳴ってくる。寝癖で乱れた髪を整えながら、私はひたすら謝った。

「女の子がこんなところで寝てたらあぶねえだろうが! 襲われても知らねえぞ!」
「すいません。すぐ出て行きます」

 と言ってる真横で、美月は大あくびしながら「お腹すいたー。ラーメン屋さんでラーメン食べようよう」と寝ぼけたことを言ってやがる。

「バカッ! すいません、すぐ出るんで」

 エンジンをかけようとしたところで、おじさんが「飯なら食わせてやるぞ、金は払えよ」とぶっきらぼうに顎をしゃくった。

「わあい! おじさん、やっさしいい!」

 美月は寝起きだっつーのに跳ねるように車から飛び出していった。おじさんははげ頭をぼりぼり掻きながら、正面にあるラーメン屋さんの暖簾をくぐって店の中に入っていく。
 美月も入ってしまったから、仕方なく私も車から出た。
 歯磨きもしないで寝ちゃったから、口の中がもにょもにょしていて気持ち悪い。ラーメンを食べさせてもらったら、歯磨きもさせてもらおう。
 暖簾をくぐり、店に入ると、カウンターに座って美月が足をばたつかせているのが目に入った。
 子供……。

「べっぴんさんたちは、ラーメンでいいのかい? 朝っぱらからラーメンは重くないか?」
「んーん。全然平気!」

 私は重いって思ったが、美月の浮かれ口調についていけず、口を挟む気になれなかった。

「あんた、芸能人か何かかい? あんたみたいな綺麗な女、テレビ以外で初めて見るわ」

 ラーメンを作りながら、おじさんは無愛想にそう言った。
 美月は真っ直ぐな黒髪を後ろで結わえながら、「おじさん、口うまいねー。これはラーメンもうまいぞー」とおだてている。
 食い意地だけははってる美月、おだても饒舌だ。

「辛いことでもあったのかい? 芸能人がこんな辺鄙なところに来るとは」

 芸能人だなんて一言も言ってないのに、もうおじさんの中では芸能人になってしまったようだ。
 美月も否定すりゃいいのに、めんどくさいのか何も言わない。

「それともあれかい? 俗世を楽しもうってことかい?」
「うん、そう。桃源郷探し!」

 すっかり忘れていたが、旅の目的はとうへんぼく……もとい桃源郷探しだった。
 美月がそのことを覚えていたことも驚きだ。

「あいよ、しょうゆラーメン」

 二つ出てきたラーメンをすぐさま食べ始める。
 お金の節約に、ゴハンはほとんどコンビニだった。旅といえばご当地グルメだっつうのに、美月のケチケチっぷりには呆れるばかりだ。
 ゴハンは? と聞くたびに、コンビニでいいじゃーん。おにぎりやサンドイッチばかり。そんな風に節約するくせに、お菓子はたんまり買ってガツガツ食べるんだから、節約の意味があるんだかないんだか。

 お腹もすいていたのと、意外や意外にラーメンがおいしかったのとで、あっという間にラーメンを完食した私たちは、二人分のラーメン代をテーブルに置き、歯磨きもさせてもらって店を出た。

「お嬢ちゃん、ちゃんと家に帰るんだよ」

 車に乗り込んだ私たちに、おじさんはそう声をかけてきた。

「ちゃんと、家に連れて帰ってやってくれよ」

 私に向かって心配そうにつぶやいてくる。まるで、私が親で、美月が小さな子供みたいな扱いだ。
 家出娘に思われたのだろうか? 私が保護者扱いなのがちょっと気に食わないけど……。
 不服に思って美月を睨んだら、美月はお腹をなでて「ごっつあんです」と相撲取りの真似をしている(相撲取りの真似をしているとわかるのは私だけだろう。美月の物真似は誰にも理解出来ない代物だ)。
 ……これじゃあ、しかたないか……。

「大丈夫です。ちゃんと帰ります」

 私がうなずくと、おじさんは満足そうに笑みを浮かべて手を振ってくれた。

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【2009/11/29 03:44】 | Fly high, High sky(青春コメディ)
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